交換老人。
あ、お久しぶりです。恥ずかしながら戻ってまいりました。本日複数話投稿しています。よろしければ燃料の感想などくださると嬉しいです。
通行の邪魔になる位置に放置されている死体を避けつつ校門を出る。期せずして丸々1日が空いた。どうしようかな。
僕はとりあえず自転車にまたがり風を浴びる。時刻はまだ9時半だが、太陽は容赦なく僕を焼く。うんざりする暑さだ。これなら教室にいたほうがよかったかもしれない、いや、血生臭い部屋になんかいたくない。かと言って図書館の読みたい本は大体読んだし、ファストフードやファミレスも気分じゃない。映画も最近気になっているのは特にない。
手持ち無沙汰な僕はいつでも僕を暇から救ってくれる鞄を開け、釣具があることを確認した。そうだ、釣りに行こう。
荒んだ心を癒すために海とか川をぼーっと見てたい。そう思った僕は自転車の向きを変え釣具屋へ赴くことにした。
僕の学校はそこそこ大きい川の近くにある。そこを下ると割とすぐ河口と船着場があり、当然のように個人経営の小さな釣具屋がある。
自転車を止めて入店する。
「ちわー」
「お、坊主学校は?」
「もう夏休みだよ」
馴染みの店主にゴカイと氷、あと発泡スチロールの箱を頼む。
「二千円丁度だ」
「ほいちょうど」
ざっくりと会計を済ませて河口へ向かう。流石にこんな時間から暇しているのは年金受給者のご老人くらいで、竿を出している人は少ない。
僕はかなり海寄りの川岸に腰をかけ、愛用の延竿を取り出し仕掛けを用意する。針と糸とおもりだけのシンプルなやつだ。ゴカイを短く切って水面に向かって放り投げる。あとは魚が来るまで待つだけだ。
ハゼは年魚で、基本的に一年で寿命を迎える。つまりは基本的に釣り針に対してウブな奴らが毎年凄まじい群れを作るのだ。どういうことかというと、針を投入してから数分もしないうちに竿先がプルプルと震えるのだ。
「おっ」
竿をゆっくりと立て、仕掛けを引き上げる。間抜けヅラをした愛すべき十センチ前後のハゼがぶら下がっていた。
「幸先がいいね」
僕は針からハゼを外し、氷の詰まった発泡スチロールの箱に放り込んだ。
しばらくそれを繰り返していると、横のおじいさんから声をかけられた。
「坊主景気がええな!ようけ釣れとる!」
「どうもどうも」
「なに釣ってるんじゃ」
「ハゼです」
「ハゼか、ええなあそういえばそんな頃合いか」
しばらく雑談をしたあと、おじいさんはこう切り出した。
「なんぼか交換せんか?コノシロがアホほど釣れとんだけどこればっかあってもあれじゃけん」
「コノシロかあ」
コノシロとは基本的にはあんまり食べられていない魚で、コハダが大きくなったやつだ。下手に処理をすると小骨で地獄を見ることになるし、人によってはその独特な風味を嫌う人もいる。しかしうまくやればとんでもなく美味しい魚なのだ。それにデカい。
「いいですよ、ハゼ四のコノシロ一でどうですか?」
「それで構わん」
ちょい待っとれとおじいさんはクーラーボックスを持ってきて、釣れたてのコノシロを三匹分けてくれた。
「あ、これもおまけにつけたる」
そういうとおじいさんは豪快に箱に手を突っ込み、カタクチイワシを一掴みくれた。こんな所にまで回ってくるんだ。
「ありがとうございます」
「ええんやで」
そういうとおじいさんはついでに取り出したのか冷えたビールを開け、自分の釣り場に戻っていった。
「……随分増えたな」
ハゼは五十匹ほど残っている。イワシも二十くらい、コノシロが三、十分すぎるな。僕は少々釣り餌を残したまま帰宅することにした。時刻はまだ11時を少し回った所だった。
帰宅をすると、玄関前で何故かいつもの馬鹿たちに天明屋さんがセットになって、古き良き狩猟ゲームの通信プレイをしていた。
「なんで?」
「なんでって言われても……」
しなのんもゆっちーもカキニーも天明屋も口を揃えてこの時間に帰ったら怪しまれるし怒られると自分勝手極まりない理屈を振りかざし始めた。挙句の果てには暑いから中に入れろ、お腹すいたからご飯をくれと、釣り場の猫みたいなことを言い始めた。……まあ、一人で食べるには多いしいいか。
僕はため息をついて彼らを招き入れた。




