宵闇に灯る。
私は個人的に、夏の盛りより秋の夜長が近づいてきたときに読むホラーの方が怖いと思っています。というわけで、今回はマイルドホラー回です。
お腹がいっぱいになると青春イベントをやってみたくなるのは、僕のような思春期を拗らせて趣味の深みにハマってしまった人間の共通見解だと思う。しかしながら、あまりの青春経験値の少なさに下準備で失敗するという悲劇が当然のように着いて回ってくる。つまり何が言いたいのかというと、僕はロケット花火以外の花火を揃え忘れたのだ。
「というわけで」
「どういうわけだよ」
晩ご飯が終わり、みんなが戻ってきて今は室内ではあるが、僕は無言でロケット花火に火を点け、回答のしようがないツッコミをしてきたゆっちーに向けて発砲した。硝煙の香り、花火のはぜる音、ゆっちーの悲鳴がハーモニーとなり部屋を満たす。
「というわけで、ロケット花火を使った遊びか、その他なんかいい感じの遊びがないか募集します」
ちなみに僕はロケット花火を人に向けていれば楽しいので正直なんだって構わない。
「ワシ肝試ししたい」
「この中で一番度胸も体力もないのに?」
「やかましい」
それに決まっても文句を言うなよとカキニーに念を押し、僕は他の人の意見を集めようとしてみたが、どいつもこいつもロクなアイデアを出さないので結局肝試しをすることになった。
「じゃあ次は肝試しのコースやらを決めようか」
肝試しに必要なのは大きく分けて二つだ。一つはコースの確定。これを行わないともし道に迷った人が出てもどうしようもなくなる。もう一つはゴールの証拠の用意だ。これをしないとスタート地点付近で時間を潰していかにも自分は全てを回ってきたかのような態度を取るという『逃げ』が可能になってしまう。
「とりあえず昨晩行った崖まで行って帰ってくるコースでいいだろ」
みんな場所わかるだろうし、とゆっちーが発案する。僕としてはもうあまり思い出したくないイベントが発生した場所なので行きたくないんだけど、他にみんながわかる場所もなし、仕方なくそこにすることにした。
「じゃあ次はゴールした証拠をなににするか決めようと思うんだけど」
「あの辺だけそう言えば石の色違わんかったか?じゃけん石を拾ってくればええじゃろ」
カキニーの提案に僕は記憶を辿る。僕たちのいる中国地方は花崗岩の土地だ。基本的にピンクと白が混じりあったような色をしている。しかしこないだの崖はたしかに結構黒っぽい色をしていた。夜だからよく見えてなかったけどざっくりとした違いはわかる。なので僕はその案を採用した。これで準備はほとんど終わりだ。
「じゃあ順番を決めたら森へ行こうか」
僕はノートのページを一枚破りあみだくじを作った。僕は順番を記入した部分を折って見えなくして、適当に線を引くように促した。
しばらくして、みんなが好きなように線を引き終わったあと、順番に名前を記入していく。あとは指で辿ってくじの結果を見るだけだ。
「……嘘でしょ」
くじの順番は公平だけど残酷だ。僕は最後になってしまった。最後ともなるともうみんな攻略済みで気が抜けているので、肝試し特有の緊張感はすでに無くなっているだろう。あーあ、つまんない。ちなみにトップバッターはしなのんで、二番目が天明屋さん、三番目がゆっちーで四番目がカキニーだった。
「もういいや、じゃあスタート地点の森に行こうか」
僕は行きがけに自転車のライトを懐中電灯代わりににするために駐輪場に寄ってから森へと向かった。
「じゃあトップバッターのしなのん、よろしく頼むよ」
「なんか投げやりだな」
「そうでもないさ」
僕はやるせなさを全面に押し出しつつしなのんにライトを渡し、森へと送り出した。ここからだと大体往復十分くらいで帰ってくるはずだ。ほんじゃあ行ってくるとしなのんも気楽な様子で森へと入っていった。そして姿はすぐに見えなくなった。
暇になった僕たちは、それぞれの知っている怖い話などをしながら時間を潰していた。一日中同じところに立ち続ける女の話、魚を捌いたら寄生虫しかいなかった話、家に帰ってきたら隠していたエロ本が机の上に置かれていた話、殴ったヤンキーが動かなくなった話……。ホラーと呼べるかも怪しいそんな話をしながら帰りを待っていると、顔に張り付いた蜘蛛の巣を払いながらしなのんが帰ってきた。
「ほれ、証拠の石だ」
特に何事もなかったかのように黒っぽい石を差し出すしなのんを見て周りに安堵の空気が漂ったのを感じ、僕は憂鬱になった。さようなら僕の緊張感。
「次は天明屋さんだね、いってらっしゃい」
「おう」
彼女は暗い森へライト一つで意気揚々と突撃し、やはり予想通りの時刻で帰ってきた。三人目のゆっちーも同じくだった。
「じゃあカキニー、君の番だよ」
「わかった」
緩み切ったその空気に送り出されたカキニーもやはり緩み切っており、普段なら怖がるはずが頼らないライト一つを手に悠々と森に突入していった。
「そんで、それがまた食べれたもんじゃなくてさ……」
相変わらずくだらないことを喋っていると、突如森から警笛のような鋭い悲鳴が聞こえた。そしてまもなく足音がこちらへと近づいてきた。何事かと思い立ち上がって警戒していると、森から息も絶え絶えのカキニーが飛び出してきた。
「出、出た!早よ逃げるぞ!」
「幽霊の正体見たり枯れ尾花って聞いたことある?」
「違う!ええからほんとに早よ逃げるぞ!」
話は後だとばかりにビビっているカキニーを見て、僕はただ事ではないと思ったが、すぐにカキニーが逆ドッキリを仕掛けるために狂言をかましているだけなんじゃないかと思い始めた。
「はいはいわかったわかった」
後ろのみんなも「まーた稚拙な真似を」みたいな顔をしており、誰もカキニーの声には耳を貸さなかった。
「まあとりあえず逃げる前にカキニーは花火の的だよ」
そう言って僕は取り決めておいた罰ゲームを粛々と実行するために花火とライターを取りに、先ほど車座になっていたところ、つまり森の方へ向かおうとした。が、そこには。
「ん……?なんだあれ?」
森の奥がやけに明るいのだ。しかし足音はない。代わりにお囃子のような音が聞こえてきた。
「んん?」
さらに目を凝らすと、ゆらゆらと何かが光ながら揺れ、こちらへと向かってきている。しかも光源は一つではなく、何十、下手したら百を超えるような数で列を成しこちらへと来ている。
「うっそ」
あまりの奇妙さに僕は他のメンツの方を振り返ると、みんなはすでに全力疾走で逃げていた。
「あっ!待っておいてかないで!」
僕もつられるように彼らへ向けて走り出し、慌てて部屋へと逃げ込んだ。鍵を閉め、カーテンを閉め、恐怖からか近い位置に集まっていたみんなに割り込み団子の一員となる。
「ねえカキニー、あれなに?」
「分からん、お前らよりは近くでみたけど姿も形もはっきりせん!」
カキニーの震えた鋭い囁き声に、僕はいよいよただ事ではないぞと焦り始める。一体あれはなんなんだ?今まで霊的な体験とか一度もしたことないのに……
何か手掛かりになるようなものはないのかと色々思考の糸を辿ってみたが、一向になにも思いつかない。堂々巡りを繰り返していると、先ほどのお囃子がまた近づいてきた。
「ひっ」
短い悲鳴を上げ、天明屋さんが高速で震え始める。僕はあまりの意味不明さに『なんだか生まれたての鹿みたいだな』と馬鹿みたいな現実逃避を始めることにした。
しかしながら非現実的な現実は音を伴って近づいてくる。いよいよカーテン越しでもなんか明るいぞと思うほどには近づいてきたようだ。
「ほんとになんなんだよ……」
僕はあまりの非日常に、恐怖と驚愕を通り越して、代わりに謎の怒りが湧いてきた。
「目に物見せてやる」
僕は調味料入れから塩を取り出し、とりあえず部屋の角に盛った。そして勢いよく窓を開け、塩を外に向けて撒いた。止めとばかりにロケット花火もありったけ乱射する。
十数メートル先というところまで来ていたその正体不明の青白く光る怪異は、ロケット花火に当たるとポスンと音を立てて消えた。しかしそれによる安堵も束の間、それらはすぐにまた復活したのだ。
「ねえねえみんな、なんかあいつらロケット花火効かないみたい」
「効くわけねえだろドアホ!」
ゆっちーは僕を全力でぶん殴り、急いで窓とカーテンを閉めていた。かなり頭が痛い。しかも追撃をかけるように他の面々も僕の頭に累積ダメージを与え始めた。
「なんだよ、光ってるだけのものに立ち向かう勇気すらない腰抜けのくせに拳だけは一丁前じゃん」
「なんだよ、光ってるだけのものにロケット花火撃ち込む勇気しかない阿呆のくせに口先だけは一丁前じゃん」
僕の愚痴はすぐに天明屋さんによるミラーリングに遭い、皮肉としての効力を失ってしまった。
「んで一体あれは」
なんなのさ、という言葉は継げなかった。なぜなら急に青白いなにかが窓をガタガタと揺らし始めたからだ。僕は慌てて塩を窓のふちに線のように撒き、どうか効きますようにと祈って一番近い布団の中に頭から飛び込んだ。
「このクソバカ!お前のせいだからな!」
布団には天明屋さんがすでに入っていて、僕が飛び込んでくるや否や僕の頭を引っ叩いてきた。
「余計なことして気ぃ引きやがって、ほっといたら行ってくれたかもしれねえのに!」
「いやもうまったくもっておっしゃる通りです」
流石の僕も平謝りした。塩が効いているのか、それとも「招かれないと入れない」タイプの怪談なのか分からないが、とりあえず連中は今のところ窓をガタガタさせ続けているだけなので、それなりに会話ができる程度には天明屋さんも落ち着いているようだ。
ガタガタと鳴り続ける窓。一体いつになればこいつらは飽きてどこかに行くのだろうかとぼんやり考えながら僕は天明屋さんに謝り続けていた。
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