第1章 導き
フィクションエッセイ小説です。
はじめに断っておくと、私はクリスチャンではない。日本にならどこにでもいるように無宗教だ。ただ、誰かに恋愛感情を持ったりアイドルを好きになったりするのと同じ感覚で天使を好きになり、宇宙飛行士や俳優になりたいのと同じように、天使になりたいと思っている。所詮は憧れの域を出ないものなのかもしれない。しかし、私は天使に1番近い職業を看護師だと信じている。"白衣の天使"のこともあるが、単に看護師が向き合う魂の近さが天使のそれと同じように感じているからだ。以前は聖職者こそが天使に近い、天使と対等な職であると考えていたものだが、その認識は間違っていた。確かに聖職者は神と人間を繋ぐことを生業としており、天使もまた神と生物とを繋いでいる。しかし逆に言えば天使と聖職者は似て非なる、全く別のものだ。誰も聖職者のことを天使とは言わないし、天使のことを聖職者とも言わない。私は天使になりたかった。聖職者では天使にはなれない。そんなわけで私は看護師をしている。
実は、看護師が天使に近いと思ったきっかけには一人の友人の存在があった。友人は、佳奈子という高校の同級生だ。佳奈子は知り合ったときから将来は看護師になりたいと語り、勉強していた。その頃の私は看護師に興味はなく、哲学や芸術といった分野に深くのめり込んでいた。そろそろ将来を現実的に考えなくてはと思った折、ふと佳奈子に看護師を目指したきっかけを聞くと彼女はこう言った。
「看護師って、人を救う仕事でしょう? 時には患者さんの死に直面する時もあるけど……。でもそれよりも、元気になった患者さんのありがとうって言う笑顔を見てみたいの」
佳奈子の話をろくに聞いていない証拠でもあるのだが、これを聞いて私が注目したのは"患者の死に直面する"という部分であった。看護とは何かを全くわかっていない高校生の私にとって、患者様を看護するということよりも人が天へ昇るのを目の当たりにすることのほうが魅力的であった。今にして思えば不謹慎でしかないが、天使に会えるのではないかと思っていた。また、それと同時に『白衣の天使』の単語が脳裏に浮かんだ。もちろん『白衣の天使』は天使ではないということはわかっていたが、患者から天使みたいだと賞賛されるのであれば聖職者よりもよっぽど天使に近いと思ったのだ。私は佳奈子とともに看護師を目指すことに決めた。
さて、看護師となるにはどうすればいいだろうか。資格を取るために進学しなければならないのだが、資格を取得するために通う学校は大きく分けて三種類ある。大学、短期大学、専門学校である。いずれにしても取れる資格は変わらず、学校へ通う年数や学費に違いがある程度のものであった。私は天使にはなりたいが看護師になることを急いているわけではなかったため、ミッション系の大学へ進学した。入試も終わったあとで気づいたのだが、学校にもよるのかも知れないが三年制の短期大学や専門学校に比べ四年制大学は一年長い分一般教養科目も幅広く学ぶことができる。おかげで私は大学で倫理や生物学、宗教学(ミッション系の大学であったため、キリスト教についてである)を履修することができた。これらが今の私の看護観に活かされているのである。