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カニ雑炊(ただしけち臭い)とお雑煮

本日三話目です。ストックを使い果たす勢いです。

 家に着くなり、僕は土間の倉庫を開けて、


「じゃじゃーん、蟹缶!」


「しけてんなぁ」


「じゃあゆっちーのは無しで」


「誰も食べないとは言っていない」


「じゃあ余計なことは言わないの」


 さてさて、僕はこの蟹缶を使って今日はカニ雑炊を作ろうと思う。朝の北陸の話がこんな風に回収されるなんて予想してなかった。世界はフラグに満ちている。


 ……そんなことは一旦置いて、今回用意するものは朝の残りのお米を一回水で洗ったのものと常に用意してある水出し昆布出汁、それとこの蟹缶だけだ。全部をまあまあ大きい土鍋に放り込んで火にかける、そして蓋をしてしばらく放っておく。


「あ、でもネギくらい入れようか」


 さすがに彩りが寂しすぎる。僕は待ち時間にネギをパパッと刻んで仕上げに雑炊にぶちこめるようにした。これで雑炊の準備は完了、あとは煮えるのを待つだけだ。

  途中、一回味見をしてみる。


「味が薄いなあ」


 僕は少しずつ塩と、残しておいた蟹缶の汁を加えて調整した。それでも足りない分は仕方がないので昆布出汁をとって新たに加えた。余った出汁は明日の味噌汁になる予定だから冷凍しとこうっと。


「俺も味見する」


 ゆっちーがどこからともなく匙を取り出し、雑炊をつまみ食いした。


「あふっ」


「でしょうね」


「でもうま」


 じゃあこれくらいの味付けでいいか。


「じゃあゆっちー、もう完成にするからちょっとお茶碗と箸持ってっておいて」


「合点」


 さて、ゆっちーが今の方へに行ったので、僕も雑炊をパパッと仕上げて持っていくことにしようか。


 僕は冷蔵庫から卵を三つ取り出しボウルへ割り入れる。それを軽く溶いて、雑炊へと円を描くように流し入れる。卵を注ぎきったら何回かかき混ぜて、卵を全体に行き渡らせる。最後に刻んでおいたネギをかけて完成だ。


「完璧」


 僕は土鍋を持って居間へと向かい、いつも使っているちゃぶ台の上に土鍋を乗せた。


「待ってました」


 ゆっちーはそう言うなり自分の分の雑炊を自分のお茶碗へとよそった。ちょっとは待てが出来んのか。だが、僕もお腹が減っているので特に文句は言わずに自分の分をよそった。


「「いただきます」」


 まずは一口。熱っ。少し口の中でハフハフする。すると、口の中で風味が立って、この雑炊が思った以上にカニ風味だということに気がついた。おいしい。きっと蟹缶がいい蟹缶だったのだろうね。


「うめえうめえ」


 僕が二口目へと行こうとする間に、すでにゆっちーは一杯目を食べ終えていて、二杯目へと移行しようとしていた。


「こりゃいかん」


 早いとこお代わりしないとゆっちーに食べ尽くされると思った僕は、台所へ秘密兵器を取りに行った。


「へっへっへ、こいつさえあれば……」


 今回僕が持ち出したのは胡麻油、これさえあれば香ばしさで箸が無限に進むんだ。


 僕は胡麻油を自分の雑炊へたらして、一気にかきこんだ。うん、さっきの倍はうまい。胡麻油は神である。


「おっ、胡麻油じゃん」


 ゆっちーは胡麻油の瓶を手に取り、それをいつの間にかよそっていた三杯目の雑炊へとたらした。そしてゆっちーはそれを口に運ぶと、一瞬止まった後に、猛然と雑炊を飲み始めた。これはまずい、どうやら僕はゆっちーの食欲に胡麻油を注いでしまったようだ。最悪だ、このままだと僕がお代わりなんかする前に雑炊が無くなる!


「急ごう」


 僕は雑炊を食べるスピードを一段上げた。みるみるうちに雑炊はなくなり二杯目へ突入する。それに少し遅れてゆっちーは四杯目を食べはじめた。


 僕たちはしばらくの間、杯を無言で重ね続けた。そして、その時はやってくる。


「鍋の中身がないんだが、誰か知らないか?」


「ゆっちー、食べたのはほとんど君だよ?」


 阿呆なことを宣うゆっちーを軽く蹴飛ばし、僕は茶碗を重ねて箸をまとめ、それを土鍋に入れた。


「「ごちそうさまでした」」


 食後の挨拶をして席を立つ。台所に洗い物を運んだとこでふと気付いた。


「ねえゆっちー」


「何だ?」


「寒くない?」


「だなぁ」


「ストーブに火、入れてなかった」


「馬鹿野郎」


「ゆっちー洗い物しといて!僕は急いで火を入れる!」


「うむ」


 やり取りの後、僕は急いで居間へとUターンした。そして、今の隅っこに鎮座している薪ストーブに駆け寄り、中に酸素を入れるために空気バルブを全開にする。そして、薪を入れるための横の戸を開く。


「熾火は……やった!生きてる!」


 僕は朝起こした火は灰をかけて消火している。そうするとこうやって後で火をつけるときに熾火や消し炭が残ってて火がつきやすくなるからだ。


「細めのやつから順番に、空気のよく通るように」


 僕は火おこしの手順を声に出して確認しながら熾火を復活させていく。すぐに小枝に火が灯った。


「これでよし」


 僕は横の戸を閉めた。


「ゆっちー、火はついたよ!もう少し待ってればあったかくなるから!」


「いえい」


 ふと時計を確認するとまだ午前だ。まあ、一時間目始まる前にばっくれたんだんし当然だよね。


「ゆっちー、七輪出して餅でも焼こうか」


「きな粉!」


「磯辺が正義だよ」


 僕は価値観のすれ違いを起こしながらも七輪に火を入れ、角切りの餅を大量に出す。磯辺ときな粉、どちらの調味料も準備し、七輪を持って居間へと向かう。


「ストーブの前にしよう」


 僕は布を敷いたその上に七輪を乗せて、餅を焼く支度を始めた。


「小さなお子様やご老人の方は十分に注意してお召し上がりください」


 訳のわからないことを言いながらゆっちーは七輪を挟んで僕の対面に座る。


「じゃあ焼こうか」


「はよ」


 僕は急かされながら餅を焼く。焼いた端から食べていく。


「磯辺も美味いな」


「きな粉もたまには悪くない」


 お互いに自分の推し餅だけでは飽きるからたまに交換しながらダラダラと餅を食べ続ける。


「そういえば、大根の旬って冬だよな?」


 そうだけどどうしたの?僕はお餅をもちもちしていたので目線で続きを促す。


「冷蔵庫に大根はあるか?」


 僕は頷く。


「ちょっと待ってろ」


 ゆっちーは台所へと駆けて行った。大丈夫かな?変なものは食べさせてないと思うんだけど……

 僕が友人の身を案じて救急車を呼ぼうか悩んでいたら、ゆっちーが戻ってきた。


「出汁とみりんと醤油、大根おろしと納豆の混合物」


「納豆おろしでいいじゃん」


 ゆっちーが持ってきたのは、お餅と無類の相性を誇る納豆おろしだった。だからさっき大根の有無を聞いたのか。


「まあまあ、とっとと食おうぜ」


「うん」


 僕は納豆おろしをお餅につけようと思った人は本当に天才だと思うんだ。お餅の消費速度が上がった。


「そうだ、いいこと思いついた」


「やめとけ」


 唐突に僕は閃いた。ゆっちーがなんか僕を止めた気がするがこうしてはいられない、僕は何かに取り憑かれたかのように台所へと向かった。


「まずは昆布出汁、それと干し椎茸」


 僕はそこまで大きくない鍋に水出し昆布出汁を張り、そこに干し椎茸を入れる。ちなみに昆布出汁の量は控えめだ。

 次に僕は人参を小さく切り、白菜をザクザク切る。すりおろした残りの大根があったのでそれも銀杏切りにして入れる。里芋の親芋の皮をむいて乱切りにする。鶏挽肉があったのでそれを卵で軽く練ってまとめて、そして全部鍋にぶち込む。醤油と塩を最後に入れて軽く混ぜたらコンロで軽く煮立たせる。居間へと戻り、僕は鍋をストーブの上に置いた。


「しばらく待つと我が家の雑煮ができるよ」


 僕の家の雑煮は野菜メインの澄まし汁仕立てで、味は野菜のおかげでやや甘めに仕上がる。ちなみにお餅の形はどうでもいいけど、一回焼いてから器に入れるんだ。お雑煮より先に。

ちなみにコンロで完成させなかったのは、ストーブの上でじんわり火を加えた方が美味しそうだなって思ったからで他意はない。


「お雑煮だと?けしからん、全くもってけしからん。これは本官が責任を持って食べきるしか……」


「いつの時代の汚職おまわりさんだよ」


「お雑煮!」


 だめだ、ゆっちーはお雑煮に思考回路をやられてる。


「煮えるまで後二十分位だし、餅でも食べて待ってようよ」


「ハッ、きな粉餅!」


 ゆっちーはバグからの復活を果たして次のバグに足を突っ込んだ。


「もう勝手にしなよ」


 僕も勝手にするから、そうつぶやいて僕は磯辺焼きを食べまくった。




 二十分位経って、きな粉餅にむしゃぶりついていたゆっちーが突然声を上げた。


「お雑煮が煮えました」


「タイマー機能付き?」


 僕は立ち上がり鍋を覗く。野菜は全部火が通っているようで、鶏団子も割ってみたら中までしっかり火が通っていた。


「完璧」


 僕が言うなりゆっちーがいつの間にかもってきていた丼をこちらに突き出してきた。僕は丼を突き返す。


「まずは焼いたお餅を入れなさい」


 お雑煮は手順を守ってこそ真の実力を発揮すると思っている僕は、今まで作ってきた手順以外を認めない。故に丼を突き返すのだ。


 ゆっちーが焼いたお餅の入った丼を出してきたので、僕は快くお雑煮を盛る。そしてゆっちーに渡す。僕の分の丼もよういされていたので、すでに用意しておいた焼き餅を入れてお雑煮を盛る。


 席に着いたら、


「「いただきます」」


 丁度お昼時。冬は寒いせいかお腹が空く。僕たちは野菜の柔らかさが効いたお雑煮を日が暮れるまで食べ続けた。


「ところでゆっちー、もうこの時間になるとうちの周りにもうバス来ないんだけど」


「……泊めて」


「外で寝ろ」



 外では依然として雪が深々と降り積もっていた。

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