カキニーのバカツキ
復活記念の三話連続投稿です。
「んでうっちゃんはどんな仕掛けを用意しとるんかな」
近くの渓流とも川ともつかない上流域でカキニーは仕掛けを確認していた。
「毛針と普通のミャク釣りか……」
この川幅ならまあどっちも使えるか、カキニーはそう独りごち、まずは擬似餌から試すかと毛針の仕掛けを組んだ。竿の長さは取り回しやすい三メートル弱くらいであったので、それに合わせて道糸の長さを決め、毛針を結びつけると、竿のしなりを活かして軽く水面に仕掛けを放った。
数回その動作を繰り返すと、水面に波紋が浮かび、代わりに毛針が水面から姿を消した。すかさず竿を立てて魚を針にかける。竿が不規則にしなり、まもなく魚がカキニーの手元に入った。
「こりゃハヤか、まあうっちゃんに押し付ければ上手く仕上げてくれるじゃろ」
ハヤを始めとするコイ科の魚はやたらと小骨が多く、食べにくいことで有名だが身の味は良い。晩飯は南蛮漬けとか食べたいなと思いながらカキニーは釣りを続ける。
「ここは毛針じゃとハヤしか掛からんな」
数十匹ハヤを釣った後カキニーはやっとその事実に気がついたらしく、仕掛けを変更することにした。魚は全てビクの中で生きたまま保存されている。
しばらくして仕掛けを変えたカキニーは餌となる川虫、つまり様々な生き物の幼虫を石をひっくり返しては捕まえ始めた。そして少し森のほうに行ってミミズも捕まえ、ある程度ストックができたところで再び釣りを再開した。
「まずは川虫からいってみるか」
そう言って彼は針に虫をつけると水中へと投下した。先ずは川が深くなっている部分に数度、そして反応がなければ若干段差になっており白い流れこみを作っている部分に投げる動作を十数分ほど繰り返した。
五つ目の流れこみに仕掛けを投げた時、カキニーの竿は当たりを知らせた。
「よっしゃ」
カキニーはすかさず竿を立てて合わせる。先ほどに比べて強い振動が竿を刺激する。釣れた魚を逃さぬよう彼は慎重に竿を操り、手元に魚を手繰り寄せた。
仕掛けの先にはまあまあの大きさのアマゴが不満そうな顔をしてくっついていた。カキニーは喜びその魚をビクへと放り込み、川虫とミミズを使い沢山のアマゴを釣り上げた。
「いやー、ここは思ってたよりライバルが少ないのかもしれん」
魚もスレとらんし、最高だわと彼は餌のある限り魚を釣り続けた。
しばらくしてこれ以上は持って帰れんなとカキニーは呟き、持ち帰るための下準備を始めた。
どの魚もとりあえずエラと内臓を取り除き、渡された銀色の保冷バッグの中に放り込み、意気揚々と家路に着く。時刻はまだ十時半である。満足満足と彼は楽しげに来た道を帰った。あとは冷蔵庫に魚を放り込んで帰りを待つのみである。
「あ、そうじゃ、一匹くらいおやつに貰っても文句は言われんじゃろ」
そう思い立ったカキニーは冷蔵庫に入れた魚からとりわけ大きなアマゴを取り出し、塩と残った竹串を持って炊事場へと向かった。
「先ずは古新聞丸めて着火剤、細い小枝を上に乗せて火をつけたら徐々に太い枝にしていく……」
たしかこうじゃったよなと手順を確認しながら彼は熾火を作り、その火でゆっくりと塩を強めに振ったアマゴを焼き始めた。じっくりと色がつき始めるそれは、脂が垂らすようなことはなかったが代わりに川と鱒の上品な香りをあまりに撒き散らした。
串を回しながら全体を満遍なく焼き、良い具合で魚を取る。
「ほないただきます」
まずは背中の肉に齧り付く。パリッと香ばしく焼き上がった皮目の塩気と、ふっくらとした淡白な身の味が混じり合い、えもいわれぬ幸福を口内にもたらした。
「うっま」
カキニーは夢中になり、アマゴをむさぼる。しばらくすると順当にアマゴは中骨と頭を残すのみとなった。
「もうなくなりおった」
まあお腹もそんなに空いてないしこんなもんでいいか、カキニーはそう言うと冷房の効いた室内で他の班員を待つことにした。少なくともタンパク質には困らんな、そう思うだけで彼は幸福になっていた。
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