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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第壹章 新しい朝
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第壹章 新しい朝 6P

「ええ」


「先にも言ったが王都の近況や国政、周辺国との現状が知りたい。どうもこの町は冬になると情報網が少なくなって新しい情報が伝わり辛いのでな」


「はい、分かりました」とランディは二つ返事で了解すると話を始めた。


「まずは王都ですが、そこまで変わりはないです。国王も他の王家の方々も御健在ですし。この前もですね、毎年恒例の寒中水泳大会に王様はご参加されています」


「まあ、王族関連で何かあったら直ぐに情報は来るからな。だがまだそんなものをやっていたのか―――― 誰か死人は出なかったか?」


「何とか死者だけは出ませんでした。でも道ずれの文官の方で何人かが……失神を」


「そうか、それは災難だったな。それでは次は国政に関しての話を頼む」


レザンは差ほど興味がないようで次の話題を催促した。薄情かもしれないが死人が出ないだけ万々歳だろう。


「国政ですか。確か、年齢や持病で一カ月前に何人かの大臣が交代。軍事関連の話ですと、軍部はいつも通り暑苦しいですし、盗賊や暴力団などの被害も幾つかありますが内戦はありません。王国内は、ある程度安定しています」


「それは良かった……だが、その話し方だと他国の方には問題はありそうだな」


レザンは俄然、興味が湧いたようで身を乗り出して声を潜める。悲しいかな、男と言う生き物はきな臭いことや思想などの話題には直ぐに食いつく。小難しい顔をして途方もない議論をするのが好きなのだ。


「流石にレザンさんも分かりますよね。まずは情報が入り易い公国ですが、今月の初め、遂に小規模な内乱が起きました。どうやら、一部の諸侯たちが現政権を握っている髭大公へ反旗を翻しているようで」


「まあ、その確執は前々から分かりきっていたことだからな。逆に今まで持っていた方が奇跡だっただろう」


「忙しい国ですよ。あそこは」


「全くだな、大戦の傷跡も癒えていないと言うのに」


ランディとレザンは首を縦に振る。


「次は神聖国ですね、あの国は俺自身がそう言った人との繋がりがないので簡単なお話しか出来ませんが、何か大きな祭り事があるようでピリピリしています。何でしたっけ、確か……」


名前が思い出せないのか、ランディは歯に物が詰まった時のような顔をして話を途切らせる。


「生誕祭か」


話を進めたいレザンがすかさず、正解であろう名前を出す。


「そう、それです。王都にいる『心神教』の方々は聖地巡礼だのと、とても忙しそうでした」


「それは個人の自由だからどうしようもないがな。後は共和国と『空白地帯』……帝国か」


「そうですね。共和国は大戦後からずっと半分鎖国状態で聖国よりも情報はないので俺から改めて話せるようなことはないです」


「空白地帯はまだ睨み合いを続けているのか?」


「いいえ……昨年、いやこれまでにないほど荒れています。各々が持つ画策を全面に出して他の意見は一切受け付けず、足の引っ張り合いで泥沼状態。にっちもさっちもいきません」


ランディはやれやれと頭を横に振る。


「帝国は―――― 今年に入って軍事の強化に奔走しています。どうも何がきっかけかは分かりませんが焦っているようです」


此処まで一気に話をしたランディはコーヒーを飲みながら一息を吐く。


「そうか。共和国は別としても空白地帯はまだ当分収まりそうにもないな。ただでさえ、土地が少なくなって来ているこの大陸で一番手を出しやすいのがあそこだからそれは仕方がない」


「ですね」


「帝国は武力に拘っているからな。見過ごせないことが何かあったのだろう」


最古の有史以来、おおよそ一万年と言う長い期間の中で発展と進歩の波に揉まれて行くうち、ある大陸に大きな五つの文明国が出来た。大陸の名は中央大陸と言う。五つの文明国とは王国、帝国、公国、共和国、神聖国を指す。それぞれが固有の種族により様々な経緯で作り出され、長い時間を掛けて発展した。今日に至るまで独自の文化や社会環境を生み、人の営みの形として残っている。しかし、人は増えて行くうちにある問題に直面した。土地の問題だ。


中央大陸自体はとても広い。だが、人が落ち着いて移住可能な場所は限られていた。多くの人間が住む地域以外は日中が五○度を平気で超す灼熱地獄の砂漠や永久凍土が続く氷雪地帯、沼地が続くジャングル、火山帯などと特殊な地形ばかりでそれぞれの環境に適応した動植物しか暮らせないような前人未到の土地しかない。あまりに過酷な環境では進化は促せても分化は育ち難い。建国当初はどの国も自国の領土で満足出来たが人が多くなるにつれ、数少ない土地を奪い合うようになるのは必然だった。


そしてそんな五つの国は覇権を争うとは行かないものの、一歩抜きん出た指導権を握ろうとして戦争をはるか昔からずっと続けていた。そんな下らないことを繰り返し、世界は成り立っている。また、土地の問題以外にも様々な確執があり、全ての要因が揃って大戦は起きたのだ。


「話せることはもうこんなものなので、次は俺ですね。じゃあ……」


ランディには話を続ける気があったが生憎、夜も更けてしまった。


「いや、今日はこれまでだ。話に熱中し過ぎて気付かなかったが時間も遅い、明日にしよう」


「―― 本当ですね、全然気付きませんでした。ではまた明日もお願いしても?」


「勿論だ」


切りの良い所で話を切り上げて二人は食事の後片付けを始めた。治ったとしてもランディも油断をするべきではないし、レザンも朝が早い。片付けが終わり、部屋に戻ったランディはベッドに入って寝る前に今日のことを少しだけ振り返る。


「殆ど寝ているだけだったけど、助けてくれた恩人を知ることが出来た。夜は他では聞けないような興味深い話を聞けた」


ランディにとって『Chanter』に来たことは正しい選択だった。何故なら今までボロボロだったランディは此処に来てもう息を吹き返し始めているからだ。


「二人とも優しい人だった、この恩は絶対に返したい」


しかも漠然とはしているが当面の目標も決まった。ランディにはそれが嬉しかった。


喜んだ理由はもうふわふわと浮いて宛てのない旅をする必要がないからだ。


「フルールの言ったことは分からなかったけど。多分、正しいんだろうな……」


 やはり、ランディにはどうしても甘え上手という言葉が分からない。


 「それが出来るのと出来ないのとでは何が違うというのだろうか。あそこでは極力、自分の身は自分で守ることが絶対で助け合いはあったけど、甘えることは不必要だった」


 暗闇の中でランディは難しい顔をしながら悩むが一向に答えは出ない。


『甘えは即刻、死に繋がる』


 これまでの二年でランディはこの言葉を徹底的に叩きこまれた。今まで信じて来た絶対的なものとは正反対で、腑に落ちないのは当たり前。全くもって、難儀な話だ。


「そうだ、思い出した。反省しないと。あれだけの無茶をしたのはやっぱり間違いだった」


 フルールに怒られた自身の愚行をきちんと反省するのも忘れない。衝動的に行ったとは言え、頭を冷やすべきだった。しかも一番の問題は二人に多大な迷惑を掛けてしまったことだ。良い大人な筈なのに自身の行動の責任が取れなかったランディは恥ずかしいことこの上ない。


「レザンは面白い人だ。色々な話をしてくれたし、此処で働かないかとも誘ってくれた」


 提案はとっても嬉しかった。微々たる力でも役に立つならば此処にいたいのが本音だ。


「この町に住めるようになったら頼もう……」


また『Pissenlit』で働くことはレザンに対しての恩返しに何か繋がるのかもしれないと考えていた。色々と考えているうちに意識が遠のく。後は明日にとランディは眠りにつくのだった。

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