表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第1話 心待ちにしていた日

 カーテンの隙間から入る柔らかな光を感じて、山吹真守やまぶきまもるは目を覚ました。


 枕元にある時計に手を伸ばす。時刻は、午前5時45分。昨夜、寝る前にセットしたアラームはまだ鳴っていない。


(よっしゃ!)


 早く起きられたことに、内心ガッツポーズをする。普段は、アラームが鳴ってから30分くらい経たないと起きられないのである。


 アラームを解除してベッドから出ると、真守は着替えを手早く済ませて洗面所に向かう。


 歯みがきと洗顔を済ませて廊下に出ると、キッチンからなにやら美味しそうな匂いが漂ってきた。


 キッチンに向かうと、母が料理をしていた。父の弁当を作っているのだろう。


「あら? おはよう、真守。早いのね」


 真守に気づいた母は、振り向いて言った。


「おはよう。今日、晴人はるとと釣りに行くからさ」


 そう言って、真守は母の後ろにある棚からひと口サイズのパンを取り出して口に放り込む。


「行くのはいいけど、気をつけなさいよ?」


「……わかってるよ」


 母の言葉に、真守は口の中のものを飲み込んでから答えた。


 冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぐ。それを一気に飲み干すと、真守は出かける準備をするため自室に戻った。


 前日に準備していた釣り竿、クーラーボックス、その他の道具や財布などを入れたリュックサックを持って玄関に向かう。


 一旦、荷物を玄関先に置くと、クーラーボックスだけを持ってキッチンに行った。冷凍庫から大きめの保冷剤を、冷蔵庫から買いだめしておいた数本のペットボトルの飲み物をそれぞれ取り出して、クーラーボックスに入れる。


「行ってきます!」


「行ってらっしゃい、気をつけるのよ」


 母の声を背中で聞いて、真守は玄関を出た。


 駐車場の脇に停めてある自転車のかごに荷物を入れていると、自分を呼ぶ自転車のベルが聞こえた。


 振り返ると、自転車にまたがっている見知った顔の少年が、家の前で手を振っていた。真守の幼なじみの三上みかみ晴人はるとである。


 真守は、自転車を押して晴人と合流する。


「おはよう」


「おはよう。今日は、寝坊しなかったんだ?」


 晴人は、いたずらっぽく笑って言った。


「当たり前だろ? 今日こそ『ぬし』を釣ってやるんだからな!」


 真守が意気込む。以前から狙っているのだが、警戒心がかなり強いため、その姿にもまだお目にかかれてはいないのだ。


「やる気充分って感じだね。その『ぬし』がいる釣り堀って、真守がよく行く場所だっけ?」


 晴人の問いに、真守はうなずいて釣り堀までの道も知っていると告げる。


 今からふたりが向かう場所は、真守の行きつけの釣り堀である。正確に言えば、真守の父親の行きつけだが。月に二回――おもに隔週の日曜日に、釣り好きの父親によく連れていってもらっていたのだ。


 そこには、ニジマスやイワナ、ヤマメの他に、イトウという大きな魚もいる。イトウの中でも、特に警戒心が強く気性の荒い個体が『ぬし』と呼ばれているらしい。


「じゃあ、行きますか!」


 真守の言葉を合図に、ふたりは釣り堀に向けて出発した。


 釣り堀までは、車で30分くらい、自転車だと2時間くらいかかる。


 真夏の太陽は、まだ早朝だというのに容赦なくふたりを照りつける。暖められた空気は、ゆっくりとではあるが、確実にふたりの体力を奪っていった。


 小休止を挟みながら、釣り堀への道のりを進んでいく。


 途中、コンビニで食料を買い込み、駐車場で朝食をとることにした。


 ふたりは、それぞれ持ってきたクーラーボックスから冷えたペットボトルのお茶を取り出し、一気にのどに流し込む。その冷たさに、全身の細胞が生き返るようだった。


 ペットボトルを1本飲み干したふたりは、それを片づけて一息つくとコンビニを後にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ