先祖の手紙
ただひたすらに広く、暗い空間に倒れているのは、榊 留音だ。
「ううっ・・・・ここは・・・まさか本当に成功したのか・・・・」
そう、留音は地球で命を絶ち、息をひきとる前に「ルタモルート」と呟いたのだ。
この「ルタモルート」というのは、留音の家に代々伝わる書物に記されている言葉である。
記されているのはどう見ても地球の言語ではなかったのだが、留音の亡き両親、そしてもちろん留音もどういうわけか読むことができた。
「なんで読めんだろ・・・これ。」
そう呟いた彼の足下に巻物を伸ばしたかのような紙が一枚、ひらりと落ちた。
「ん?」
足下からそれを拾い上げる。
「これは・・・・手紙か?」
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この手紙を読んでいるということは、もう私の子供達の誰かがあの言魔術を声にしたというわけだ。
なぜって?あの空間にたどり着いたらこの手紙を書物から出す予定だからだ。
「ねえねえ、あの言魔術ってなあに?」「ねえねえ、あの空間ってなあに?」とかの"question"は、ノンノンノン。
まず私の生い立ちからだよ。
ここからは真面目な話だ。
今は遠きアルミエティより、私は来た。
古の遺跡より出土したこの書物には転移という意味の古語であるルタモルートと記されていた。
結果論でしかないが、これはアルミエティと地球、二つの世界をつなぐ言魔術なのかもしれない。
だがただの言魔術ではない。
私がこの言魔術を口にしたのは飛竜に追われ、深刻なダメージを負っていた時なのだが、目覚めた時、私は特殊能力を身につけていたのだ。
それが金運上昇能力なのだ。
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「だからあんなクソでかい屋敷だったのか・・・」
留音の家は、かの有名なネズミーランド3個分の敷地面積を誇る。
そのバカにならない税金も留音一家の経営する「エアリスグループ」の莫大な資産の前では屁でしかない。
留音も神童と賞賛されるほどの天才で、わずか10歳にして経営の8割を任されていた。
「俺も親父も金運はある・・・・・・ということは・・・・遺伝するのか」
そう、遺伝してしまうのだ。
つまり、十分すぎるほどの金を稼いでしまい、あらゆる業界に手を出し、成功する。
そんな事を繰り返していれば恨みも買うだろう。
両親は海外旅行中に不慮の事故で死んだ。
もっとも、留音は計画された犯行であると踏んでいるが。
「続きはというと・・・」
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私が思うに、深刻かつ残酷、そして残虐な状態であるほど、強い力が手に入るのではないだろうか。
まあそれはさておき、言魔術を口にした私は突然黒い光に包まれた。
目が覚めると広がっていたのは先の見えない広い空間だった。
失敗したのではと思ったのだが、これはどうも空間の狭間であるらしい。
目的もなく歩いていると、光を見つけた。
しかし、その光は3つあった。
何だろうと思い真ん中の光に触れてみると、真ん中の光は私の体をなぞるように駆け巡り、私の胸に吸い込まれていったのだ。
残りの光も触ろうとしたのだが、触れる前に私は気を失い、気がつけば青い空を向いていた。
そこで初めて、成功したと気付いた。
ここまでが私の転移の全てだ。
ただ一つ言えるのは、死に近づけば近づくほど強い力を得られる。
こっちの世界に退屈したなら、向こうに行ってみても良いかもしれない。
では、愛する息子たちよ。
この書は決して誰にも渡さないでほしい。
これが私の唯一の願いだ。
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「要するに光を探したらいいんだな」
そう口にしてから、留音はあることに気がついた。
これ、3つ同時に触ったらなんか起こるんじゃね?、と。