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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第捌章 第四幕
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第捌章 第四幕 24P

レザンは、背凭れから離れ、顔の前で手を組み、目を瞑ると本音を漏らした。


レザンの少し皺の入った顔には、疲労が見える。また、顔色もあまり優れない様子。


「心配して頂けるのは、有難い……です。でも俺は、足元を掬われるだけのことをやって来ています。寧ろ、今直ぐにでも殺されても良いくらいに……自身の無力さによる後悔で苛まれることが俺の出来る贖罪だと。また、生死を賭けて相対した者の負わされた責任ですよ」


「そんな生き方、誰も強いてはいないだろうに……何が君をそうさせる―― と聞いてもランディ、お前は、答えんだろう?」


レザンの問いにランディは、また無言で曖昧に今、出来るだけの笑顔を顔に張り付ける。


ランディの重荷をちょっとでも理解して肩代わりしてやりたいレザン。


だが、如何せん。出会いが浅く、まだ信頼関係を確立出来ずに手探りで両者共に距離を測っている今の状況で聞けることは、ほんの一握りだ。相手を知ることは、想像以上に難しい。


発信する者は、他人に触れられたくない心の傷や、知られた時に相手からどう思われるかなどを憂い。


受け手は、その憂いを消し去り、一度、全てを受け入れてやる必要がある。


「自分や自分の周りが息災であり続ければ良いとだけ考えられれば、楽なのだが。君は、それをたった一回会った者でも、下手をしたら出会ってすらいない全ての人に対してもと考える。博愛は、君を救わない。見たくないものは見なければ、良い。聞きたくないことなら聞かなければ、良い。知ったとしても知らん振りをすれば、良い」


「当然、分かっています。でも知らない振りは、出来ないんです。少なくとも一度でも関係してしまったらもう他人事にして見過ごすことは。だって自分が笑ってても。隣で誰かが泣いていたとしたら放っておけません。例え、赤の他人だとしても」


話の途中で熱くなり過ぎたランディは、言葉を詰まらせる。


「……本当に馬鹿ですよね。自分の首を自分で絞めて」


自嘲気味に自然と出た言葉は、自身を否定するものだった。


「私も君みたいな全てを正し、世の中が上手く行けばと悲しいことは、起きないのにと考えることは、確かにあった。でも大きさに関わらず、何か障害が必ず、あった。例えば、君は、知らないかもしれんが大戦時などは、特に強く違和感を覚えた。どうして多くの人間が傷つかねばならなかったのかと。しかし、それでも私は、生きた。受け入れざるを得ないかったんだ。世の流れは、自然の摂理の流れと、同義。人間、一人が御せることなど、有り得ないのだから。君にも分かる。嫌でも分からされる時が来る。その時が来るまでに心の準備をしておきなさい」


「心の準備―― ですか。肝に命じます」


やっと、ランディの口から肯定的な言葉が、出て来た。決して世の中は、正しいことだけで動いている訳ではない。過ちや悪意も支柱として存在する。全てが、清濁、合わせた業と言う言葉に集約されるもので成り立っているのだ。


「それと、もう一つ。今回、レザンさんをはじめとしてルーやノアさん、多くの方を困らせ、少なくともフルールを傷付けてしまいました。だからっ。尚更、性質が悪っっ―― い? いきなりなんですか……」


曖昧に濁した弱音を漏らしていたランディの声が急に乱れた。


何故なら話の途中で不意にブランがランディの背に手を置き、。


「うむ、そうだな。でもそれに関しては、特に問題ないと思っている。私からしてみたら自分が辛い素振りさえも見せない方が怖い。今、君がちょっとでも本心を見せてくれていることで安心しているのだ。また、確かにフルールを傷付けたことは、いけないこと。ただ、それは君がフルールを頼りにしていることでもある。甘え下手なだけであってある意味、言葉に出来ない一番、正直な気持ちをぶつけているからだ。後は、もう少し言葉としてその悔しい気持ちを言葉でぶつけられるようになれば良い。それにはもっと他人に心を許しなさい。そして自分を曝け出すこと。幸い、そのチャンスがごまんとある。この町には、知りたがりが多い。この町の穏やかに流れる時間の中でその者たちと、沢山。話すべきだと、私は、アドバイスしよう」


「…………」


レザンのされるがままに背を軽く叩かれ、諭されたランディ。


「勿論、直ぐにとは言わん。ゆっくり、やれば良い。君の触れて欲しくない何かがあるならそれも話さなくて良いのだ。全ては、君……いや、お前の意志次第。お前自身で踏み出せ。何も心配することはない。その一歩は、私が誰にも否定させやせん。頑張れ、ランディ・マタン」


「……」


「先にも言ったが、人に出来ることなんぞ、ほんの少し。高々、百年も生きれない生き物がその何倍も生きている世界に与えられる影響は、砂粒一つに等しい。ならば、その出来ることを過去に浪費するのではなく、先の未来に繋げなさい」


荒んでいたランディの目に光が戻る。やっと、救われなかった最後の一人に差し出された手が届く。レザンの武骨な手は、しっかりとランディの血に塗れた手を掴んで離さない。


「最後にフルールには、謝っておきなさい。これでお前の反省会は、お終いだ。さてと、帰るぞ? 今日は、私に付き合って貰おうか。偶には、朝から家で酒を飲むのも悪くない。神様も少しくらいは、堕落することを許してくれるだろう」


年長者の説教と、アドバイスは、もう終わりだと言わんばかりにレザンは、立ち上がる。


「……はい、お供します。いや、お供させて下さい!」


力強く立ち上がったランディには、もう薄ら暗い影はなかった。


こうして事件は、幕を閉じたのである。


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