河童との漸近線。
きゅうりはとにかくたくさんできるしすぐに大きくなる。少し目を離すともう大変で、消費のペースは二度と生産量に追いつけなくなる。ご近所さんも似たようなもので、よくきゅうりのお裾分けをいただく。
そんなきゅうりに追い詰められた夏の日、僕はいつものメンツを呼び、みんなが河童になるまできゅうりを食わせようと画策した。
「君たちには今からお腹が壊れるまできゅうりを食べてもらう」
僕は前置きもすっ飛ばし、集まったいつもの食いしん坊たちの目の前にきゅうりの一本漬けを大量に並べた。
「うひょ〜」
各々が思い思いの奇声を張り上げ、一品目はあっという間に空になる。二十本は用意したのに訳の分からない消費速度だ。しかしきゅうりはまだある。
「次はきゅうりと鶏肉の味噌炒めだよ」
次に出したのは回鍋肉と同じ味付けの炒め物だ。きゅうりは炒めるとぽきゅぽきゅとした独特の食感になり、おかずとしてかなり優秀なのだ。食傷気味でもうしばらく食べたくはないけど。
彼らはそんな僕の気持ちも知らず勢いよく平らげていく。その間に僕は次の一品を準備する。
わかめを水で戻し、きゅうりはその間に薄切りにして塩もみをする。あとは塩を洗い流し、絞ったワカメと一緒に砂糖、お酢、千切りの生姜、少しの醤油で和えた酢の物にする。
「酢の物だよ」
「待ってました」
いつのまにか皿が空になっていた。恐るべき食欲だ。しかしきゅうりはまだまだある。こんだけ食べてもまだなくならないきゅうりに手加減をしろと叫びそうになるがグッと堪えて、ここ最近きゅうりしか漬けていないせいでびしょびしょになった糠床からからまた大量のきゅうりを取り出す。中を洗いスライスして出しておけば勝手になくなるだろう。ついでに味噌と丸のままのきゅうりをたくさん出して机の上に置いた。みるみる減っていくきゅうりたち。蝗害もかくやの有様だ。
しかしきゅうりはまだまだある。僕はきゅうりを麺棒で叩いて砕き、鰹節と醤油をぶっかけた。鍋に油を入れニンニクスライスを放り込み、ニンニクがカリカリになったくらいで熱した油ごとそれをきゅうりにかける。これがなぜか美味しいのだ。当然、この夏だけで数えきれない回数を食べたこの料理を僕は食べたいとは思わない。黙ってイナゴ共の机に置く。
「これ好きなんだよな」
「よかったね、好きなだけ食べてね」
なぜこうもきゅうりまみれで飽きないのか不思議でたまらない。親は彼らにきちんと食事を与えているのか疑問な勢いだ。僕はまだ山と坐すきゅうりの一部を削り、角切りにして同じ大きさに切ったトマトと一緒の皿に入れた。後はこれをバルサミコ酢、オリーブオイル、塩、バジルで和えれば洋風サラダの完成だ。これはトマトに反応した天明屋さんが全てを抱え込んだ。
その後も僕は手を変え品を変え最後は面倒になりきゅうりをそのまま机に置いた。あっという間になくなるきゅうり。僕は緑色の負債を完済したのだ。
その時、チャイムが鳴った。僕は優雅な気持ちで出ると、そこには近所のおっちゃんがカゴいっぱいのきゅうりを抱えて立っていた。
「ほいこれお裾分け」
僕は膝から崩れ落ちた。




