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「ウイルスって何ですか?」――ウイルス研究者の異世界冒険記――  作者: 烏川 ハル
第三章 水の大陸をさまよって

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第五十七話 船上の戦い(調査官ヴィーの私的記録、ラビエスの冒険記)

   

「フルグル・フェリット・フォルティテル!」

「ヴェントス・イクト・フォルティシマム!」

 私――ヴィー・エスヴィー――の目の前で、迫り来るモンスターを相手に、冒険者たちが戦いを繰り広げている。

 最初から雇われていたセンも、この大陸に来てから加わったラビエスたち四人も、形の上では私の『護衛』なのだ。五人で私を守って戦うのは、当然の図式なのだろう。

 中でも、ラビエスとパラの二人は、魔法を放つことで、モンスターが素敵船ナイス・ボートへ近づかないように奮闘していた。

 マールという娘は、戦士の格好を見てわかる通り、全く魔法は使えないようだが、それでも奇妙な剣を――おそらく魔力の込められた武器を――用いることで、魔法に準じた攻撃を繰り出している。

 だから、この三人は「頑張っている」と評価しても構わない。

 だが、残りの二人は‥‥‥。

「どうしたものか」

 私は、彼らには聞こえぬように、小さく呟いた。


 センの戦い方に関しては、すでに一度、私は目にしている。イスト村からウイデム山へ向かう途中、野原でゴブリンと戦った時だ。

 あの時のセンは、武器も何も使わずに、素手でゴブリンを撲殺していた。あれしか攻撃手段がないのであれば、確かに、川を泳いでくる敵が相手では何も出来ないのだろう。

 そして、もう一人。問題のリッサだ。ラゴスバット伯爵家の血縁と思われる、渦中の人物だ。

 彼女は赤い武闘服を着ているし、手には黒い鉤爪をはめていた。それだけ見れば、なるほど、彼女は武闘家なのだろう。だがニューから聞いた話では、リッサは魔法でドラゴンを召喚できるという。自己紹介の際に確認したら、それは彼女自身も認めていたはずだ。

 それなのに、今。

 リッサは、ドラゴン召喚の素振りなど、全く見せようとしなかった。私に喋った以上、今さら秘密にする必要もないだろうに。まさか、初対面の挨拶の中で召喚魔法について話したのを、忘れている‥‥‥?

 いやいや、さすがに、そこまで愚かな娘とは思えない。ラゴスバット伯爵家から冒険者パーティーに送り込まれた娘が、そんな愚か者のわけがない。彼女は、伯爵家とパーティーを繋ぐ、重要な人物なのだ。

 ならば。

 ドラゴン召喚は、簡単には使えない魔法なのだろう。魔力を大量に消費するから、ここぞという場面でしか使えない‥‥‥。そんな理由だろうか。

 だが、ドラゴン召喚が無理ならば、別の魔法を使えば良いではないか。私も知らないような召喚魔法が使えるくらいならば、もっと簡単な魔法だって使えるはず。リッサは、武闘家のような格好をしていても、優れた魔法士に違いない‥‥‥。

「いや‥‥‥」

 私は、頭の中の思考を振り払うかのように、首を横に振った。

 考えても答えは出そうにない。とりあえず、頭をクリアーにして、今は彼女たちの様子を見守ることにしよう。ラゴスバットの人間とその仲間たちを、詳しく観察するとしよう。

 少なくとも。

 今回の戦闘では、武闘家として彼女は、あまり活躍できそうにない。闇系統の魔法の使い手である私の方が――たとえモンスター相手では不発になることが多いとしても――、よほど戦力になりそうなのだが‥‥‥。


 そんなことを考えながら見ていたら、モンスターの中の一匹が、ついに素敵船ナイス・ボートまで辿り着いた。船上に上がってこようとするモンスターに対して、ようやく出番が来たということで、二人の武闘家が立ち向かう。

「ふんっ!」

「ラゴスバット・クロー! ラゴスバット・クロー! ラゴスバット・クロー!」

 センとリッサは、あっさりと一匹を仕留めた。

 やはりリッサは、あくまでも『武闘家』として戦うだけで、全く魔法を使おうとはしない。優れた魔法士の片鱗は、いつ見せてくれるのだろうか。


――――――――――――


 結局。

 俺――ラビエス・ラ・ブド――たちが、全ての赤半魚人レッド・サハギィを始末するまで、それほど時間はかからなかった。四匹のうち、センとリッサ――――武闘家の二人――が倒したのは一匹のみで、後の三匹は、遠距離攻撃で仕留める形になった。中でも、強雷魔法トニトゥダを使えるパラが一番の大活躍だったことは、言うまでもない。

 思えば。

 パーティーに加入したばかりの頃、パラは「二足歩行のヒト型や四つ足の動物型は苦手」と言って、ゴブリンと戦うのも躊躇するくらいだった。そんなパラが今では、赤半魚人レッド・サハギィという『半魚人』を相手に、誰よりも活躍する‥‥‥。

 これは、彼女が大きく成長した、ということに他ならない。

 俺は、感動すら覚えるのだった。


「みなさん、お疲れ様でした」

 戦闘が終わったのを見届けて、レスピラが俺たちに、ねぎらいの言葉をかける。同時に彼女は、パドルで再び素敵船ナイス・ボートを漕ぎ始めた。今の今まで俺は気づいていなかったが、俺たちが戦っている間は、彼女は素敵船ナイス・ボートの動きを止めていたようだ。

「水のモンスターと戦うのは初めてだったけど‥‥‥。なんとか無事に終わったわね」

 マールの言葉を耳にしながら俺は、振り返って、後ろに座るセンに尋ねてみる。

「なあ、セン。先に聞いておくべきだったが‥‥‥。センには、遠距離攻撃の手段はないのか?」

 センは首を横に振りながら、拳をグッと握りしめた。

「俺の武器は、これだけだからな」

「剣は扱えるか?」

 そう俺が尋ねたのは、炎魔剣フレイム・デモン・ソード風魔剣ウインデモン・ソードのうち、一本をセンに貸し与えることを想定したからだった。

 今回の戦闘では、炎魔剣フレイム・デモン・ソード風魔剣ウインデモン・ソードと比べたら役立たずだったが、それでも、何もないよりはマシだろう。

 しかしセンは、再び首を横に振る。

「残念ながら、それも‥‥‥。俺は戦士じゃなくて武闘家だ。剣なんて、握ったこともねえからな。わざわざ貸してもらうのは、ちょっと気が引ける」

 どうやら、いちいち説明するまでもなく、俺の意図は伝わっていたようだ。

 そして会話の流れを理解して、

「私も剣は使いたくないぞ。使えないことはないが‥‥‥。それよりは、愛用のラゴスバット・クローで戦いたい」

 リッサがそう言いながら、いつもの鉤爪をつけた右手を、前に突き出してみせた。

 それでは近接戦闘しか出来ない、というのが問題なのだが‥‥‥。

 まあ、いいか。リッサには魔法もある。攻撃魔法ではないが、彼女の特殊な白魔法が必要になるケースも出てくるかもしれない。もしもの場合に備えて、リッサには予備役として待機しておいてもらうのも、悪くないだろう。

 そんなことを俺が考えていると、

「それにしても‥‥‥。みなさん、凄いですね。赤半魚人レッド・サハギィとは、初めて戦ったのでしょう?」

 素敵船ナイス・ボートを漕ぎながら、レスピラが俺たちに話しかけてきた。

赤半魚人レッド・サハギィどころか、青半魚人ブルー・サハギィも初めてだったわ」

「あれ、そうなんですか?」

 マールの言葉に、少し不思議そうなレスピラ。

青半魚人ブルー・サハギィの方は、ご存知のようでしたが‥‥‥」

 マールに代わって、俺が説明する。

「ああ、それなら‥‥‥。本で読んだだけだ。東の大陸でも川や湖はあるから、そこには青半魚人ブルー・サハギィが生息しているらしい。でも俺たちは、そういう場所での戦闘経験はなかったんだ」

「ああ、そういうことなのですね。ならば、先ほどの戦闘は、貴重な経験になるかもしれません」

 納得した様子のレスピラは、少し面白いことを言い出した。

「ここ水の大陸でも、青半魚人ブルー・サハギィを見る機会なんて少ないですから。青半魚人ブルー・サハギィのような低級モンスターが素敵船ナイス・ボートを襲うなんてこと、まずあり得ないですもの」


 昨日の「二年ほど前から、素敵船ナイス・ボートも時々、モンスターに襲われるようになった」という話を補足する形で、レスピラが説明する。

 素敵船ナイス・ボートを襲ってくるのは、それなりに上級の、強いモンスターだけなのだという。

「やはり今でも低級モンスターは、水の女神様が乗っておられる船だと思ってしまうから、素敵船ナイス・ボートを恐れて近寄れないのでしょうね」

 彼女は、そう言って笑顔を見せるが‥‥‥。

 その『水の女神』の正体が水の魔王であることを察している俺としては、この話も、少し受け取り方が変わってくる。船首の装飾のことを聞いた時におこなった考察が、少しだけ前に進むことになるのだ。

 上位レベルのモンスターといっても、赤半魚人レッド・サハギィは、それほど強敵ではなかった。魔王軍の幹部だった『炎の精霊』フランマ・スピリトゥとは、ある意味、次元が違うのだ。

 この程度のモンスターが、水の魔王に反旗を翻すとか、水の魔王を見限るとか、そうした事態は考えにくい。

 ならば、水の魔王に対する敬意や畏怖の念は変わらぬまま「あの船についているのは魔王の姿ではない」と理解するだけの、何かが起こったのだ。

 水の魔王や配下のモンスターたちに、いったい何が起きているのか。これも、四大魔王の一人であった風の魔王が消えたことと関係あるのだろうか‥‥‥。

 いやいや、俺たちが風の魔法と戦ったのは、つい最近のことだ。その件が、二年ほど前からの異変に、関わっているわけがない。

 むしろ消失とは逆に、風の魔王が『旅人モック』として東の大陸に顕現したのが、二年前くらいの時期ではないだろうか? モックの話の中に、はっきりとした日時は出てこなかったと思うから、それが一年前だった可能性も数年前だった可能性もあるのだが‥‥‥。


 そんな俺の思考を遮るかのように、

「先ほどの戦闘に関しては、私も一つ、聞きたいことがある」

 今度はヴィーが、俺たちに質問を投げかけてきた。

「彼女が使っていた剣は、魔法武器の一種にしても、かなり特殊な武器のようだが‥‥‥。普通に武器屋で購入できる装備なのか? それとも、どこかのダンジョンで入手した武器か?」

 ヴィーはマールの方を見ているので、炎魔剣フレイム・デモン・ソード風魔剣ウインデモン・ソードのことを言っているのだろう。それならば、センを相手にそれらの剣の話をしていた時に尋ねて欲しかった、とも思ってしまう。

 なんだか会話が少し巻き戻ったような気分もするが、だが、別に隠すような話ではない。俺は、入手した経緯について、正直に話し始めた。

「ああ、これらの剣は‥‥‥」


――――――――――――


 私――ヴィー・エスヴィー――が、ラビエスに武器のことを尋ねたのは、単純な好奇心によるものではなかった。宗教調査官としてのカンが、私の頭の中で「あの剣には何か意味がありそうだ」と囁くのだ。

 私自身は、武器は使わない。せいぜい、杖を棒術に活用するくらいだ。だから冒険者の武器には詳しくないが、普通の武器よりも魔法武器が高価なことくらいは理解している。

 例えば、少し前まで一緒だった、戦士ステンパー。彼の使っていたハンマーは、持ち運ぶ際には片手で持てるくらいのサイズだったのに、いざモンスターと戦う時には、巨大なハンマーに生まれ変わっていた。物理的にはありえないサイズ変化を起こしていたのだ。

 あれは、ただ「大きさが変わる」というだけに過ぎず、モンスターへの攻撃力自体は、普通の巨大なハンマーと同じだったようだ。それでも魔法武器であるならば『普通の巨大なハンマー』よりは、高価な代物シロモノということになる。

 ましてや、先ほどマールが使っていた剣は、剣先から魔法や斬撃を飛ばすという優良武器スグレモノだ。店で買ったら、さぞや金がかかるに違いない。だがマールにしろラビエスにしろ、他の装備は、それほど高価そうではない。ならば、高額な剣のスポンサーは、ラゴスバット伯爵家なのではないか。彼らがラゴスバット伯爵家と繋がりを持った時に、入手した剣なのではないか‥‥‥。

 そんなことを、私は考えたのだった。

「‥‥‥これらの剣は、炎魔剣フレイム・デモン・ソード風魔剣ウインデモン・ソードという名前で、どちらも店で買ったものではない。ボス・モンスターとの戦闘で、手に入れた剣だ」

 ラビエスが説明し始めたところで、

「おいおい、ラビエス。宝箱から手に入れたアイテムじゃなくて、モンスターが落としたって言うのかよ?」

 センが、驚いたように口を挟む。ラビエスとは別パーティーだったから、センも、この武器の由来は知らなかったらしい。

「まあ、普通は驚きますよね。モンスターがアイテムをドロップするなんて、ありえませんから」

「あれを『ドロップ』と言っていいのかしら? かなり特殊な状況だったと思うけど。そもそも、あの『炎の精霊』フランマ・スピリトゥは、私やラビエスにとっても、初めて相手するボス・モンスターだったから‥‥‥」

 パラとマールの言葉を聞いて、センが、いくらか納得したような表情に変わる。

「そういやあ、俺もダンジョン・ボスなんて相手にしたことねえなあ。なるほど、ダンジョンのボス・モンスターを倒すと、レアアイテムが手に入るのか‥‥‥」

「いやいや、勘違いしないでくれ。別に『ボス・モンスターを倒せば、必ず何か獲得できる』って話ではないと思う。俺たちが手に入れたのは、あくまでも偶然で‥‥‥」

「でも、ラビエス。結果的に私たちは、二度の強敵との戦闘で、二つのレアアイテムを――炎魔剣フレイム・デモン・ソード風魔剣ウインデモン・ソードを――入手したわよね? 今のところ、百パーセントと言えるんじゃないかしら」

 ラビエスとマールが、そんな言葉をセンに返している。

 ここまでの話は「そういうものなのか」という程度で、それほど興味深い内容でもなかった。

「マール、たった二回の試行で『百パーセント』というのは、統計学的に考えて乱暴だぞ」

「『統計学的に』だなんて‥‥‥。そんな言葉、どこの本で読んだのかしら?」

 そんな幼馴染同士の会話を聞いても、私は「ラビエスという男は、冒険者というより、まるで学者のようだな」と、他人事のように感じただけだ。

 しかし。

 次のリッサの言葉は、俄然、私の興味を掻き立てる発言だった。

「『炎の精霊』か‥‥‥。今となっては、懐かしく感じるくらいだ。思えば、あの戦いがあったからこそ、私はラビエスたちの仲間になれたのだからな」


「どういう意味かな? その『炎の精霊』とやらとのバトルを通じて、貴様がパーティーに加入したということか?」

 あまり急に食いついた様子は見せずに、私はリッサに、さりげなく尋ねてみた。

 ラビエスたちとラゴスバット伯爵家との結びつきを知るためにも、リッサが――ラゴスバット伯爵の血縁と思われる娘が――パーティーに加入した経緯は、ぜひ知りたい。その話に繋がるならば、特殊武器に関して質問した甲斐もあるというものだ。

 ここまでの話を聞くと、二つの可能性が考えられると思う。

 まず、もともとラビエスたちは強敵を倒すためにラゴスバット伯爵家から雇われた冒険者であり、その後そのまま、現在進行中の企みにも起用されているという可能性。

 あるいは、ラゴスバット伯爵家とは無関係にラビエスたちは強敵に挑み、それを倒した実績から、ラゴスバット伯爵家に目をつけられたという可能性。

 私が頭を整理しながら、リッサの返答を待っていると、

「なあ、ラビエス。もしかして、あの話かい? ラゴスバット城で大活躍した、っていうエピソードだろ?」

 まるで妨害するかのように、センが口を挟んできた。

「ああ、センにも聞かれたから、もう俺が答えてしまうが‥‥‥。リッサが俺たちのパーティーに加わったのは、なし崩し的にというか、半分偶然みたいなものだな」

 リッサに代わって、ラビエスが説明する。

 彼らは、ネクス村という場所で発生していた病気について調べていた。その過程でリッサと知り合い、ラゴスバット城でも同様の病気が蔓延していることや、その元凶が近くの洞窟にいる『炎の精霊』であることを知り、共同で敵に当たることとなった‥‥‥。

「ほう、モンスターが元凶の病気とは、面白い話だな」

 私は、当たり障りのない感想を述べておく。本当に関心がある部分を隠すには、別の部分に興味がある素振りを見せておけば良いのだ。続いて、さりげなく、最も知りたい部分に話を繋げた。

「しかし、今の説明だと‥‥‥。あくまでも『一時的な共闘』であって、パーティーに加入という話とは違うようだな?」

「ああ、うん。それはそうだが‥‥‥」

 ラビエスが、言葉を詰まらせた。

 私の指摘は、核心を突くものだったらしい。

 すかさず、二人の女たちが――マールとパラが――ラビエスに助け舟を出す。

「だからラビエスが言ったのよ。『なし崩し的にというか、半分偶然みたいなもの』って」

「強敵との戦闘を通じて、仲良くなりましたからね。今ではリッサは、私の一番の友、つまり親友です」

 このパラの言葉には、リッサも反応を見せていた。

「おお、そうだぞ。あれで、パラは我が親友になったのだ!」

 リッサは腹芸など出来そうにない人物、という私の評価が正しいのであれば、嬉しそうな彼女の態度は、素直に信じて構わないのだろう。

 しかし。

 マールとパラの発言は、ラビエスの言葉を補佐したようなタイミングではあったが、説明になっていない。説明を誤魔化すために適当に発言した、という感じだ。

 ラビエスもマールもパラも、このような態度を見せるということは‥‥‥。いくら追求しても、これ以上、詳しいことは語らないだろう。むしろ、下手に追求すると、私がラゴスバット伯爵家に関心があるとバレてしまうかもしれない。

 少なくとも、彼らが明かした範囲でも、ある程度のことは推察できた。つまり、私の二つの想像のうち、前者ではなく後者の方が正解だということだ。リッサがラビエスのパーティーに正式に加入したのは、彼らが『炎の精霊』という強敵を倒した後だということだ。

 微妙な点ではあるが、これは、結構重要なポイントだと思う。

 当時のラゴスバット伯爵家は、一つの問題が解決した直後だというのに、自分の家の者を冒険者のパーティーに送り込んだことになるからだ。目的がなければ、そんなことをするはずもない。やはり、ラゴスバット伯爵家には、何らかの企みがあると考えられる。

 それに、早くもその時点で、新たな計画が――『炎の精霊』関連とは別の話が――始まっていたということになる。

 これらを、今回の魔王討伐申請に絡めて考えると‥‥‥。

 つまり。

 この「魔王を討伐した」という大言壮語に関わる計画は、その『炎の精霊』とやらを倒した時点で、すでに始まっていたのだ!

「なんとなくわかった。では、次だが‥‥‥」

 内心の興奮は抑えつつ、穏やかな声で、私は話を先に進める。

「‥‥‥先ほど『二度の強敵との戦闘で』と言ったな? つまり、二つの剣は、それぞれ別の時に入手したのだろう? 最初の剣は、ラゴスバット城の近くの洞窟で手に入れたとして、もう一本は、どこで? どうやって?」

 しかし、その質問を、私が口にしたタイミングで。

「みんな、気をつけろ!」

「次が来るわ!」

「ああ、また、お客さんだな」

 ラビエスとマールとセンの三人が、ほぼ同時に騒ぎ始めた。

 一斉に前方へ視線を向けた彼らの様子から、私も理解する。

 まるで私の質問を流してしまうかのように、またモンスターが川の流れの中を泳いで向かってきたのだ、と。

   

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