温泉と開放。
に、日刊40位になってました……ありがとうございます。
ご飯がなくなるのはやはり早く、足りなかった先生は近くの道の駅に閉店ギリギリで駆け込んでソーセージを買ったらしい。しばらく経ってテント近くに戻ってきたらテント近くで見苦しい奪い合いを行っていた。
「足りないんだけどもう一回釣りに行かねえか?」
「お酒入ってるでしょうあんた」
そのくらいにしておけと言い、しなのんに洗い物を押し付ける。僕はその間に手早くお風呂の準備を済ませて一人温泉に向かった。みんなで行くと騒がしくなって気が狂いそうになるのだ。
靴を脱いでロッカーに入れ、受付に料金を渡して入場する。衣服を全て脱ぎ鍵付きロッカーに押し込む。温泉への入り口の横でシワシワのおじいちゃんがタオルで股間をペシンとやっている。嫌なもの見ちゃった。
夏の夜の柔らかな空気や温泉に入る前の期待など全ての風情がぶち壊れてしまった。僕はいたってニュートラルな気持ちで温泉に浸かることを強要された。
僕は湯船にダイブする前に体を洗いたいので先にシャワーへと向かう。幸いにしてとても空いており、快適な入浴が確約された。湯船や露天風呂からガキの絶叫が聞こえてくることもなく、このキャンプシーズンにおいては望外の幸福だ。
備え付けのシャンプーとボディーソープでざっくりと体と頭を洗う。よく温泉にはこのシャンプーやらが販売されているという広告が打ってあるが買う人を見たことがない。なのに広告を打ってあるのは心底謎である。
そんなどうでもいいことを考えながら泡を流し、いよいよ湯船に向かう。温度計は40.1℃を差し、適温だということがわかる。タオルを漬けないように足からゆっくりと湯船に浸かった。
「あぁ〜」
中年のような声が出る。家のお風呂も嫌いじゃないが、広い湯船で肩まで浸かって思いっきり足を伸ばすのはやはり格別だ。今度家の庭にでかい穴を掘って簡易温泉モドキを作りたいな。光熱費を見て鬱病になるかもしれないけど。
益体もないことを考えつつ明日のプランを練ったりしていると、俄に脱衣所の方からドタドタと喧しい音が聞こえてきた。
「オラァッ!俺が一番乗りだ!」
そんな怒号と共に何かを殴打する音、くぐもった声が聞こえてきてしばらくすると我らが担任が意気揚々と引き戸を開けた。
「瀬戸ッ!てめぇ抜け駆けしやがったな!」
生かしちゃおけねえ、とない袖を捲りながら担任が僕を見つけるならずんずんとこちらへ向かってきた。なんだこいつ頭が弱いのか?
「先生、ここ12:00オープンですよ。どう頑張っても一番乗りなんて無理に決まってるじゃないですか」
僕が入る前にもシワシワの湯上がり爺さんが脱衣所にいたし、と伝えても担任はシンボルをプラプラさせながらこう言い放った。
「知ったことか!人間が視界に入るのが気に入らねぇんだ!」
「森を人間に焼かれたエルフみたいなこと言ってる」
「天下布武!温泉信長に俺はなる!」
「馬鹿の少年漫画やめてください」
このままだと信じられないことにぶん殴られてしまう。そこで僕は温泉を見渡し、サウナがあることに気づいた。
「ほら、サウナなら僕もまだ入ってないし一番乗りかもしれませんよ」
「ぬっ」
戦国武将みたいな声を上げると担任はずんずんとサウナに向かっていった。僕は彼の入室を確認した後、後で係員に鍵を持ってきてもらって彼を蒸し殺そうと思った。その方がきっと世界のためになる。
しばらくするとひどい打ち身をした人たちが湯治に来た。よく見ると全員知り合いだった。
「酷い目にあった……」
聞くと、彼らはただ風呂に入りにきたが後から脱衣所にやってきた担任に「一番は譲らん!」と一方的に宣戦布告され、慌てているうちにボコボコにされたようだった。桶狭間みたいだなと思った。
哀れな彼らを隣に招き、しばし気の抜けたビーバーみたいな顔で温泉に浸かる。ここの効能は何だったかいまいち覚えていないが、だいたいどこの温泉にも打ち身とリウマチは書いてあるのでまあ効くだろう。
暇つぶしに彼らの打撲痕を突いていると、サウナの扉が勢いよく開いた。そして担任が堂々と出てくると、いきなり横にあった水風呂にダイブした。汗くらい流せ。あとできればショック死とかしてくれ。
そんな願いも虚しく担任は大きな声で「整うぞ!」と叫び再びサウナへと戻っていった。整う前に人としての体裁を調えてほしい。
せっかくの温泉なのに頭が痛くなってきた僕はみんなを連れとっととお風呂を上がることにした。反対の声は出なかった。
ざっくりと体を拭き服を寝巻きに変えロビーに出る。牛乳の自販機があったので僕はフルーツ牛乳を買った。他のみんなはオーソドックスな牛乳で、カキニーだけはこれから寝るのにコーヒー牛乳を飲んでいた。しかも美味しかったのか調子に乗って5本を一気飲みし普通にお腹を下していた。温泉に入ったばっかなのに汚してどうするんだろう。
行動に整合性のない馬鹿を笑っていると天明屋さんが湯上がりとは思えない顰めっ面で出てきた。
「どうしたのさ、温泉だってのにそんな梅干みたいな顔して」
「……おばあちゃんが全力バタフライしてた」
しかもそのおばあちゃんと目があってかなり気まずかったらしい。おかげで入る前より疲れたそうだ。にしても温泉くらいの水深でバタフライって気合いの入り方がすごいな。
僕はかわいそうな天明屋さんにフルーツ牛乳を奢った。彼女は僕と同じ宗派らしく、牛乳組を「かわいそう」と言い、コーヒー牛乳でお腹を壊したカキニーについては「ひどい」と評価をしていた。
しばらくどの牛乳が最強かについて罵詈雑言の限りを尽くして宗教戦争をしていたが、しばらくして整ったらしい担任が議論の場に出てきて全てがおしまいになった。
「牛乳?馬鹿か?酒だよ」
そういうと彼は横の売店で地酒を一升瓶で買ってラッパ飲みし始めた。僕たちは全てが馬鹿馬鹿しくなり、先にテントへ戻ることにした。
「もう、好きにしててください……」
よろしければ評価、ブックマークをお願いします。感想とかいただけるともっと嬉しいです。




