箒星と赤色矮星。
線香花火よりは派手な火が出る手持ち花火が好きだと言うと決まって風情のないやつだと言われるけど、絶対に人の趣味にとやかく言うやつの方が風情がないと思う。そういう奴には火を吹く花火の先端を向けてやり、徹底的な再教育を施すのが僕のスタンスだ。
トランプ、ウノをはじめとするカードゲームで一通り天明屋さんをボコり、危うく物理的にボコられそうになった僕は咄嗟に持ってきておいた花火で遊ぶことを提案した。これなら勝ち負けもクソもないので争いごとに発展することはないだろう。
しかし、人間とは二人いれば争いが起こる生き物である。線香花火イキリ共が風情だの「エモい」の親戚みたいな言葉を使い始めたのをきっかけに、僕はロケット花火を水平発射していた。
「てめえ!何すんだ馬鹿!」
「うるさい!お前みたいなやつが大学生になってシーシャ吸って『Chill……』みたいな気持ち悪いイキり方するんだよ!今死ね!」
僕はありったけの偏見と銃口をドヤ顔をしていたしなのんに向けてありったけのロケット花火を打ち込む。貧相な線香花火は哀れ夜の露と消えた。
「お前みたいな風情を解さないバカがいるから日本の文学は廃れて脳死のハーレムラノベまみれになるんだよ!」
「うるさい!ジジイみたいなこと言いやがって!自分のおむつでも替えてろ!」
まさにそこは戦場だった。しなのんは隙を見てこちらに石を投げてくるし、交わされる言葉は品性のどん底だ。他のみんなは別にどうでもいいといった顔をしてそれぞれ勝手に花火を楽しんでいる。
「これでも食らえ!」
熾烈な飛び道具バトルの中、ついに玉切れを起こした僕はその辺にいたコオロギを投げつける。
「おわっ」
暗闇の中、コオロギをゴキブリと勘違いしたのかしなのんがのけぞる。僕はその隙に手早く戦線を離脱。何事もなかったかのように平然と花火をしていた方に混じり「騒がしいぞ」と一緒になってしなのんを野次る。彼の顔は夜の闇の中でもわかるほど怒りで真っ赤だった。
「線香花火みたいな顔色してるね。エモいよ」
「打ち上げ花火にしてやろうか」
「まあ落ち着きなよ」
「仕掛けてきたやつのセリフか?」
しなのんが拳を振り上げるか振り上げないかのチキンレースをして遊んでいると、文字通りケツに火が点いた。
「あづっっ!」
後ろを振り返ると担任がニヤニヤしながら「ファイヤー肛門マンだ」と訳のわからないことを言っていた。慌ててお尻を地面につけて消火活動を行なっていると、担任は今度はしなのんへと向き合い、無理やり押し倒してケツに火をつけていた。本当に何がしたいんだこいつ。
「戦隊モノは五人って相場が決まってんだよな」
そういうと担任はゆっくりと平和に花火をしていた三人の方を向き、手に持っていた花火に着火した。
「お尻焼け戦隊コゲテンジャー作るぞ!」
そう叫ぶなり突撃していった担任。蜘蛛の子でもここまで散らないといった勢いで逃げる三人。足の遅いやつから捕まるデスゲームが予期しない形で始まってしまった。
「……ねえしなのん」
「……なんだ」
「もうテントに戻って寝ない?なんかすごく疲れたんだ」
「反対はない」
僕たちは先ほどまで争っていたことも忘れて仲良くテントに戻った。もう何も考えたくない。外では断続的にお尻が焼かれたような悲鳴が聞こえてくる。僕は目を瞑って意識をシャットダウンした。




