召喚術と契約
「あれーおかしいなぁ。なんでだろ」
不思議がるメルティ。
呪文が間違っていたのだと思う。ちゃんとお偉いさんにかっこいい呪文を聞いてこい。
「……あ!そっか!
そういえばキミまだ誰とも契約してなかったんだっけ!」
あ、そうか。
さっきの説明だとこのスキルを使うには契約とやらを結ばないといけないんだったか。
「それじゃあ試しに私と契約してみよう」
よしわかっ……え?メルティと?
「私じゃヤダ?」
「いや、俺の方は問題はないけども。」
メルティの方はそれでいいんだろうか。
……まぁいいか。どうせ練習だし。
メルティは床にチョコンと座ると、ちょんちょんと自分の前を指差す。
俺もメルティにならい、メルティの前に座る。
俺たちは膝をくっつけあうように座り込んだ。
「さて、それじゃあ契約の手順を説明するね。
まずはお互いに真名を教えあいます。」
「うん」
「私の名前はメルティ・オリビア。種族は天使です。」
「え。メルティって天使だったの?」
「そうだよ?言わなかったっけ」
「てっきり女神か何かだと思ってた」
天使だったのね。翼とかないけども。
どこからどう見ても俺と同じ普通の人間にしか見えない
「それから趣味はドラマをみることでー。
好きな食べ物はイチゴのタルト。あと、最近のマイブームはー……」
名前を教えあうだけかと思っていたら、調子よく自己紹介を始めるメルティ。
契約にはお互いに深く知らないとダメ、ということだろうか。
とりあえず俺は適当に相槌を打ちながらメルティの話を聞き続けた。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
4、5分ほど、メルティの自己紹介が延々続く。
「〜〜で、〜だから、やっぱり近頃天使の間で流行ってる"空ドン"はナンセンスだと思うんだよね。
空を飛びながらドンってやるんだよ?イマイチ燃えなくない??」
「わからなくもない。
壁ドンは逃げ場がないという緊張感があるからこそ、逆に萌えるものだ。
しかし、空を飛びながらドンっていのはいくらでも後ろに逃げられるわけだし緊張感も何もあったものじゃない。ナンセンスだ。」
「そうそう!やった!わかってくれる人がいた!」
自己紹介はいつの間にやらよくわからない天界トークに。
場のテンションは大盛り上がりである。
「あははは、いやー、とまあ、私の方はこんな感じ。
少しは私のことがわかってくれたかな?
ということで、次は君の番だよ!」
清々しい顔で俺の手番を譲るメルティ。
ようやく俺の出番が来たかっ。よし!
「俺の名前はタッソ タケシ。日本人でサラリーマンの父と専業主婦の母を持つ男だ!
趣味はドラマと映画鑑賞。最近見たドラマだと恋ダンスが一番面白かったかな。
あと、早朝にうちの犬の散歩をするのが好きだ。それから…」
俺は気持ちよく自己紹介をはじめた。
が、メルティは開いた手を俺の顔に向けてストップをかける。
「はいはい。君はタッソ、って名前なんだね。
タッソくんって呼んでもいいかな」
「え?あ、うん。オッケー。
それで、最近の俺のマイブームなんだが、紙パックの牛乳があるじゃん?
あれって正しい方向から開けないと注ぎ口が開かないんだけど、
あえて逆方向から綺麗に開けて使うのが最近の俺の…」
「タッソタケシくんね。了解了解。
それじゃあこれで真名の交換はおしまい。次はー」
へ?
メルティはテキパキと次の手順の説明を始めている!
ま、待ってよ!俺の自己紹介がまだ終わってないよ!
「?さっきわたし言わなかったっけ?
まずは真名を交換するって」
い、言ってたけども…お前さっきめっちゃ長々と自己紹介してたじゃん!!俺にもさせろよ!!
「それじゃ次の手順に移るね。
真名を交換したら、次は契約の儀式をおこなうの。
相手の体に自分の証を刻む、それが契約の儀式。」
俺の反論虚しくメルティはサバサバと説明を続けた。
ひ、ひどい…俺も自分語りしたかったのに……っ
「ご、ごめんね?あとでちゃんとお話し聞いてあげるから。」