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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第壹章 自警団会活動記録〇一
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第壹章 自警団会活動記録〇一 15P

唐突にローブは頬に手を当てながら浮き浮きと見合い話を持ち掛けて来たので精一杯、笑顔を顔に張り付けて断るも困り顔を隠しきれないランディ。


「ふふふっ、そう真面目にとらないで頂戴。……そうね、大よそ貴方の見立ては正解と言っても過言ではないかもしれないわ。但し、少々頂けないのが自分から切り出して誘導尋問の様にさり気なく情報を集めようとする所ね。前職のお仕事柄から来ているのかもしれないのだけれど、それは人の内面に踏み込んで行くには大変失礼な事だわ。しかるべき時に本人へ直接、聞くことよ。多分、他の方に聞いても同じ事を言われるから注意なさい。勿論、貴方にも思うところがあるのは理解出来るから尚更の助言だと思って頂戴ね。私は貴方とフルールの関係を拗らせて間違った溝を作りたくないの」


翻弄されるランディの中に冷静で意欲的な大人の一面を感じ取ったローブは釘を刺す。


「お心遣い、感謝致します」


ローブの言葉にランディは穏やかな微笑みを持って礼を言う。


そこに弄り甲斐のある若輩者はもう居ない。


「事情は承知しているわ。大方、恩返しの為でしょう?」


「ええ、少しでも喜んで貰える事がしたくて――――」


ランディは「でも中々、見つからないんですよねー」と溜息を吐きながら続けた。


その肩を落とす姿は、妙に大人びていて様になっている。


「なら尚更の事、待ちなさい。必ず、時が来るわ」


「はい……その言葉、肝に銘じます」


ルー以上に一癖も二癖もある若者に興味が湧いて来るも今はその好奇心に蓋をするローブ。


「さて、若い子をこんな時間に引き止めるなんて悪いわ。勿論、これから飲み屋さんで悪戯をして来るのでしょう?」


「そのつもりです」


ランディは到底、似合わない不敵な笑みを浮かべた。


「年寄りはもう寝る時間よ。なんせ、無駄に朝が早いのだからね」


ローブはそろそろ、御開きの時間だと侍女に手を叩き、合図を送る。


「さて、ランディ。行こうか。煩い喧騒と阿保な酔っ払い、そして美味しいお酒が僕らを持っているよ」


同じく馬車馬に挨拶を済ませたルーも戻って来た。


「では、気を付けていってらっしゃい」


そう言って手を振り、出発しかけたローブをルーは不意に引き止める。


「あっ、今になって気付いたけど。せんせ。いつも付けている指輪はどうしたの?」


走り出そうとした馬車は動きを止めた。


「そうそう、聞いて頂戴! 最近、指が細くなってそろそろ、調整しようと思っていた矢先に何処かで落としてしまったのよ。いやね、年を取るって。気付いたら大切な物をボロボロ落としているのだもの。でもよく気付いたわね」


「直ぐに分かるよ。せんせいが付け忘れてる事なんて今まで一度だって見たことがないんだもの。当然だよ、当然」


「確かにそうよね。だから尚更、落ち着かないのよ。此処二、三日はひた隠ししていたのだけど。そろそろ、誰かに知られる頃だと思っていたわ」


自嘲な笑みを浮かべながらローブは左手の薬指に視線を落とし、右手で左手をさする。


「ランディ」


早速、絶好の機会が訪れた。もし、これで解決すればヴェールへ明日にでも報告が出来る。


ランディはルーとしたり顔で頷き合うと期待に胸を膨らませつつ、コートのポケットから指輪を取り出した。


「そうだね、ルー。ローブさん、もしかしてこの指輪では? 先程、指輪の落とし物を預かって丁度、落とし主を探しておりまして……」


「本当に? 私の指輪だったらとても助かるのだけれど」


さぞ、思い悩んで居た事だろう。ランディの話を聞き、先程までのうら淋しさが消え、雰囲気が華やぐローブ。そっと、馬車から差し出されたか細く皺の寄った少しひんやりとした手にランディは恭しく指輪を乗せる。受け取ったローブは一瞬で自分のものであると分かったのか、胸元でぎゅっと握りしめた。小さく震えるその姿にランディとルーはほっとした。


顔は見えないが時より、目元をしきりに拭う仕草と鼻を啜る音が聞こえ、余程堪えて居たことが窺いしれた。


「私の指輪で間違いないわ。……ありがとう、本当に助かったわ。みっともない所を見せてごめんなさいね。年を取るとどうしても涙もろくなってしまうのよね」


「いえ、みつかった様で良かったです。お役に立てて何よりでした」


心なしか、目元が赤くなっているローブ。それでも晴れやかな笑顔を浮かべるその様は在りし日の乙女子だった頃に見えたであろう可憐さがあった。


「もう見つからないものだと半ば、諦めていたから本当に助かったわ。そのつるつるなほっぺにキスをしてあげたいくらいよ。でもこんな年寄りのキスは要らないでしょ? それでお礼は何が良いかしら? 何でも言って頂戴。私に出来る事があれば何でもどうぞ?」


よっぽど、指輪は心の拠り所であったのだろう。これ程、喜ばれるとは思わなかったランディは茶色の目を真ん丸にして茫然としている。


「せんせい、僕たちはお礼の為に頑張った訳じゃないから要らないよ。そもそも拾い主の子もお礼は不要との事だし、僕たちも仕事の一環でやってることだから気にしないで」


「そう言う訳には行かないわ。因みに拾い主の方は誰かしら?」


「ヴェールさ」


「問答無用であの子にもお礼をしておくわ。遠慮しないで、私は純粋に貴方たちの親切心が嬉しいの。自警団としての自覚を持ってこんな小さな落とし物の案件でも無碍にせず、取り組む姿勢には尚更、感激したわ。自警団何てまた、ブランちゃんのお遊びかと半信半疑で飽きたら消えるだろうと考えていたのよ? これからは私も助力させて頂くわね」


体勢が崩れて皺の寄った服を正し、綺麗に結われたシニョンを撫でつけ、身だしなみを整えるローブは言った。


「何よりその言葉を頂けたことこそが、何よりも代えがたい謝礼です。非力ながらもより町の住み良い環境を作って参りますので今後とも宜しくお願いします」


「駄目よ、ダメダメ。そんな謙虚な事を言って貴方たちが格好を付けて御しまいでは年長者の立つ瀬がないもの。……では先ず初めに資金援助からね! どうしましょう。まだ、自警団用の口座何て物はないでしょうし。後々になれば忘れてしまったり、渡し辛いから今、此処で渡してしまう方が良いかもしれないわね。丁度、今は明日参加する競売用で手持ちがあるからちょっと待って頂戴」


そう言うなり、慌てふためく二人を尻目に馬車の中で鞄を漁り始めるローブ。


「せんせい、せんせいー」


「良いの、良いの。どうせ、今回は欲しいものがなくて気乗りもしていない付き合いで行くだけだから。明日、無駄に使う位ならば健全な先行投資に費やす方が間違いないのよ。そうね、全部で三百はどうかしら? 前金で今日は百をお渡しで宜しくて? 後の二百は必要な時に言って頂戴。即日でご用意出来るわ」


「いえいえ、とんでもない! 銀貨三百枚何て大金頂けませんよ」


「違うわ、三百ルボロよ? そんなはちょっとした額では何も出来ないでしょうに」


「尚更、受け取れませんよ! 俺たちに扱える金額では到底、ありませんし」


甲高く悲鳴に近い声を上げるランディ。

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