ワイルド魚祭り。
このキャンプ場のいいところは釣りがしやすいだけでなく、温泉と流しが近くにあることだ。魚の調理もしやすいし、汗も流しやすい。
「じゃあ君たちがやり過ぎた分を処理していくよ」
「と言っても俺包丁握ったことないぞ」
「鱗取りとサヨリの頭を落とすくらいできるでしょ」
そう言って僕はゆっちーに鱗取りを渡しスズメダイとクロダイの鱗取りを任せる。カキニーには包丁を渡してサヨリの頭取り、少し料理ができるらしい天明屋さんには内臓取り、残りの二人には火おこしを任せた。僕は三枚おろしや皮ひきなど、残り全部の担当だ。負担配分がおかしい。
とりあえず僕は一連の流れをお手本として見せた後各人に下処理を任せ、仕上げの工程まで魚が流れてくるのを待つことにした。
ややあって、頭を落とすだけのサヨリが先に流れてきたので三枚おろしにする。このくらいの小魚は大名下ろし、つまりは尻尾から刃を入れてそのまま頭の方へと一太刀で片身を外した方がいい。身がぐちゃぐちゃになることも少ないし、何より骨に残る身の量が大して変わらないのだ。さらに手っ取り早く捌けるので、こちらを採用する。
下ろした身は適当な容器に溜めておいて、全部捌き終わってからまとめて皮を引く。こっちの方が手間が少ない。骨は場合により後で骨煎餅とかにするので取っておく。
そうしてサヨリとの格闘を終えた頃には他の魚も下処理が終わっていた。次はスズメダイを片付ける。
スズメダイの調理はぶっちゃけもう終わっているようなものだ。少し強めに塩を振ってあとは強火で少し焦げるくらいまで焼くだけの料理、福岡のあぶってかもというレシピを少し丁寧にしたものはやたらと取れるスズメダイを雑に美味しく食べるための物なので手間も最小限だ。本場では鱗も内臓もそのままで焼くらしいが、今回は人手があるのでやや丁寧にやる。
クロダイは先ほどとは打って変わって丁寧な本下ろしにする。あとは身を半分に割って血合い骨を取れば準備は完了だ。アラは適当にぶつ切りにして水を張った鍋に放り込み血抜きをする。後であら汁にでもしよう。
まずはクロダイから処理しよう。昆布と味の素、砂糖と塩を少し入れたお酢にサクの状態で漬ける。あとは食べる前に皮をひいて刺身にすればいい。
次にサヨリだ。これは小さいので皮を引くだけでそのまま刺身とする。イワシとかの小魚が半身そのまま寿司になっているのを見たことがないだろうか。あんな感じにする。
無心状態で皮をひき終わった僕はクーラーボックスから氷を少し拝借し、氷塩水を作ってそこにサヨリの身を放り込む。こうすることで僅かな臭みも消え、身もぷりぷりに締まるのだ。最後は大きな皿に盛り付け、おろし生姜とワサビを添えれば刺身は完成だ。
次にクロダイのサクをお酢から取り出して酢を拭い、皮をひいてお刺身サイズに削ぎ切りにする。これで酢締めも完成。
最後にサヨリの皮だ。サヨリは皮も美味しいので、シソと一緒にくるくると巻いて何個かをまとめて串に刺す。これを焼けば手が止まらないタイプの一品になる。
全ての準備が終わった。僕は全部をテント周りへと運び、いい感じに強火になった炭の上にスズメダイを並べながら好きに食べてよしと宣言し、スズメダイを見つつ率先して箸を伸ばした。
「いただきます」
まずはサヨリの刺身から。今回は本州の端っこの方で九州の影響が強い地域でのキャンプなので、それに倣い甘めの醤油と生姜で食べる。
「うまっ」
西の方では東とは違い、魚を熟成させたりせず新鮮なものを食べがちで、そのため醤油に旨味が添加されていることが多い。今回の醤油もその例に漏れず甘味と旨味が強く、釣れたてプリプリの魚とよく合う。サヨリもこんな小さい体なのに上品な青魚のような風味と白身のような食感と旨味をちゃんと持っていていくらでも食べられそうだ。
「……もっと釣った方がよかったかな」
さて次の一切れを食べようと思う頃にはすでにサヨリは半分消えていた。馬鹿が、味わうという言葉を知らないのか?
このままだと本当にサヨリをほとんど食べないまま終わってしまう。危機感を覚えた僕はあらかじめ皿にサヨリを五匹分ほど取り分けておき最低限を確保した。
安全マージンを取ったので一旦スズメダイをひっくり返す。程よく焦げ目がついていて美味しそうだ。もう少し焼いて完成かな。
スズメダイが程よい感じなのでそのままにしておき、僕はこれまた絶滅寸前に追い込まれたクロダイの酢締めを素早く確保して口に運ぶ。
「あー」
少し失敗したかもしれない。夏のクロダイは脂があまり乗っていないやつが多いのだ。たまにクロダイ釣りの名所みたいなところだと毎日釣り餌を食べてブクブクになったやつが夏場でもちらほらいるが、そんなことはなかったようだ。少しさっぱりしすぎている。甘酢あんかけとかで油を補うべきだったかな。
僕がウダウダと考えているうちにクロダイは皿から姿を消した。このバカ舌共に食わせる分にはいいかと開き直ることにしよう。みんなさっぱりしててうまいと叫んでいるし、まあいいだろう。
再び火の前に戻るとあぶってかもがいい感じに焼けていた。僕はもう一つの大皿に焼きスズメダイを全部並べ、骨が鋭いから気をつけてねと声をかけてテーブルに置いた。
「うおおおおおビール!」
担任があぶってかもを食べるなり、いきなり開けたばかりのビールを全て飲み干した。大きい瓶のビールだった。それを見て腹ペコ組も負けじと食べ始めるものだからもう大変だ。骨が多めだから食べるペースが穏やかなのが唯一の救いで、これがサヨリの刺身と同じ食べやすさだったら僕は食べる分を確保できていなかっただろう。
事実、このスズメダイは小さいし食いでがない割に骨も鱗も強いから下処理が面倒だし、釣るにも口が小さく意外と針にかかりにくいので敬遠されがちだが味はとても良い。ありえない食べっぷりになるのも仕方ないだろう。特にこの食べにくさの原因である骨回りの身がとんでもなく濃い味なのだ。強い塩にも負けない旨味の中毒性はラーメンみたいなものだろう。
そうだな次はスズメダイを焼き干しにしてラーメンでも作ろうかと考えていると催促が入った。
「なあ、もうなくなったんだけど」
「は?」
皿を見てみると大量にあったあぶってかもは悲しいかな骨とヒレ、頭を残すのみとなっており一欠片の身すら残っていなかった。
僕は慌てて鍋に水を張り沸騰させる。焼き台ではサヨリの皮を丸めたものを焼く。沸騰手前のお湯で鯛のあらを湯引きし、もう一度鍋に水を張りそれを放り込む。料理酒を少し入れて弱火で煮、最後に塩で味を整えれば潮汁が出来上がる。
その間に焼いておいたサヨリの皮はとうの昔になくなっており、鍋の前に全員が大集合していた。怖い。
「ほらもう好きに飲みなよ」
僕はそっと鍋の前から去った。なんかそんなに食べてないのにお腹がいっぱいなのだ。バカで胸焼けを起こしたのかもしれない。全てが嫌になったのでその辺で虫でも捕まえることにする。探さないでと書き置きを残し、僕はテントから離れた。




