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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第壹章 自警団会活動記録〇一
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第壹章 自警団会活動記録〇一 3P

ルーはそう言うとランディの肩を叩き、歩き出した。ランディも無言で自身の頬叩いて顔に真剣みを取り戻すとルーの隣に並んで歩き始める。


「さてと―― 先ずは教会へ行こうか。今の時分ならまだ授業風景が見られる。ユンヌの先生姿をからかいに行くのは悪くない。一生懸命、背伸びして字を書くあの姿はかなり滑稽だ」


「はあ……君は真面目なのか不真面目なのか。時々、分からないよ」


「肩の力の抜き所を弁えているだけさ」


髪を強く搔きながらランディは大きく溜息を付く。


「それにしても今日は本当に奇遇だね。こうして二人、お休みが被るとは」


「先月は何かと仕事が多くてね。今月は後始末やらなんやらで……ほぼ、一週間不夜城の種もあった。その埋め合わせで休みが多い。まあ、この時期はまだ仕事が少ないから。四の月に成れば冬に壊れた公共物の補修でてんてこ舞い、他にも法令改正のお達しが王都から来て色々と対応に追われたり、町民と行商人が何かしら揉めて騒ぎを起こすから憲兵隊がいないこの町ではその仲裁役に駆り出されるわとやることが目白押しさ」


肩を竦めてルーが忙しいのはもう慣れっこだけどねと付け加える。


「なるほど、役人さんは大変だ。でもせっかくの休みだと言うのにこんな仕事じみたことをやるなんて君も変わり者だ」


「これはこれで時間に追われることもないし、全て自己裁量に委ねられているから。言うなれば散歩と一緒。ゆっくり家で微睡ながら本を読むのも悪くはないけど、体を動かすことも重要だ。尻に根が生えると次の日の仕事が気だるくなる」


「言われてみれば確かに」


「まあ、僕の同年代はあまりも少ないから歳が一緒で気軽に話せる相手と過ごす休日は貴重だよ。ご老体ばかりと話をしていると所作がおじさん臭くなるんだ。この前も立ち上がる時、よっこらしょと不意に呟いてしまった時は流石に背筋が寒くなった……しかも白髪が時々、一本生えてたりして毎朝チェックが欠かせないよ」


「複雑な悩みだね……俺で良ければ、何時でも誘って。俺としてもこの町に精通する人が一緒に居てくれると心強い」


「その言葉は―― 大いに元気づけられる。今日から僕たちは仲間だ。共に老いへ抗おう」


「う、うーん。頑張ろう……」


妙に熱く語るルーとその勢いに気圧されて引き気味のランディ。


そして現在の目的とは関係のない他愛のない会話を繰り広げながら教会への石畳路を足音高く闊歩するランディとルー。使命感など言う言葉は投げ捨てて思うが儘に。


勝手気ままに己の意思で動く。確かに責務を忘れることは良くない。


されど責任感と言う言葉に溺れて他者から任を仰せつかり只管、遂行するだけの作業など、役務とは言わない。ブランは敢えて言わなかったが彼らに求める任の本質は全てを一から作り、礎となることだ。だから細かな行動の制限も設けずに己の膝元で柵とは無縁の独立した存在として自警団は誕生した。


経歴も考え方も違う三者を集め、至る所に転がる課題に対してそれぞれの意見をぶつけさせ、止揚を促した上で最高の結果を齎す。何処までがブランの腹案としてあったのか。いや、己の才覚が自然と出したこの町の在り方を反映した解なのだろう。


何故、その答えに行き着いたのかと問われれば、ブランならこう言うだろう。


「当たり前のことだよ。この町は僕も含め、全てが自由意志の築き上げた城だからね」と。


知ってか知らでか。どちらにせよ多くの人々が残した軌跡をランディとルーは辿る。


この石畳路も元は何処にでもあるような田舎道。数多の積み重ねが成した道だ。


そして彼らもこの道に新たな転機を齎す部品の一つであった。


「―――― 僕としては帝国が主戦論に重きを置いているから今、軍縮をする時期ではないと思うね」


「なるほど、でも維持費は馬鹿にならないから少なくとも平時の時は別の有効活用を見出さないと民意が―― あっ。ルー、見て見て」


話の合間、何の気なしにランディが立ち止まって道端へ視線を向けた。


その時、あるものが目に入る。


「なになに?」


「これだよ、これ」


「ほう……三色菫か。街道から種が運ばれて来たのかな? もう雪がなくなってちらほら顔を出す時期だね」


つられてルーも足を止めて目線を同じ方向へ向けると、日に向かって伸びる三色菫の花が一輪咲いていた。小さく儚げな紫の花。けれども精一杯、土から伸びるその姿は力強い生命力を感じる。


「この花を見ると、やっと冬が終わるのかーって嬉しくなるよね。穏やかな気持ちになる」


ぼんやりと茶色の瞳を緩ませながらランディは言った。


「その気持ちは分かるなー。でも季節の急激な変化で体調を崩しやすくなるから僕は気を引き締めるんだ」


「君は浪漫チストなのか、それともリアリストなのか本当に分からない……そう言う所はオウルさんに似てるよね」


ランディは含み笑いをしながらからかい交じりに指摘をした。


「やめてくれ、僕をあの生真面目さだけが取り柄の男といっしょにするのは……」


「ええー。俺は良いことだと思うよ? 父さんに似ているって言われるのは嬉しくない?」


「嬉しくない」


珍しく不服な表情をルーが浮かべる。思えば、ランディが初めて役場の戸を叩いた日も険悪な仲であることが窺えた。所々、父親の面影がある容姿も相まって似ていると思われても仕方がない筈だ。比べられることが嫌なのか、それとも何か決定的な確執があったのか、様々な邪推を呼ぶが如何せん、ランディにとって正解にはヒントが少なすぎた。


「そうなんだ―― 何にせよ。丁度良い、お見上げに持って行こう。手ぶらでは失礼だし」


複雑なお家事情にこれ以上、触れてはならないとランディは何もなかったかのように花に手を伸ばして花瓶に生ける長さで摘んだ。


「君は律儀だねー。ただ、僕はあんまりお勧めしないかな……」


「何で? ユンヌちゃんってもしかしてお花嫌い?」


「いや、そうじゃないけど。うーん。まあ、面白そうだし。いっか」


小首を傾げるランディに投げやりな返答を返すルー。少し考えれば分かることだがランディにはさっぱりだった。教養ではない。しいて言うならば察しの良さが試される事柄だ。


寄り道も程々に再び、歩き出してどんどん景色を追い越して行く二人。


「何やら含みのある言い方だね……良いさ、君の言葉よりも俺は礼儀を優先する」


「僕はその君の姿勢が好きだよ。筋が通ってて。何よりも退屈しない」


「ぐぬぬぬ――――」


「あははは。そうむくれないでくれよ」


売り言葉に買い言葉で子供じみたランディへ愉快そうに白い歯を見せるルー。


何も言い返せないランディが出来る事と言えばふくれっ面でそっぽを向くくらい。


結果的には機嫌が直ったのだからよしと無理矢理に己を納得させるランディであった。


そうこうしている内、二人は教会の前まで差ほど時間が掛からずに付く。


賑やかな大通りとは違い、閑静な住宅街の中でひっそりと佇む教会からは何やら愉快そうな歌声と軽快なオルガンの音色が漏れていた。


「どうやら音楽の授業中みたいだね」

「静かに入れば邪魔にはならないさ」


頷き合い、扉の軋む音を最小限に止めつつ、教会内へ入るランディとルー。


中は少しひんやりとしていた。入口付近は薄暗く、明かりは子供たちが集まる壇上に集中している。子供たちはそれぞれ、着膨れしていてまるまるとした雪だるまのよう。


親が風邪など引かぬようにとこれでもかと服を着させたのだろう。

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