深夜の労役
天明屋さんの先導に従って、犯人に仕立て上げられた三人を引きずりつつ僕たちは森の入り口へとたどり着いた。
「んじゃあ、もうちょい奥に行ったらコイツら捨てるから」
誰も彼女の意見に文句を言わない、自分の命が惜しいからだ。僕らは働きアリのように、無心で彼らを指示された場所へと運ぶ。
森をしばらく行くと、そこには落差が三メートルほどの崖があり、そこで天明屋さんは立ち止まり、崖の下を顎でしゃくってこう言った。
「そこに捨てろ」
もちろん、逆らったら今度は僕たちが崖下に捨てられるだけなので、しなければならないというのはよくわかる。でも、ごく僅かながら残された良心が『これ以上畜生外道に堕ちちゃダメ』とブレーキを掛けてくる。周りを見ると残りの連中もみんな戸惑ったような表情をして、善性と恐怖の板挟みになっているようだった。
バキリ、と不吉な音が鳴ったのでそちらを見てみると、天明屋さんが太い木の枝をへし折って即席の鈍器を作成していた。
「十数え終わる前に捨てろ、じゃなきゃてめえらもそいつらと同じ場所行きだ」
そう言って天明屋さんはカウントをしながら素振りを始めた。風切り音は鋭く、枝の動線は実に美しい。
僕の天秤は恐怖に傾いた。みんな自分が一番かわいい。
「一番いきまーす」
僕はハンマー投げの要領で遠心力を付け、手に持っていた肉塊を崖へと放り投げた。暗闇で行き先はよく見えないので罪悪感もそこまでではないと自己暗示をかける。
僕のフルスイングを見た残りの面々も、思い思いの掛け声や奇声と共に、かろうじて原型の残っているそれらを闇の底へと放り投げた。
どさりと音が聞こえれば、後に残るのは痛いくらいの静寂と、かすかに聞こえる自分の鼓動と呼吸音だけの世界になった。
「よし終わったな、帰るぞ」
彼女の満足げな声が聞こえて、僕たちは意思を持たない操り人形のようにその号令に従った。助けて、助けて……と、微かな声が崖下から聞こえたような気がするが、きっと気のせいだし、そうじゃなかったとしても僕らの自由意思は恐怖のせいで希薄なので、助けに行こうという良心は無視できる程度の大きさだった。
「おうお前ら何してんだ?」
突然の声にはっと振り向く。顔に相手の持っている懐中電灯があたり、思わず目を細めてしまう。
「まさかお前らもカブトムシ狙いか?」
「誰か知らないけど眩しくてよく見えないからライトずらしてください」
「なんだよ担任の声も忘れたって言うのか?」
ぐちぐち言いながら光の主が懐中電灯をずらす。すると闇夜にヤクザ、ではなく担任が現れた。腰には蚊取り線香、ランニングと半ズボンからは毛むくじゃらの太い手足が飛び出している。懐中電灯を持っていない手には網が握られ、首からは籠が下がっている。
「あっ、そうだお前ら虫取り手伝えよ。虫取りを手伝わないと通信簿に不思議な魔法が掛かるぞ」
僕らが、ゲームでしか見たことのない「完璧な夏休みスタイル」を目の前に茫然としている中、先生は好き勝手言葉を続けている。なんで虫取り手伝わないと内申書がめちゃくちゃになるのか、論理的正当性が一つもない。でもこの底抜けのアホはそんなこと考えず脊髄で生きてるから本当に内申書を酷くする。僕たちは新たなる力による強制に、風に揺れる柳のようになびいた。
虫取りで林の中をあちらこちらへと連れ回され、明け方ようやく部屋に戻り布団へ潜り直す。疲労で嵩みつつある意識で僕は天明屋さんにボコられた人たちに対して、より正確に言うのであれば自分の中の罪の意識に対して色々と言い訳をしていた。
まああれだけ殴られて原形を留めてる人間だ、死んではいないだろうし、死んでたところで寝込みを襲いに来る腐った性根による自業自得だ。勝てば官軍、力が正義、勝者が歴史を紡ぐ。
ありったけの自己正当化を重ねているうちに疲労の波は強まり、僕の意識は攫われていった。




