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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第壹章 自警団会活動記録〇一
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第壹章 自警団会活動記録〇一 16P

銀貨三百枚でも優に三か月は暮らして行ける金額だ。その百倍と言えば、大袈裟に驚くランディに共感出来るであろう。もっと言えば、それだけあれば田舎町でならば簡素な邸宅を一軒立てられるのだから誰もが驚く程のとんでもなく破格な提案だったのだ。


「なら、今から学びなさいな。これから貴方たちは仕事で上の立場に行くにつれてこれ以上の金額を動かして行くのよ? 学んでおいて損はないわ。生かすも殺すも貴方たち次第、勿論、きちんと運用されているのであれば、少しだけ飲みの足しにして貰っても構わなくてよ。出来れば、投資信託等にも手を出して資金を増やすと言うのもアリね」


「流石の僕でも話がぶっ飛び過ぎて着いて行けないよ」


「まだ、僕たちはそんな期待値を提示していないもので何が、何だかさっぱりです」


「元々、貴方たちは資質を備えていたわ。この前の事件をたった三人で解決したその手腕。本来ならば国から表彰を受けるに値する事よ? でもブランちゃんが事の顛末を意図的に事実とは違い、歪めて報告したのよ。多分、何か理由があっての事でしょうけど。そしてその代わりに相応の地位としてこの町に限定した力を持つ自警団に貴方たちを任命したの」


思わぬ所で自警団結成の事情を知り、内心では驚く二人。ただ、これ以上の詳しい話を聞こうにもローブは事情を知っているようではないので黙っていた。別段、功績を称えて欲しい訳ではなかった。彼らからしてみれば、ちょっとしたズレに過ぎない。何よりも二人は、信頼をおくブランが理由もなく、偽りの報告を上げる訳がないと思っていた。


「でも私としてはこの町の一翼を担うものとして貴方たちに恩返しをしたかったの。そしてそのきっかけは今日、このような形として私に与えられたわ。男の子が何を尻込みしているの。寧ろ、こう言う時はどんと構えるものよ。私はこれから貴方たちの思想に皆がどんどん共感して行くのを見据えて先行投資をしているの。私としてもその見立てが当たれば鼻が高いし、ブランちゃん以上に自慢が出来るのよ。どうか、このおばあちゃんの数少ない道楽に付き合って頂戴」


明朗な理由と押しの強いローブに負けてランディ達は首を縦に振らざるを得なかった。


「……分かりました。成功するか、否か。でももし、俺たちが失敗すれば、全額を働いてお返しします。それで良いよね、ルー?」


「君もつくづく粋狂な御仁だね。よし、僕もその案になら乗ろう。何もリスクがなければ、自制も出来ないし、何よりも責任感を養う事が必要とせんせいがおっしゃるんだ。ならば尚更だよね」


「ふふっ、強情な坊や達ね。私は失う物なんてないから返さなくても良いのに。でも投資家として扱ってくれるならば、もう私は何も心配する事はないわね。頑張って頂戴」


人の無償な善意を受け取るならば、リスクも共に負い、自身を律する。そうでなければ、ランディ自身が落ち着かないのだ。


「そう言えば、非公認の団体ではあるけれども営利団体ではないし。私の方で掛け合って口利きが出来れば、無駄な課税もないと思うわ。あんな事があった後なら話もとんとん拍子で進むに違いないでしょう」

「そもそも僕は話を半信半疑で受け止めているから課税なんて思いついてすらいないよ」


「左に同じです」


どんどんと話が大きくなって行くにつれて最早、置いてきぼりの二人の頭上にはクエスチョンマークが踊っているに違いない。


「案外、税金って馬鹿に出来ないものよ? 後で追徴が来てびっくりする事になるわよ? ましてや、自警団としての口座も作っていないでしょうし。いざ納税するとなると色々な申請も必要でそれだけで貴方たちの自警団としての業務に多大な支障が出るわ。勿論、そう言った事も団長として自分を据えたブランちゃんは考えて動いているのでしょういけどね。事は急を要しているわ、貴方たちは外に出て思うが儘に正解を求めて自由に動きなさい。事務方の仕事はブランちゃん、場合によっては私が補ってあげるから」

「大変、在り難い申し出に感謝致します。二人揃って邁進して参りますので。どうぞ、宜しくお願いします」


深々と頭を下げる二人にローブは微笑みながら長方形の紙包みを手渡した。


「これが出資金の百ルボロよ。どうか、この町が末永く面白可笑しい町としてやって行けるように尽力して欲しいわ。期待しています」


富や権力を盾に威張り散らす事で威厳を保とうとするのではなく、それとなく他者を思いやり、己の矜持に殉じる事で自然と威厳を感じさせるローブの威風堂々した姿に感銘を受ける二人。大海を知り、また一つ己の矮小さを悟ったこの日の経験は必ず、後の二人の人生に生かされる事は間違いない筈だ。


                   *


「どうしよう……思わぬ所で濡れ手に粟だよ。今日はやけについてると思っていたけど、こんな事になるとは想像もつかなかった」


「いや、僕が褒める事なんてあんまりないけど、君の行いが良かったからだと思うよ。始まりは何て事のない道端の花がきっかけで最後は間接的な出来事とは言え、大金が転がり込んで来るなんてそうそうない事だ。でも、これで一生分の運を使っちゃったんじゃない?」


澄んだ空気のお蔭で月明かりが程よく石畳を照らし、篝火により行く先の視界も良好。


時より、吹き付ける寒風に身を震わせながら歩く二人。勿論、ローブから受けた感銘は長続きなどしないし、直ぐにその経験などは生かされる訳がない。それよりも思い掛けない幸運の印象が強過ぎて霞んでしまうのも仕方がない。


「かもしれないね……」


満天の星を見上げつつ、気も漫ろなランディが素っ気なく言う。


「でも今日は本当に驚いた。僕も日頃の行いを改めようかな? 君の純粋さを見習って町の困っている人へきちんと手を差し伸べるべきだとは思っていたんだけどね。中々、余裕がなくて出来なかったんだけど、気持ちを改める日が遂に来たようだ!」


「多分、君のその改心は打算的な思考から来るものだから絶対に間違っていると思う。これは真面目な意見だけど、ただ素直に気持ち悪がられるだけだ」


「冗談だから本気にしないで……でも正面から人物評をぶつけられると心に響くよね。これでも繊細だからちょっとは気をつかって欲しいな」


遍く星たちへ気を取られながらもランディは至極、真っ当であった。但し、いつもの様に言葉を選んで相手が傷つかない様にする配慮はなく、直球の意見をぶつける。


いや、疲労が溜まりに溜まった結果と言えば、仕方がない事だろう。


「てっきり、止めて欲しいと思ったから正直な意見を述べたまでさ」


「それは、それは。お優しいことで」


勿論、ルーもそれを察してか、余計に騒ぐこともない。自分も充分に疲れていて足を動かすだけでは気が重いから軽口を言っているだけなのだ。


「それにしてもこのお金の運用はどうしようか。今すぐに必要とすることもないし。取り敢えず、ブランさんに預かって貰うのが賢明かと思うんだけど」


「僕もそれには賛成だ。ああ言って売り言葉に買い言葉じゃないけど、格好つけて見栄は張ったからには何かしたい。ただ、現状は僕たちにそんな知識も伝手も特技もないからブランさんにお任せが楽だよねー」

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