表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅱ巻 第壹章 自警団会活動記録〇一
121/501

第壹章 自警団会活動記録〇一 2P

「俺はケーキだと思うけどねー。それにしてもいきなり、想像力豊かな返答が出て来るなー。ルーから蒼光旗なんて言葉が出るのは意外だったよ」


「潜在意識の成せるわざかもしれない。僕も幼少の頃はあの旗に憧れたものだ。遥か昔、建国当初から設立されてその武勲がおとぎ話にも成るほどの生ける伝説だ。おどろおどろしい蛮族を退け、数多くの戦に参加し、己の力と知恵のみで切り抜ける。毎夜、親にせがんで本を読んで貰う度に心踊らされたね。君はどうだった?」


「俺はどっちかって言うと冒険譚が好きだった。薄暗い森を抜け、険しい山々を越え、海を渡り、獰猛な動物、危険な怪物なんぞものともせずに前人未到の地に踏み入れる冒険者の勇敢さにあてられたよ。まあ、君みたいに大人になっても影響されることはないけど」


ランディは古ぼけた苔むし色のコートに細身のボトムス、靴だけは下ろしたてのブーツと町に来た時とさして変わらない格好。ルーは黒いしっかりとしたコート、茶色の簡素なクラバットを巻いてスラックスに柔らかそうな革靴と言うセミフォーマルな出で立ち。


そんな休日仕様な大の大人が二人、雲の話から精神的な話へ盛り上がるのも些か問題ではあったがこの陽気では彼らが脱力しきるのも致し方がなかった。


今日は風も少なく、日が差して春先にしては温かい。


勿論、薄着には適さないが極寒の冬を越えた者にとっては天国とも言える。


遠くに見える野は既に草木が所々に見え、白い大地は消え失せていた。


今は三の月の中旬、もう少し経って四の月になればこれから数多くの荷馬車や商人たちが街道を行き来するのが見られるだろう。


この陽気の中で何故、彼らが微睡を覚えながら手持無沙汰にしているのかと言えば、やることがないからだ。彼らとて最初から無為な行動に甘んじた訳ではない。まだ飲み屋が開く時間でもないのでだらしなく酔って管を巻く事も出来なければ、娯楽など無縁なこの町では年相応の遊ぶ場所もなければ、如何わしい店も皆無な為に妙齢の婦女子を引っ掛ける事も出来ない。狩りをするにも春先で餌に餓え、熟練の狩人でさえ細心の注意を払うほど獣が狂暴化しているこの時期に命がけで挑むと言うのも気乗りがしない。出来る事と言えば、買い物くらいだが生憎、彼らにはさして欲しいものなどない。結論として言うのなら選択肢の中ではこの自堕落な日光浴が一番だったのだ。


「よし、あの雲は蒼光旗で良いよ。次はあの雲だ。俺はね……えっとー」


「確かに雲の形の当てあいっこも面白い。けど、流石に五回くらいやってると僕も飽きて来たかな。そろそろ、時間を有効活用するべきだと思うんだ」


「その発言には何か面白いことが待っていると期待しても?」


「僕に案がある」


「ほほう……」


したり顔でルーはランディの好奇心を大いに擽る。


勿論、ランディの普段は覇気のない眼が珍しくらんらんと輝いていた。


「僕たちは一応、前回の功績を認められて自警団としての役名を与えられた。だから自警団として町の見回りなんてどうだい?」


「ふむふむ――」


そう、補足すると先の騒動を契機に『Chanter』では新たな自警団が発足されたのだ。元々、存在しなかった訳ではなかったが町民が持ち回り制で目立った活動もなく、ほぼ名目だけのもの。それがこの実体のない活動では心もとないと、町長であるブラン自らが発起人となり、主だった発言力のある有力者を集めての早急な話し合いが持たれた。そして大まかな枠組みが設定された上で町議会へ正式に話が上がり、承認される。精鋭として選ばれたのがランディ、そして此処にはいないノアの三名だ。


 ブランを自警団団長としてその下に三名がつくと言う形だ。勿論、この自警団発足にはこぼれ話があり、最初は公募制にするつもりだったが誰も成り手が居なくて最終的にはブランの推薦、本人へは事後承諾で決まった。それにより、フルールやレザンが役場へ乗り込み、ブランへ思いつく限りの罵倒雑言を浴びせ掛け、騒ぎとなり最終的にランディが赴いて二人を宥めすかしたこと。


 他にもまだ詰所などと言った活動拠点もなく、ましてや活動の内容や自警団の規則もないと言った先行きが大いに不安な船出となった。ただ、有事の際には各自が町民に対して現場での指揮権を与えられること。事件が起きた場合に限り、初動捜査を行う権限が与えられていること。先の事件を理由に政府へ申請を行い、特例で自衛に限り、法に反しない範囲で武装をし、戦闘を行う権限を認められるなどとある程度、本格的な武装組織として確立した。何にせよ、各個人で戸惑いに勝る胸に秘める思いがあり、事後承諾であっても確固たる使命感を心に刻んで拝命を受けた。


「君だってまだフルールと町を遊びに行くとか、僕と飲みに行くだのある程度、方向性が決まっている所ばかりだろう? たまには普段行かない様な所にも行ってみないか? 見回りと言う名分なら誰も僕たちを邪険にはしない。この際だから色々な工房やら役場の施設内、出店、学校なんか見てみるのも面白いよ。この前のフルールの町案内で行ってない所だってあるでしょ」


「よし来た! 行こう。善は急げ。一度、解散して準備が整い次第、役場前に集合だ。一応、自警団活動だからブランさんに許可を貰ってからだね」


「心得たよ」


                 *


 二人して示し合わせたかのように立ち上がると解散し、急いで自宅へ向かい、準備をし、さして時間が掛かることなく、集合場所へ集った。あまり感心しない理由で唐突に決まったとは言え、正式な活動であるが故、ランディとルーは拝命を受けた際に貸し与えられた自警団仕様のコートと胸章、手帳を装備している。コートはセミロングの丈。漆黒の厚い生地に右袖には三本の赤い布が縫い付けられたシンプルな作り。胸元には日を浴びて鈍い銀の光を放つクロスをあしらった胸章。胸の内ポケットには服に繋げる細長い鎖付きの手帳が入っている。先ほどまでとは打って変わり、厳格なイメージを連想させる。


 設備や規則などは追々、用意するとしても流石に格好だけは統一し、町を守る者としての威厳を持たせようと言うブランの計らいだ。ランディとルーはこの制服を中々、気に入っており、着用することに拒否反応を示さないがノアは恥ずかしがって着たがらず、渋い顔で受取ると直ぐに自室のクローセットの奥底へ仕舞い込んでいる。勿論、これは冬仕様。春秋用、夏用は随時用意するとブランはのたまっていた。何にせよ、町人からは意外にも高評価を受けていた。


「さてと、無事許可も下りたことだし。何処から回ろうか?」


「俺は何処からでも良いよ。兎に角、歩こう。此処だと人目を引き過ぎるから恥ずかしい」


 こうして二人、同じ格好をしていれば、嫌でも人の目に留まる。


 好奇な視線に晒されてランディは居心地が悪く、少し耳が赤くなっていた。


「僕は気にしないけどな。寧ろ、新鮮だから楽しいよ」


 時より送られる賑やかな声援にルーは笑顔で手を振って答えていた。


 風に柔らかく金の髪を靡かせたその佇まいは様になっている。


「君は本当に肝が据わっているなー」


「君が小心者なだけさ。こう言う時は堂々とした方が恥ずかしさなんて吹き飛ぶ。それに寧ろ、僕たちが憮然してとしないと皆が不安になる。僕たちの今の仕事は皆の精神的な安定剤として作用することだ。あくまでもこれは仕事の一環。それなりに経費も掛かっているから何かしらの結果は残さないと。この見回りは最初の一歩さ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ