表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第貳章 きっかけは、突然に
141/501

第貳章 きっかけは、突然に 1P


               *


大きな窓から穏やかな日差しが差し込む役場の一室。正確に言えば、町長の執務室にてブランとオウルが互いに額に眉を寄せながら昨日の出来事について話していた。


「全く、あの二人には困ったものだ」


ゆったりと深く、革張りの肘掛け椅子に座り、葉巻をふかし、一息。草臥れた茶色の背広を着込んだブランは、己の眉間を右手で揉む。どうやら昨日の疲れが抜けきれない様子。その堕落した様を執務室に置いてある寝椅子に腰掛けながら手元にある書類に目を通す黒縁の眼鏡を着用したシャツとスラックス姿のオウルも流石に責める事はなかった。結局、後始末で夜が明ける少し前まで動く羽目になったと聞けば、誰もが目を瞑るに違いない。逆を言えば、オウルが顔色一つ変えず、仕事へ従事する方が可笑しい。


「そう言うお前の声色には、ほぼ困ったと言う雰囲気が皆無だが?」


「いや、結果的に面白かったから良かったよ。大事には至らなかったし。フェール家の一家離散は、無事に防がれた。少なくとも事情さえ事前につかめてさえしなかった僕には、何も出来なかったし。それを彼らはいとも簡単に解決してしまった」


「事実を言えば、本当に偶然の賜物だ。されど、彼や愚息が町の見回りを行うと決めた瞬間から決まっていた出来事だと納得するしかない」


目じりの皺を深くしながら笑うブラン。


一方、思い出すだけでも馬鹿らしい話だと目頭をそっと抑えて嘆くオウル。


「オウルさん、そうだね。ましてや、こうも堅実に課題をクリアして行くなんて」


「この件も彼への課題の判断材料として加えるつもりか?」


二人の話題は、ランディの課題にも言及して行く。少し驚いた様子のオウルは一度、書類から目を離した。ブランは、喜々として話を続ける。


「勿論。良くも悪くも巷じゃ、その話で持ち切りさ。何処から漏れているのかは、知らないけど、面白おかしく語られている事だからね」


「あまり、公にすると話が拗れる可能性があるからと関係者には、口外するなと釘を刺したつもりだったのだが……正に人の口には戸が立てられないとはこの事か」 


「当然だよ。イヤでも関係各所への情報共有があれば、火の様に話が広まるのは必死さ。その話は、さておき。今回の件は、『自警団活動記録○一』とでもお題目はしておこうか」


「その題目だと、自警団の印象が下がるのではないか?」


「別にこれは、町で発表するモノではないし。誰の目にも触れなければ、問題ないでしょ?」


「……それなら異論はない」


あくまでも課題は、ランディとブランの間における私的な契約に近いのだからブランの言い分は正しい。知っているのは、ランディに近い一部の町民のみだ。


「彼がいると僕は、本当に飽きが来ないや。僕が思った以上に派手な事をしてくれる。もしかすると、中々の逸材をこの町は迎え入れてしまったのかもしれないね?」


「私としては彼の評価が少し下がったところだ。愚息とは違い、素行の良い好青年だと思っていたのだけれども……」


立ち上がり、部屋の片隅に置いてある水差しの下へ近づくとブランは、徐に杯を手に取り、喉を潤した。その様子を横目で追いながら苦言を呈すオウル。


「良いじゃないか。ランディも例に漏れず、普通の若者だってことが分かって僕は嬉しい。先の事件みたく、苦しむ彼を見るよりは百倍も一千倍もマシだ」


「確かにその点についても異論はない。だが、しかし……何といえば良いか。今回の件は、少し目に余る。如何様にもやり方があった筈だ。大人としての自覚がだな――――」


「オウルさんも本当に堅物だな。僕たちだってあの歳の頃には、色々とやらかしていただろうに。忘れてしまったのかい?」


日差しを反射した埃が舞う窓辺へ視線を動かし、目を細めながら在りし日を懐かしむブラン。哀愁を漂わせるその様は、普段垣間見る事のない大人びた雰囲気を纏っていた。


「あれはお前とあいつが勝手に私を振り回していただけだろう! 俺! いや、私は本当に苦労させられた。例を挙げれば、暇がない。とんでもない年増に俺を嗾けさせて危うく婚約まで行く話になったり、突発的な野宿をして食に困った結果、良く分からん根菜を食い、幻覚に襲われて翌日、真っ裸で寝ていたり。揚句は、詰まらない理由で憲兵隊と殴り合いの揉め事を起こしたりと……」


手元の書類を目の前の机に勢い良く置き、オウルは、珍しく語気を荒げてましてや、自分の一人称を間違える程に動揺しきっていた。その情けない姿を見て壁に寄り掛かりながら口元に手を当てながらブランは、ころころと笑う。


「オウルさん。全部、仕方がなかったんだ。あの名前を忘れた……まあ、良いや。仮名でご令嬢とすると。

ご令嬢は元々、僕との縁談で来たんだ。けど、どうしても破談にしたかったからねー。もうあの頃には僕、エルがいたし。野宿は、あの人が他の町やら村から来ていた子へ片っ端から手を出してそれが露見して余熱が冷めるまでの苦肉の策だったし……」


自分の椅子に戻り、ゆっくりと腰掛けながら言い訳にならない言い訳を論い、オウルの批難をいなそうとするブラン。


「全部、お前らの都合じゃないか! 野宿の件に至っては今、理由をはじめて聞いたぞ! ふざけるな。よくもまあ、たまには男同士で星の下、語り合うのも悪くないなどとのたまったものだ! あの言葉を真に受けていたのは私だけだったのか……」


 嘗ての良く言えば、純真な。悪く言えば、馬鹿真面目な自分にオウルは、腹立たしい。


疑いを持つことは、良くないけれども全てを真に受ける事も間抜けがする事だ。


「いや。でも最後の殴り合いに関してはオウルさんの都合でしょう。あれは、確かに穏便にすませられたけどあの人が先走しらなければね。ルー君、生まれてないよ」


「うっ……仕方がなかったのだ。お前も知っているだろうが! 当時、家内は――」


図星を突かれて言葉を詰まらせるも何とか、反論するオウル。されど、言葉に先ほどまでの勢いは、全くなかった。


「オウルさんが幾ら御託を並べようとも皆、助け合いが必要だったから。仕方がないねー」


「くそっ! 百歩譲ってお前の事は目を瞑る。だが、あいつの件には納得が行かん!」


オウルは、立ち上がるとブランの目の前に移動する。そして机に手を突くと、感情に任せた言い分で食って掛かる。


「まあまあ。そろそろ、昔話はこれくらいにしてこれからの話をしようか。少なくともランディには、ちょっとこの町の住人として自覚を持って貰った方が良いかもしれない。面白い事は良いけど、行き過ぎは良くない」


やんわりと宥めるブランに少し熱を持ち過ぎたオウルは、落ち着きを取り戻した。


「珍しくまともな事を言う……何だ、今日は、変な薬でも盛られたか」


「僕は、いつもまともだよ、失礼な」


「お前がまともかは、どうでも良い。それより何か、良い案はあるのか? 確か、レザンさんから無理矢理、処罰の件を受け持ったのだろう?」


「はてさて、どうしたものか……」


「あれだけのたまったのだから何か妙案があると考えていたのだが……やはり無策か」


「そんなに深刻な話ではないからね。ちょっとした罰を考えていた所さ」


「私としては、何か奉仕活動を課すことが一番だと考える」


至極真っ当で詰まらない提案に辟易したブランは、首を横に振る。折角のおもちゃで遊べる順番が回って来たと不謹慎な考えしかないブランからしてみれば、オウルの提案は、到底理解出来ない。眉間に皺寄せて少し考えた後、灰色の瞳を輝かせた。毎度の如く、禄でもない事であろう事を察したオウルは、身構える。


「よし! ランディには今日、少し面倒事を抱えて貰うことにしよう」


「人の話を聞け!」



「詰まらないから町長権限で却下。早速、ランディを僕の家に。話は、セリ君にお任せだ」


「お前は! ……分かった、取り計らっておく。そろそろ私も自分の執務室に戻る。後、忘れていたが今日は、定例会だ。忘れるなよ?」


一度は、考え直すよう促したものの、これ以上に関われば、自分の身が危ない事を察したオウル。保身を優先し、心の中でランディに謝罪しつつ、自身の持ち物を手早くかき集め、身を翻して扉から出て行く。勿論、去り際に本日の予定を確認する事は忘れずに。


「了解。……さてと、今日もなかなか良い日になりそうな気がしてきた」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ