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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第捌章 第四幕
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第捌章 第四幕 18P

「都会には、仕事が沢山あった。日雇い、非正規、正規の雇用。終戦からの立ち直りをする為に私と同じような人々が必死に足掻いていたのだよ。私も良い大人になったのだけれども社会の荒波と言う奴に揉まれながらも必死に働いた。年老いた両親と妻、少し大きくなった子供たちに農作業を任せているのだからと、体に鞭を打って働く毎日。一年、二年、三年、四年と続き、借金の返済も目処が立った。しかし今となっては年に一、二度、家へ帰るくらいで殆ど、何もしてやれなかったことを後悔している」


窓から差し込む光を眩しそうに見つめるデカレ。


デカレは、重い口を開き、ランディへ簡単に事の顛末を聞かせた。


「結果から言おう。私が出稼ぎに出てから五年目。一度帰省した後、私の故郷は流行病に冒された。終戦後から続く栄養失調や衛生状態の悪化などが一番の原因だったと私は思っているのだが、家族全員が死んだ」


「くっ…………」


そう、分かり切っていたことだけれども言葉になって聞いてみると中々、心に響く。


「二度目の帰省時には、もう遅かったよ。夏のある日、故郷が大変なことになっているという旨の電報を貰い、急いで帰って見ると、町の近くにずらりと並ぶ新しい墓標。震える足に力を入れて探してみると、簡単に家族の墓標を全部、見つけてしまった。一度目の帰省時に咳き込む者が多くあったと記憶している。その時から兆候はあったのだが、私自身、風邪が流行っているのだろうと軽くみていた。まさか、家族を一辺に全員失うとは夢にも―― と言う所だな。私の本音は」


「すみません……」


一人の力など、本当に無力だと自覚させられるような話にランディは、ただ謝ることしか出来ない。そしてやはり何処からか、悔しさが込み上げて来る。その悔しさの根源が何かは、ランディにやはり分からない。分かりたくもないと言うのが方が正解だ。自然と苛立ちが表に出て来て足を何度も踏み鳴らし、目には明らかな怒りが見える。デカレは、ランディの様子を見て何かきっかけを掴んだような気がした。


「なに、君が謝る必要はないのだよ。話し始めたのも私。当然の疑問を持たせてしまったのも私。全ては私の意志で始めたことだ。そして私は、自身の驕りに憤りを感じたまま、少しの間、故郷に留まり、茫然とする毎日を重ねて行った。何が悪かったのだろうか? どうすれば、防げていたのだろうか? そんな下らないことをして過ごしていた」


「……」


最早、ランディにはデカレに対して言葉を返せない。ランディはこれ以上、自分の浅はかさをひけらかすような間抜けにはなりたくないのだ。


「そんな絶望に埋もれ続けていたある日、私はあるきっかけを貰った。秋が終わる頃の話だ。何となく近くを散歩と言うか徘徊をしていた時、何故か道の端で項垂れていた薄汚い青年が目に入ったのだ」


後ろにある扉をちらっと見たデカレが眉根を悲しそうにひそめる。


「彼を見た時に私の中で何かが動き始めた。多分、これが心に火が付いたと言うことだろう。この大きな犠牲を強いた物語が始まったのは、確かにこの時だった。私は、その青年の姿を見て居ても立っても居られず、家に連れて帰った。その青年は、よくよく見れば、家の近くに住んでいたのだ。彼の家族も同じく、彼を残して亡くなっていたのだ。飯を無理やりにでも食させて布団に投げ入れた。私が出来たこと、やったことは本当にこれくらいだったよ」


ランディにとって今のデカレの話を聞くことはやはり、苦痛になりつつあった。恐れていた自身が持つ最後の砦の瓦解し始めている。折角、ルーに貰った言葉も今では、ランディの中で小さくなってしまった。


「そんな生活を続けていたある日、私は彼に聞かれた。何故、僕を助けたの? と皆に置いて行かれた僕にはもう何も残っていないのに……とな。私は、直ぐに答えられなかった。ただ、首を横に振るだけだ。答えを与えてやれたのは、夕方。私と同じくボロボロの君を見て私の中で何かが動いたのだと。そしてその感覚は間違いではなく、君と生活をしている間は、生きようと必死になれて救われたのだと答えることが出来た。その時の表情は今でも覚えている。私へ儚いながらも笑い掛けてくれたのだ」


まるでその青年の笑顔を再現するかのように儚い笑顔を浮かべるデカレ。


「それから間もなくして青年の回復を待ってから二人で故郷を捨てて旅に出た。財産を全て売り払い、宛てのない旅にだ。途中、街や村で少し働きながら生きる目的を探すための旅路だ。そんな旅の中で私は、純粋に彼がどんなに小さな幸せでも良いから見つけてくれればと思っていた。しかし簡単に幸せなど、見つかる筈もなく、ただ時間だけが過ぎて行く。勿論、そんな生活を永遠と送るのでも良かったが、同時に周りの環境も少しずつ変化をして行った」


その先はもう、デカレが何も言わずとも容易に想像出来る。


何故なら先の話は、この場へと戻って来るからだ。


「その変化とは、仲間が増え始めたこと。町や村、各地を転々として行く内に色々な境遇を持ち、絶望した者たちが私の後に着いて来たのだ。家族を失った者、騙されて借金を背負わされた者、幼少の時から貧困の中にあった者、拒むことを私は、出来なかった。どれほど、人数が増えようとも私の生きる目的は変わらなかっただけだからだ。しかし、結果と言う物は如何せん、比例して増えることはない。仲間がどれだけ増えようとも途中で一人一人の幸せを見つけることは出来ず、離脱する者は、いなかった。思えば、このような結果になったのも私の采配……いや、結果が共わないことで焦りが募ったこと、それが今回の騒動の発端になった。私は、旅の道すがら、何の気なしに彼らへ聞いたのだ。お前たちはどうすれば、幸せになれるのかと」


デカレはどうにも答えを出せないでいたので何か小さなヒントでもあればと考え、聞いたつもりだった。想像以上の答えが出て来るとは、夢にも思っていなかった。


「その答えが、自身の力でこの国を変えたいと言う言葉だった。同じような境遇に喘ぐ者救いたい。これ以上、同じ目にあうような人間を作りたくない。俺たちの幸せはその先にあるんだと。そんなことを言われても私にはどうしようもなかった。私が何か手がないかと思案している内に彼らは、答えを出していたよ。盗賊になり、不穏分子として立ち上がり、国に対して環境を変えねばならないと考え改めさせることに繋げようとな…………」


因果と呼ぶべきだろうか。依代がなくなった人間が最後に心残りとして思い浮かべるのは国に対しての憂いだ。その憂いは、反社会的な行動へ人を駆り立てることが往々にある。


「最後に補足しておくと…………私が助けた青年は、盗賊団の仲間でOと呼ばれていた者だ。多分、君が殺したうちの一人だ。ぐっ!」


デカレの言葉で遂に箍が外れたランディが、純粋な狂気をデカレに向けた。間合いを一気に右足を踏み込んで詰め、剣を真っ直ぐ前に突き出し、虚ろにただ、視界に入る景色だけを映すランディの目を見た。デカレが、剣をギリギリの所で流れるように斜め左へ避け、そのままランディの腰元へ姿勢を低くして突進するデカレ。デカレは、縺れ合い、倒れる二人。必死に離れようとするランディと剣を掴み、抑え込もうとする。


両者共に譲らず、少しでも相手より有利な状況に持ち込もうと、揉み合いになる。


上から圧し掛かっているデカレの腹にランディは、右膝蹴りを繰り出し、どかそうとするも必死にデカレがしがみつく。右手でデカレが剣を押さえ込み、左手でランディの顔を掴み、邪魔をする。その内、代わりばんこでマウントを取り合い、その争いは、息をきらしながら離れるまで続いた。何とか剣を離すことなく、間合いが取れたランディが、一気に片を付けようと、前に出る。

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