表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/56

嵐の夜に

スランプですどうもおはこんばんちわ。

 気配を感じてふと眼を覚ますと、次の瞬間ゴロゴロドシャンと音を立てて上のベッドから何かが落ちてきた音がした。体を起こして落下物を確認すると、それは天明屋さんで、彼女は結構派手に落ちたというのに全く気にせず爆睡していた。一応声をかけてつついたりして布団へ戻るよう促そうとしたけどリアクションは一切無し、完全に夢の世界に浸っているようだ。


「では遠慮なく」


 こういう学生同士での集まりにおける鉄則として『決して深い眠りにはつかない』というのがある。なぜかというと、どんな集団にもだいたい一人は僕みたいな、無防備なやつの顔を落書きで無惨なことにするのを至上命題としているゲスがいるからだ。

 落書きを実行するにあたってまず、自分のペンケースには油性ペンをあらかじめ入れずにおく。じゃないと言い逃れの難度が上がる。きっちり人のペンを勝手に使おう。今回は……ゆっちーのを借りよっと。

 思うがままに天明屋の顔をアレンジしていく。アイドルのような彼女の顔に落書きをするのには、国宝の美術品にペンキをぶちまけるような背徳感があって最高に楽しい。花を黒く塗ってヒゲを描き入れほうれい線をくっきりさせる。瞼も黒く塗りアイラインを過剰にしたら、完成だ。

 マヌケヅラになった天明屋さんにもう用はない。後は僕に累が及ばぬように偽装してもう一度寝るだけだ。

 偽装するにあたって、犯人に仕立て上げたいやつに証拠のペンを握らせるのは、短絡的に見たら中々の方法だけど、冤罪を食らわせる予定のやつに僅かでも弁明の時間があると途端に下策となる。だって、証拠を全く消さずに寝るバカなんていないでしょ?一瞬は視覚効果で騙せるかも知れないけどその一瞬のうちにケリがつかなかったらアウトになってしまう。

 なので、だ。ゆっちーの油性ペンは元通りゆっちーのペンケースに返して、ペンケース自体もカバンの中にしまっておいてあげる……ただし、ペンケースをカバンの中の上部に設置して。こうすることで、ずさんな証拠隠滅が演出できて、冤罪発生の確率が上がるの、だ。

 僕がご機嫌にゆっちーを犯人に仕立て上げようとしていると、突然、部屋の外の廊下から忍んではいるもののバレバレの、そこそこ大きい足音が聞こえてきた。


「ここで聞き耳ロールをどうぞ、ってね」


 息を殺して足音の動向を伺っていると、どうやら足音はこの部屋に徐々に近づいてきていているらしく、足音はだんだんはっきりしてきた。どうやら足音は三つ、そして、その全てが僕の部屋の前で止まった。


「この部屋に用があるってことかな?」


 僕はドアに耳を近づけ、追加情報を得ようとしたが、流石にドア越しの内緒話は聞こえない、これといって新しいことは何も分からなかった。しかし、こんな時間に忍べていないとはいえ足音を殺して部屋まで来ているのだ、ドアの前にある生き物がなんであれ、おそらく好意的なものではないだろう。

 薄気味悪いこの現象に対して、僕の選択肢は大きく分けて、室内で迎撃、無抵抗、戸を開け室外で迎撃、窓から逃走の四つだ。

 少し逡巡していると、ドアノブがゆっくりと下がってきた。何者かが入って来ようとしているようだ。これで室外での迎撃という選択肢は消えた。それと、僕は無抵抗のまま何者かに好き勝手されるのが好きじゃない。僕は慌てて工具箱から自転車のスプロケットを外すためのレンチを取り出し、内側に開いてくるドアに必ず出来る戸の裏の死角に陣取った。

 ゆっくりと下げられたドアノブは完全に下まで降り、本当にかすかな音を立てつつゆっくりと開いた。三十度から四十五度戸が開いたくらいで、人型らしきものの頭部が一つ、ニュッ、と出てきた。


「強姦魔め!くたばれ!」


 僕は小声で叫びつつ、侵入者に全力でレンチを振り下ろした。


「ぷごっ」


 侵入者は倒れこみ、ピクリとも動かなくなった。足音は三つあった、あと二つ、なにかがいるはずだ。


「次、そこ!」


 大声は出さずに、しかし裂帛の気合いを込めて振り下ろしたスパナの勢いを活かしつつ、それをそのまま横薙ぎに振り抜く。


「へけっ」


 もう一つの人型の頭部にクリーンヒット。その人型は倒れ込んだまま動かなくなり、完全に機能を停止した。これであと一つ。

 残る一つは、どうやら処理が追いついていないのか完全にフリーズしていた。なので、再起動を果たす前にやはり頭をスパナでぶん殴って機能を停止させた。これでよし。


「僕のケツを狙うなら死を覚悟しろ」


 悪は滅びた。せっかくなので、携帯を取り出してライトをつけ、僕の部屋へ入ろうとしてきた不届き者共のツラを拝もう。


「ポチッとな」


 白い光に照らされて浮かび上がってきたのは、先程、食事前の運動だと言わんばかりに暴力を振るわれ、無惨な死体となった挙句崖下に捨てられた三人組の姿だった。僕が殴りつけた箇所が分からない程度に頭部を含む全身が暴行の跡まみれなので、間違いはないだろう。もし違ったとすれば、きっとそれは物理攻撃有効の怨霊くらいなものだろう。


「成る程復讐か……」


 下らないことはさておき、彼らの動機は間違いなくそうだろう。普通、こんだけこっ酷くやられたらビビって二度と手を出さないというのが人として賢明だと思うけど、彼らは君子ではないのだろう、積極的に危うきに近づきに来てる。

 まあ、彼らがいくらクソ間抜けであろうと、彼らの愚行を許すわけには行かない。そんなくだらない理由で僕の手を煩わせた罪、そして僕の夜中のイタズラと証拠隠滅を邪魔した罪、数え役満で万死に値する。こいつらのせいで寝る時間が少し遅くなったし、マジでどうしてくれよう。

 考えること数瞬、僕はこいつらにこれ以上労力を割くのが嫌なので、僕の手を使わずに気絶中の三人組を血祭りにあげる事にした。

 まずは、先ほど僕が使用した油性ペンをこの三人組のうち一人のポケットにねじ込む。僕の油性ペンはもう一人に握らせる。何も持ってない奴は……適当な罪をでっち上げよう。


「ていうか、こんだけ騒いだんだから誰か起きてもいいじゃない……」


 僕がガサゴソやったり、音に気を遣ったとはいえ、戦闘があったというのに、各自のベッド、または床からは、規則正しい寝息、若しくはいびきが聞こえてくる。こいつらどういう神経してるんだろ?

 ま、都合が良いからむしろ助かるんだけどね。


「さて、じゃあやりますか」


 僕は一つ深呼吸をし、ドタバタとわざと足音を立てながら、部屋の電気を点け、ブチ切れたかのような叫びを上げる。


「テメェらか!一体どんな了見で人様の部屋に入ってきてやがる!」


 この後に少し間をおいて……驚愕のあまり声が落ちる演技をする。


「……ってお前、こんなこと……」


 三人組は気絶しているので返事はない。しかし気にせず続行する。


「ねえ!天明屋さん!」


 僕は直視できない顔になっている天明屋さんを揺すり起こす。


「んだごらぁ……安眠妨害は死罪だぞ」


 寝惚けている天明屋さんの耳元で、そんなの御構い無しと言った体で叫ぶ。


「大変なんだって!ほら!あれ、さっきのあいつら!」


 そう言って気絶している三人を指差す。

 暫く間をおいて、意識が現実に追いついたらしい天明屋さんが、スタスタとぶっ倒れている三人に近づき、彼らをおいて爪先で突き始めた。

 ここで僕は、天明屋さんに告げる。


「あのー、非常に言いにくいんだけどね、顔が……相当愉快なことに……」


 僕の言葉を聞いた後、天明屋さんは部屋を出て、しばらくして帰ってきた。顔に湿り気があったので、トイレで顔を確認した後、一応洗ったのだろう。まあ、未だにがっつり落書きは残ってるんだけどね。

 僕が愉快な顔を見て感じ入っていると、天明屋さんは三人の持ち物を改め始めた。

 案の定、三人に握らせた証拠を彼女は発見する。


「瀬戸、全員を起こせ。それと鈍器」


 天明屋さんの口からは、温度も色彩も抜け落ちた、どこまでも平坦で暗い、サイコパスの瞳の色のような声が出てきた。僕の背に悪寒が走る。


「アイアイマム!」


 この状態で悪ふざけなんてしたら明日の朝日は拝めない。本能レベルで察した僕は、すぐに持っていたスパナを彼女に渡し、残りの三人を叩き起こした。


「起きろ畜生共!敵襲だ!」


 なんだなんだと寝惚け眼を擦りながら全員がノソノソと騒いでいる僕の方へ来て、三人組を見つけて絶句した。


「「「強姦魔だ!!」」」


 一拍おいて、みんなが僕と同じ感想を叫ぶ。


「いや、狙われてたのはてめえらのケツじゃねぇ、これを見てみろ」


 天明屋さんがいささか温度と人間味に欠ける合成音声のような声で、落ちかけのユーモアたっぷりな顔を突き出してきた。


「こりゃあ、キッツイのぅ……」


 それを見たカキニーが呻くように言う。ちなみに、天明屋さんはこちらを振り返っているが、誰一人としてその愉快な顔を笑ってはいない。なぜなら、表情や目の色とあわさって、くだらない落書きが完全に『そういうメイクを施したカルト宗教信者のサイコパス』感を醸し出していたからだ。笑ったらやられる。そんな共通意識を感じる。


「それにしても、よりによって天明屋さんに手を出すとか……命知らずってこういうことを言うんだな」


「どっちかって言うと、自殺志願者って方がニュアンスが近い気がする」


「今生に期待が持てないからって、輪廻の輪を巡るにはまだ早かろうに」


 現実に対して逃亡を図ろうとしてるのか、しなのんとゆっちーが本当にどうでもいい会話を始めた。しかも、このどうでもいい会話、瞬く間に二転三転して今ではすっかり『カレーに入れる肉は何が一番か』の議論へ置き換わっている。現実から無事逃げ切れたようでなにより。


「おい」


 冷たい声が殺意の波動を纏って、平坦に部屋に反響する。カレー談義組は口をつぐみ、カキニーは真面目な顔をし、真犯人である僕は背中を嫌な汗でびしょびしょにした。


「こいつら、別に生かしておく理由もないから片付けてくる。お前ら手伝え。それと明日のカレーはチキンだ、いいな?」


「「「「かしこまりました!」」」」


 お父さんお母さんごめんなさい、僕はこの歳で殺人の片棒を担ぐことになりそうです。でも、この場で死体袋に詰められるよりはいいですよね。あと、天明屋さんとカレーの好みが一緒で少し嬉しいです。

 僕は片棒と三人組の一人を担ぎ、天明屋さんの先導に従って森へと足を進めた。

ブクマ、感想お待ちしております。亀更新は許して下さいませ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ