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Locus Episode2 Ⅰ〜Ⅷ  作者: K-9b
Ⅰ巻 第捌章 第四幕
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第捌章 第四幕 14P

静々と語り始めたDの声は、四人の芯に響いた。別段、Dもサボっているのではない。


今も頭の中で幾つかのシュミレートをして最善の策はないかと、模索している。仮面を付けた顔を真っ直ぐ、四人に向けたDは、話を続ける。


「ならば、我々の取るべき作戦は、まず一度今居る人員を外に逃がして体勢を整えるべきだ。そしてその手筈、いや道は私が付けよう。お前たちは、下にいる者たちを引き連れて逃げろ。それから時が来たら――――」


Dはこれ以上、先のことは言わなかった。言わずとも通じると分かっていたからだ。


「D、貴方でもその打開策以外で思い付くことはもうないのですか?」


「……ああ」


Aの質問にDは、躊躇う素振りを見せながら答える。一瞬、誰も口を開くことが開くことが出来なかった。Dはもう既に窓の外に顔を向けて外の様子を察知していた。


木彫りの荒削りな仮面を照らす外の世界からは、多くの人が動いている気配、匂いが音が分かるのだ。


早朝にも関わらず、あちらこちらの家から煙突の煙が上がり、町の広場からは音が聞こえる。もう直ぐ、大勢の人間がこの騒ぎに加わって来るだろう。


「本当に?」


「ああ」


やっとのことでOがDから再度、いや最後の確認の意思を問うもやはり、答えは変わらない。


しかし、残された時間の中ではこの選択肢が唯一の成功する可能性があるものであった。


そしてDは、彼らの矜持を生かすために時が来たらと付け加えたのだ。


「ちっ!」とそっぽを向いて舌打ちしか出来ないH。


「……Dがそう言うなら仕方ないですね」


Nはなるべく、無感情になって首を振った。自分たちのやれることは限られている。ならば、少なくとも保険を掛けていて最悪の事態を防いだDに従うべきだと考えたのだ。


「さてと、私は準備をします。取りあえず、我々が逃げ果せる分の物資と一応、Dの分も用意しますね。まあ、食料と最低限の日用品、武器くらいでしょう。後は此処に置いて行きます。これだけは譲れませんよ? 宜しいですか、D」


「うむ、分かった。頼んだぞ」


Aが他の三名と目配せのようなことをしながら今後の準備を提案する。Dを含め、他の三名も頷いた。これで今後の動きは決まったと一同が安心し、行動に移そうとした矢先。


一階より、何やら騒ぎが起き始めた。大きく扉が開いた後に怒鳴り声や騒々しい足音、何やら金属がぶつかりあう甲高い音。まるで戦闘が繰り広げられていると容易に想像が出来た。


五人は息を潜めて少しでも情報を集めようと聞き耳を立てる。その内、一人分の足音が階段を上って来るのが分かった。


ゆっくりと確実に。


遂に、ランディたちが乗り込んで来たのだ。これまでの経過から自然と、盗賊団の流れを逆手に取り、動くものばかりであったが、今度は確実な攻勢に打って出たのだ。


「不味いな……もう此処まで来ていたのか。お前たち、荷物は考えず、逃げろ。取り敢えず、外の敵には、脅しを掛けて逃げろ。もし無理ならば、HかOの何方かが闘ってAとNを逃がせ。そして、予め決めていた集合場所で落ち合うんだ。私も逃げられれば、逃げる。しかし

待つのは一日だけで良い。それ以上、待つのは無駄だと思え」


「分かりました。一応、人質は此処に置いて行きます。それで行きましょう」


「はい……」


「了解!」


「おう、それで俺も異存はないぜ」


「何でも良い。お前たちは生き残るんだ。お前たちだけでも生き残れば、我々の意志はなくならん。それが大切なのだ。心の火を絶やすな。例え、どんな道を辿るとしても!」


最後にDが焚き付けて強い意志を託す。それぞれが返事をすると、部屋を出て行った。これで憂い事はなくなったと一先ず、胸を撫で下ろすD。もう、頭巾を被ることも仮面を付ける必要もなくなったと、全てを外し、Dは素顔を晒した。疲労で目の下に薄らとクマが出来、眉間の皺もこの三日で増えたような気がする。無精髭で口元は青い。しかし、何処か、憑き物が落ちたかのようにDの顔は安らかであった。これで全てから解放されると言わんばかりの顔だ。


胸元から手紙のような物を取り出し、また元に戻した。


「やっと、これで終わることが出来る……本当に此処まで長い道のりであった」


大きく息を吐き、腰に差した剣を確かめて覚悟を決めたD。


力強い眼光を眼に乗せて最後の時を只管、待ち続けるのであった。


                *


ランディが階段を上ったのは、一階の敵をほぼ片付け終わったからだ。ランディの作戦とは不意を突いてアジトに突撃し、押し切る単純な物であった。一階はもう動ける者が四人しかいなく、二人を斬り捨てた後、残りの二人をルーとノアに任せて自分は、二階へ向かったのだ。


順序立てて戦力を削ったお陰で一階の制圧もたいして苦労することがなく、すんなりと終わった。暗がりで足元が見えにくい軋む階段を踏みしめて細かな埃が舞う中を突き進むランディ。


静々と、落ち着き払った様子で自然体だ。剣に手を掛けることもなく、決まりきった結果だけがあると信じ切っている。


 階段を上り切ったランディの目の前には長い廊下があり、三、四つ部屋に繋がる扉があり、一番奥の扉付近には四人、立って待ち構えているのが見えた。


何も臆することはないと堂々、ランディは歩を進める。


「一人か……流石に此処まで来れるってのは、ほんとにただもんじゃあねってことだよな。驚いたぜ、。そうだろ、糞がキ? まさか、俺たちがこうも簡単に追い詰められるとはな。少しは自信があったんだぜ。何者だよ、お前」


まるで、ランディだと分かっているかの様に四人の内の一人が話し掛けてきた。


ランディは立ち止まり、掛かって来いと合図する。もう、話をする必要はない。


ただ、やるかやられるか、それだけなのだから。


「確かにもう貴方にとっては私たちと話す必要はないのかもしれませんね。でも少しくらい児戯に付き合ってくれませんかね? もう私たちには貴方と一戦交えるつもりは毛頭ないんです」


手をヒラヒラと上に上げて降参の仕草を見せた別の盗賊。


「―― 少しだけならば、付き合うのも吝かではないかもしれません」


ランディは自ら、外套の頭巾と口元の布を取り払う。むすっとした表情なのはご愛嬌と言うことで許して貰うとして。ランディなりに敬意を払ったつもりだ。


習うように盗賊四人もそれぞれ、頭巾と仮面を取り、相対する。


仮面の下には、何処にでも居るような顔ばかり。今まで悪事をして来たとは思えないかった。


職人気質の厳つい顔、小太りの商人のような柔和な表情を浮かべた顔、頬がコケた神経質そうな机仕事をしていそうな顔、笑いの絶えない流れの旅人のような陽気な顔。


ランディは少し紫色の唇を小さく噛んだ。


何故か、悔しくて仕方がなかった。この気持ちの出所は分からない。自問自答をしてもその先の答えは出て来ない。いや、自らが制限を掛けていることには気付いていた。


これ以上、感情移入をすれば、迷いが生じると。


「一昨日はもっと明るそうな青年だなと思っていたけど、今日はやけにむすっとしてて機嫌が悪そうだ。確かに朝から動きまわていれば、そうなるのも仕方がない。でも君は動いただけの結果が出せたのだからもっと嬉しそうにしたらどうだい?」


「そう言うことではないんですよ……俺にだって色々、感じることはあるんです。放っておいて下さい。それよりも話とは何ですか? 手短にお願いしますよ」


眉間に皺を寄せて不快を表しつつ、陽気そうな男に申し出た。どうして今更、このようなやり取りをする必要があるのかと聞きたかったがその言葉は飲み込む。


「特に聞きたいことってのはないですね。ただ、貴方に興味があるだけなんですよ。せめても負けた相手に話しくらいはしたいってのが本音です」


「はあ、俺にはそんな暇はありません。貴方たちもそれは一緒でしょうに、逃げなくて良いのですか? 少なくとも貴方たちのリーダーなら逃げろと言った筈だ」


「そこまで読まれていましたか、私たちは良いんですよ。もう」

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