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キノコの夏。

 きのこは秋のもの。これは固定観念でしかない。種類にもよるがオールシーズンで何かしらの食用キノコがあるところにはあるもんだ。当然、太陽がそのまま落ちてきたような夏でも元気なきのこは一定数存在する。

 というわけで、僕は元気にカブトムシを探していたカキニーを捕獲、近所の山へと繰り出していた。


「今日はきのこ狩りだよ」


「カブトムシは?」


「他の日にでも捕まえなさい」


 きのこ狩りに行くぞと伝えたのにも関わらず麦わら帽子に虫取り網とカゴの、カテゴリ違いのフル装備をしたカキニーは少ししょげた顔をする。何だお前は。


「ほら、脳みそまでカブトムシサイズのアホとお喋りをしてる時間はないんだ、日暮れまでに晩ごはんが欲しいんだよ」


 そう言って僕はカキニーにビニールとナイフを渡し、今日の目的を告げる。


「今日はタマゴタケとヤマドリタケシリーズを狙うよ」


 はいこれ、と僕はカキニーに図鑑の写真を拡大したプリントを手渡した。

 タマゴタケは全体的にオレンジ色のキノコで非常にポップな見た目をしている。毒キノコとして有名なベニテングタケの親戚で、食感は微妙だが旨味はピカイチのキノコだ。

 一方ヤマドリタケはずんぐりむっくりとした大型のキノコで、きのこのイデアのような形をしている。どちらも間違えるのが難しいようなキノコだ。

 ただ、ヤマドリタケの中には判別の難しいドクヤマドリという毒キノコがあるため、最後は僕がチェックする予定である。一応今から行く山では一度も見たことがないが、念には念を入れる。


「じゃあ手分けしてキノコ狩りに行こうか」


「おう」


 途中で見かけたら絶対に捕まえると、彼は虫籠を持ったまま入山していった。僕はそんな彼の反対側はと向かうことにした。

 どちらのキノコも地面から生えるキノコなので、僕は下を向きながら歩く。適宜水分を補給したり、スズメバチにビビったりしながら歩くこと数十分、ついにファーストコンタクトに成功した。

 ぽってりとした見た目の太っちょキノコ、これはヤマドリタケだ。より厳密にいうならヤマドリタケにも色々な種類があり、味にも多少の違いがあるのだが、毒やよほど不味い種類を除いて僕は一括りにヤマドリタケとしている。


「つまりこの辺には……」


 案の定、辺りにはポツポツと似たような見た目の鈍臭そうなキノコが生えている。キノコが胞子で増える以上は、一つ生えてたら他のもその胞子が飛ぶ範囲で生えていることが多いのだ。僕は取り尽くさない程度にヤマドリタケを収穫し、掘り返した土は体内に埋め戻しておいた。こうすることで下の方の菌糸が乾かずに、また来年も生えやすくなるらしい。


「そこそこ取れたな」


 スーパーのビニールいっぱいに取れたヤマドリタケ。これを干したものはちょっと高級なスーパーとかではよく見られ、ポルチーニと偉そうな名前が付いている。僕は冬のシチューなどのために、この時期は毎年ヤマドリタケを取り溜めては干している。

 この分なら今年は困らなそうだと思いつつ山を歩いていると、違う群生地を発見した。僕はもう一枚ビニールを取り出し、ここのヤマドリタケも全滅させない程度にいただくことにした。


「一旦休憩にするかあ」


 大型のキノコとはいえ個体差もあるし一つ一つはそんなに重たくもない。しかしキノコも積もればダンベルとなり、僕の貧相な腕を苛む。僕は適当な木陰に腰を下ろした。


「やっぱ夏はこれだよね」


 僕はリュックからラップにくるんだおにぎりを取り出した。雨と胡麻を混ぜたご飯にシソを巻いたものだ。気持ちの良い塩気と酸味、シソの香りがいいバランスで、胡麻もきちんとアクセントとして機能している。

 食べ終われば水筒の蓋を開け麦茶で一息つく。移動中もこまめに飲んでいたが、ゆっくり飲むとやはり味が違うように思える。そのまま三十分ほど、僕はのんびりと風を感じることにした。


「おーい、お前だけうまそうなもん食うな!ずるいぞ!」


 二つ目のおにぎりを食べつつ、さてそろそろ休憩からあがろうかという時、反対側に行ったはずのカキニーがなぜかこちらへと近づいてきていた。


「何でこっちにいるの?」


「一周した」


「やたらと早いね」


 まあなと胸を張るカキニー、しかしその両手にはキノコの入ったビニールは見えず、代わりにやたらと虫かごが充実していた。


「キノコは?」


「探しとらん」


「カブトムシは?」


「クワガタはたくさんおったんじゃけど……」


 彼は自分の仕事どころかサブ目標のカブトムシさえ放り捨てて、ひたすらクワガタを追いかけていたらしい。


「ところでカキニーはバイトしたことある?」


「しなのんの店で何度か」


「じゃあわかると思うんだけど、働いてない人に給与は出ると思う?」


「出ないじゃろうなあ」


「そうだね、だから僕は君にご飯を与えないよ」


 せめて探したフリくらいしてくれたら普通にあげたんだけどね、と言うと、カキニーは大きな声を出して崩れ落ちた。


「ワシの昼飯!」


「一秒たりとも君のものになった事実はないよ」


 こいつは少し民法を学んだほうがいいなと思った。

 時刻は午後一時、せめて一つくらいキノコを見つけてこいとカキニーの尻を蹴り飛ばして、十分な収穫を得た僕は一足先に下山した。

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