ようこそ異世界へ
「そ、それでお前は一体…」
(それじゃあ次は私からね!ンドラー!)
「…はぁ?」
(だから「ンドラ」だってばさ。ライオン、の「ん」からのン・ド・ラ)
…何を言ってるかわからなかったが、かなり遅れて理解する。
こいつあれか。
もしかして、さっきまで俺がやってた一人しりとりの続きをしようとしてるのか。
(ン・ド・ラ!)
よし。
無視しよう。
「それで、お前は……メルティ?はなんで俺をここに連れてきたんだ?」
(ンドラ)
「なんで俺をここに連れてきた?なにが目的だ?
身代金なら期待しないほうがいいぞ。我が家は代々小市民だからな。」
(ンドラ!)
「いやそれはもういいって」
(しりとり続けてくれなきゃ教えてあげない)
「……」
(ンドラ)
「…そもそもンドラってなによ」
(小惑星の名前)
「わかったわかった」
(うんうん)
「それじゃあ俺の番な。
ら、ら、ら……らいん。はい俺の負けーしりとり終了ー。
それじゃあ話を戻すねメルティちゃん。どうして君は」
(ンバラ!)
「おわりだっつってんだろうが!!」
(ンバラーー!!!」
「ていうか今度はなんだよンバラって!」
(セネガルの音楽だよ?!)
「知るかァ!!」
それからさらに2、3時間、俺は謎の女としりとりを強制的につづけることになったのだった…
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
「ふぅー!たのしかったー!」
金髪少女が髪をファサーっと派手に振りながら、満面の笑みで笑いかける。
「しりとりで…四時間……ガバァッ!」
俺はもうへとへと。へとへと通り越してヘドロのように床にへばりついていた。
四時間しりとりはやべえ…やべえよ…やべえ…
この四時間の間にもしもゲームがあればどれだけ有意義なレベル上げができただろうか…
「またやろうね!しりとり!」
やりません。
「しりとりでよくもまぁそんなに楽しめるもんだ…」
「私の世界って全然娯楽ないんだもん。
やー、しりとりいいね!さいこう!しりとり!しりとり!」
腕を揃えて「しりとりしりとりー!」と腰を振るメルティ。
しりとりでここまでテンションあげられる人間なんて世の中そうはいないだろう。
どんだけ娯楽に飢えてたんだこの人。金髪外人女の考えることはわからん。
……って、あ、あれ???
「そういえば…お前だれだ??」
「へ?メルティだけど。さっき自己紹介しなかったっけ?」
金髪で見目麗しい美少女がキョトンとして俺を下から見つめる。
それにしてもこの子背ちっちゃいなー。頭からぴょこんと生えてるアホ毛がかわいい…
……って、いやいやそうじゃなくて。
「さっきまでは声しか聞こえなかったけれども…」
「……あ!もしかしてわたしの姿も見えるようになった?!」
「う、うん」
口ぶりから察するに、彼女はさっきの声と同一人物とみて間違い無いのだろう。
しかし「見えるようになった」というのはどういう意味だろう。
まるで、「最初からそこにいたけど俺には見えていなかった」というようなそんなニュアンスを感じる。
「ほんとに見えてる?この指何本に見える?」
「6本だ」
「あれっ!?私の指そんなにあったっけ?!」
「嘘だ。5本だ」
「正解!わー!ほんとに私のこと見えるようになったんだね!おめでとー!!」
何がめでたいのかさっぱりわからないが、
俺が見えてることを分かるやいなや、メルティは俺の身体中をパシパシはたきながら喜びを表現する。
「よくわからんが。ありがとう」
「おめでとー!おめでとー!」
パシパシ!バシィッ!ビシィッ!
痛い痛いやめて
「おりゃぁ!(ドスッ」
おい今明らかに蹴っただろ!やめろっ
「おめでとー!!」
今度はメルティは俺の手を取るとルンルンとぐるぐる回り出す。
わかった、わかったから。めでたいのはわかったから。
それでお前は一体何に喜んでるんだ?この女は全体的に説明が足りない。
俺はわけがわからないままにメルティに腕を引っ張られながらグルグル回される。酔いそう。
「やー良かったよ〜。
なかなか"こっちの世界"に順応しないから一時はどうなることかと思ったけどさー。
キミってば全然わたしの姿見えないし」
こっちの世界?姿が見えない?いったいなんの話を…
「でも…結果的にみればラッキーかも?
うん。だって神力がこんなに濃い空間に何時間もいたんだもん!
きっと後々良い方に良い方に影響するはず!」
メルティは一人でペラペラ話しながら一人でウンウンと納得する。
俺は彼女の話についていけないまま唖然としていると、
彼女は此処一番の笑顔でこう告げた。
「ようこそ!異世界へ!!」
異世界…………ってなに?