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愚痴と黒金。

「じゃあ食べようか」


「俺、もっと派手な高級食材が来ると思ってたんだけどしょぼくないか?」


「どうやったら遺産で細々と暮らしている受験を控えた高校生がそんな予算を捻出できると思えるの?」


 しなのんが文句を言う気持ちもわからなくはない。たしかに「期待しとけ」と言った割には普通の食材しか使っていないし、調理技術も料亭やら名店と呼ばれる類の店に比べたらまだまだかもしれない。行ったことないから知らないけど。ただ、そこそこ手間をかけたのだ。食べる前から食欲が失せるようなことはしていないはずだ。


「嫌なら食べなくていいよ」


「食べないとは言っていない」


 じゃあ文句を言うなと言いながら手を合わせて食前の挨拶をする。


「とりあえずまずは魚から食べるか、たたきにピーマンとかゲテモノの予感しかしないから先に消費しなきゃな」


 しなのんは失礼なことを言いながら鯵のたたきに手をのばす。正直中華鍋で後頭部をフルスイングしたくなったが、こんな奴のために僕に前科が付くのは納得がいかない。なので死体を埋める場所を見つけてから始末することにして、この場ではぐっと堪える。


「はっ!?うま!わけわかんね」


 虫の死骸を摘むような嫌そうな顔でたたきを口に運んだしなのんが、口に入れるなり歓声を上げた。


「ピーマンいいでしょ、鰹に青唐辛子とか、青魚にピーマン系の風味とか意外と合うんだよ」


 そう言いつつ僕も味を確認する。うん、問題ない。この青臭さも適切な量なら鯵のともすれば強すぎる風味と脂をリセットして、常に最大風速の旨みが出るようにしてくれる。入れすぎるとなんか青臭くて脂っぽい嫌〜な感じのものになるので、あながちゲテモノって評価も間違ってはいない。

 きちんと魚とピーマンの風評を上げられたし、しなのんの埋葬はもう少し待ってもいいかもしれない。


「あと、お前のとこ毎回白米が異様に美味いんだよな、これから炊飯器マンって呼んでいいか?」


 いや、やっぱなる早で殺そう。こいつは生かしてはおけない。

 僕は山のどの辺なら人が来ないか、アリバイはどう作ろうかと考えながら味噌汁を啜る。うん、やっぱ青魚はいつでも強くていい出汁が出る。次作るときは玉ねぎとか入れたら甘さがいい感じに脂と合わさってより良くなるかな。


「ところでよ」


「何?」


 思考を二方向に向けていると、別に向いていない対面から妨害が入った。


「私立一本でいくって言ってたけど、どこ目指すんだ?お前みたいなよく分からんやつがキラキラした私立、しかも文系でやってけるとは思わねえんだけど」


「やかましいな、どこの大学行っても一定数僕みたいな日陰者はいるはずだし、その人たちと仲良くやるよ」


「じゃあまずはキャンパス訪問しまくって比較的鬱々とした大学を探すところからだな」


「しなのん、あんまりうるさいと入学直前にあらぬ噂流しまくって人生詰ませるよ」


「キャンセルカルチャーだけは嫌だなあ」


 対面から降ってきた話題はろくなものではなかった。確かに進学先候補の雰囲気は考えなきゃいけない大きな問題だけど、別に今考えなくてもいいじゃん。ご飯を食べようよ。暗にそんな空気を伝えるために、話を切り上げ炒め物に手を伸ばす。


「……辛くしたいな」


 オイスターソースで随分優しいコクが生まれているが、僕は今強い精神的負荷がかかったので何か辛いものが食べたかった。


「ちょっと一味とってくる」


「あ、俺は使わないから自分のとりわけた分にだけかけてくれよ」


 ストレッサーはストレスを感じないらしい。ニコニコしながら炒め物を貪っている。このままのペースで食べられたら無くなるので先に自分の分を取り分けて、キッチンへと向かう。


「あ、ついでにご飯おかわり」


「……」


 僕はお茶碗と炒め物の一部を持って台所へ向かい、適宜必要な動作をして席に戻る。もう一度お代わりと言われるのは面倒なのでご飯は昔話みたいな盛り方にした。しなのんはそれを見てもなにも感じないようで、平気な顔をして箸を進めていた。

 ご飯も食べ終わり、僕が食器を片付けていると何故か風呂場からシャワーの音が聞こえてきた。訝しみつつ洗い物を済ませて居間に戻ると、何故か湯上がりのしなのんがいた。


「あ、帰んの面倒になったから泊まってくことにしたわ」


「一言くらい相談しなさい」


「ぶりぶりうんちまん」


 僕は洗い物の山から中華鍋を手に取りしなのんの頭めがけてフルスイングした。彼は昏倒した。

 ため息をつきながら自室に戻る。彼は居間に転がしっぱなしだ。あのアホに布団はもったいない。大人がタバコを欲しがる時ってきっとこんな時なんだろうなと思いながら、意識を熱帯夜に沈めた。


 

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