はじめに
フィクションエッセイ小説です。
静かな部屋に、機械の無機質な音が耳にうるさい。心停止・呼吸停止・瞳孔散大の所謂"死の三徴候"を確認した医師が死亡診断を下す。家族は泣きながらも立ち会った医療者に感謝の言葉を口にする。私はどうにもこの瞬間が憎い。
患者様を神様のもとへ送るのは私でいたいのに。
賀宮幸理、24歳。看護師をしている。まだまだ新米看護師である立場から、総合病院の一病棟に勤めているが、経験を積みいつかはホスピスナースに転職するつもりだ。馬鹿馬鹿しい話かもしれないが、私は常々天使になりたいと思っている。そう思ったのもいつの頃だったか、もはや覚えてはいない。思い出せるのは幼稚園生のときに蛍光灯を天使の輪に、箒とトイレットペーパーを天使の羽に、自分を天使に見立てていた。ずっと天使になりたかった。高校二年生で、天使に1番近い職業が白衣の天使と称される看護師であると思い、その後ミッション系の看護大学へ通った。入ってみると看護師は思っていた以上に重労働でこちら側(看護学生、また看護師のことである)としては天使とは程遠いと思ったが、それでもそのときは天使に一番近いと信じて疑わずがむしゃらに勉強した。看護師が天使と呼ばれるようになったきっかけや、天使となれる看護を見出すことに必死だった。もちろん今では看護師としての職に責任感や充実感も得ているが、それでも天使になる夢は捨てられずにいる。
本書では看護学生時代に学んだ看護と天使について話していく。