表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/56

コノシロはママカリの夢を見るか。

 招き入れる前に僕は彼らを畑へと送り出した。なすとトマト、あとインゲンにシソを取ってこいと。どうせ食事の支度には時間がかかる。その間タカりにきただけの奴を遊ばせておくほど僕の懐は広くない。暑いからやだとぶー垂れていたが、じゃあ飯はなしだというと素直にいうことを聞いた。動物みたいだ。


「じゃあちゃっちゃとやっちゃうか」


 僕は冷房を入れ、まずは米を研いだ。そのあとは吸水させる。今回は大飯食らいが多いのででかい羽釜で十合炊く。

 次に魚の下処理だ。イワシは手で開いて氷の入った塩水で洗い水気を切る。ハゼは塩で揉んで滑りを落とし、軽く鱗を取ったら松葉おろしにする。最後はコノシロだ。鱗をきちんと取り、内臓と頭を落として3枚に下ろす。

 次は時間のかかるやつから処理をする。まずはコノシロは皮付きのまま一ミリ前後の薄さに切る。これは骨切りも兼ねている。続けてそれを軽く塩揉みして余計な水気を抜き、昆布と砂糖を入れたお酢に漬ける。後はご飯が出来上がるタイミングで取り出せば完成だ。

 このタイミングで畑からみんなが帰ってきた。僕は野菜を受け取り、まずシソを手に取った。

 葉柄を落として半分に切る。それをイワシの開きの上に乗せていき、さらにその上に叩いた梅肉を乗せて巻く。最後に串で止めてイワシは終わり。

 トマトは氷水で冷やす。ナスはほどほどの厚さに切って、インゲンはヘタだけ取る。最後に氷水で小麦粉と卵を溶いて下準備は全て終わりだ。

 ご飯を炊き始める。その横で油を中華鍋に張り温める。程々に温まったタイミングで、僕はナスとインゲンに衣をつけ天ぷらを開始した。そのまま続けてハゼ、イワシと揚げる。どれもそんなに厚みがないのですぐに揚がる。あとは網を敷いたタッパーに上げ、完成だ。


「おーい、配膳手伝って」


 振り返ると既にそこにはゆっちーがいた。待てができないのか?ゆっちーに天ぷらを持たせ、続いてくる人たちにご飯とコノシロの酢締め、冷やしたトマト、あと常備している茗荷の糠漬けを持たせて居間に戻った。


「じゃあ食べようか、いただきます」


「「「「いただきます」」」」


 まずはコノシロを食べる。薄切りにしただけあってよく浸かっている。骨も気にならない。飲み込めばふわりと風味が広がり、思わず白米に手が伸びる。


「コノシロ全部俺のでいいか?」


「はっ倒すよ」


 どうやらしなのんはコノシロが気に入ったらしい。しかし独占は許されざる悪徳だ。思わず共産主義者になりそうだった。

 次はハゼの天ぷらを食べる。どこか鄙びた牧歌的な香りと上品な白身の旨味がよく噛み合っている。天つゆも悪くはないが塩で食べた方が風味が分かりやすくて個人的な好みに合致する。


「なあうっちゃん」


「なによゆっちー」


「餌まだ残ってる?」


「残ってるけど何?」


「いや、もう一度釣りに行かないかと」


 これで足りるかわからないとハゼの天ぷらをゆっちーは黙々と食べまくっている。嘘でしょ、捌きながら数えたけど六十八匹いるんだぞ。

 付き合ってられない。僕は道具は貸してやるから好きにしろと告げ、箸休めにトマトを齧った。真夏の太陽と草いきれをそのまま詰め込んだような甘さと野生味が口いっぱいに広がる。軽く塩をかければスポーツドリンクなんかよりこいつを寄越せと奪い合いになる旨さだ。これが毎日取れるなら菜食主義でもいいかもしれないといったほどだ。


「なあ瀬戸、氷水余ってるか?」


「余ってるけどどうしたの?」


「よしわかった」


 天明屋さんは質問に答えることなく戸を開け外に出ていった。しばらくすると、トマトをたくさん持って帰ってきた。


「これも冷やしとく」


「許可くらい取ってよ」


 まあいいんだけどさ。茗荷をかじりつつ、この調子だと夏の間はちょこちょこと天明屋さんがトマトを食べにきそうだと思った。

 次はイワシのシソ梅肉天だ。天ぷらとイワシの油っけとシソ梅肉の爽やかさがとても良い。米がとてもすすむ味だ。夏場の梅干しはどうしてここまで有難いのか、昔は薬扱いだったのもよくわかる。ここでご飯がなくなったのでおかわりをしに行く。後ろを見るとゾロゾロとみんながついてきていた。アホのペンギンみたいだなと思った。

 にしてもコノシロが美味しい。三匹ではとても足りない。ひたすらにご飯を消しとばしにくる。おかわりを重ねていって、腹八分目というところで、米もおかずも空になった。みんなはまだ食うぞといった顔をしている。どこにそんな入るのさ。

 僕はそんな彼らを見てため息をつき、油を温め直してハゼとイワシの骨を素揚げにする。あとは熱い緑茶を淹れる。


「ほら、もうこれしか残ってないからこれで終わりだよ」


 僕は緑茶と骨煎餅、あとは追加で梅干しを一粒ずつ腹ペコどもに供給した。しかし所詮は骨、あっというまになくなり僕はそれでも物足りなさそうにしている彼らに好きな野菜を取ってこいと命じた。衣はまだ少し残っている。諦めて天ぷらマシンになることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ