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一日目の夕食

季節感?不思議なことを言う人もいるんですねぇ……

 鉄板と金網を熱してそれぞれ油を塗ったら、後は仕込んだ素材を大放出して焼くだけの簡単な晩御飯が始まる。鯛飯をよそって配膳、スープの入った鍋は火の端に置いておいて温め直す。玉ねぎとピーマンはアルミホイルが無いので濡れ新聞で包んで火力の弱った薪の火に突っ込む。なお豚肉はつけダレもまあまあ美味しいので、鉄板でタレごと焼いている。これといって特別なことは何もない、少し野外活動感のある晩御飯……になればよかったのに。


「信濃おぉぉぁぁあ!テメエ、一人だけ逃げる算段付けてやがったな!」


「逆賊が!絞め殺す!」


「お前は削刀刑に処す!」


 焦点の合わない目で物騒な事を喚きながら三人組の男子が吶喊してきた。謎の気迫と余りに珍妙なその様子に一瞬押し黙るも、どうにか再起動を果たし、言葉を出すことができた。


「何事」


 彼らは理性を一欠片も感じさせないイッた目で泡を飛ばしながら口々に『重罪人を処罰しに来た』と言うが、やはり事情が飲み込めない。混乱して自分側の他四人を見てみると、しなのんだけが何故か青い顔をしていた。


「しなのんどうしたの?食中毒?」


 そう言えば名指しで呼ばれていたなと思い、彼を人身御供に差し出す算段をしながらしなのんに聞くと、とても小さな声で、


「腐敗菌が追ってきた……」


「腐敗菌?」


 問い返すとしなのんは震えた声で、


「あいつらだよ、あのやべえカレーを作った食材の冒涜者……」


 あのカレー状の毒物の製作陣?何でそんなけったいな連中が飯時にうちのトコに?しなのん名指し?

 やっぱり状況が分からず少しオロオロしていると、三人組のうち一番前に立っていた奴が何かを語り出したので、とりあえず聞く。


「そいつはぁ!俺たちの男同士の熱い友情で出来た飯を嫌がって、おまけに逃げた、言わば人間のクズだ!」


 続けて、後ろに立っていたでかい奴が、


「たとえ不味くともそれさえ思い出、そいつは青春を踏みにじった!」


 最後に、なんかメガネが、


「貴様だけ美味いものにありつこうなど言語道断!ぶっ殺す!」


 と吼えた。ここまでの状況をサックリまとめると、


「要するに、『ゲテモノ処理に一人でも人が欲しいのに、みすみすしなのんを逃すわけにはいかない、しかも一人だけ美味しいものを食べるなんてずるいからぶちのめす』……ってこと?」


 溜息を一つついて、一言。


「食えない飯作った責任を人に押し付けるなよ、銀蠅共が」


 吐き捨てた僕は自分の班の方を振り返って、


「じゃあ多数決取るよ。僕らの晩御飯を邪魔した奴らは細切れにして森の肥料でいいと思う人挙手!」


 と、ご飯を邪魔された怒り任せに問う。頭に栄養が足りてないのでいまは多少キレやすい。

 すると、何が起こってるか分からず金魚鉢に頭をぶつけたデメキンみたいな顔をしていた全員の手が上がる。どうやら飯時を邪魔されたというインプットで怒りと共に再起動を果たしたようだ。単純な脳味噌で助かる。


「じゃあ次。食べ物の命を無駄にする奴は自分の命を無駄にされても仕方ないと思う人挙手!」


 また全員の手が上がる。


「よし、じゃああの三つをボコボコにして森に捨てるよ!やれ!」


 僕はお腹が空いていたので早く晩飯にありつきたい一心でみんなを焚き付け相手にけしかけた。

 獰猛な笑顔を浮かべた天明屋さんが近くにあったまな板を掴み、相手の顔をぶん殴ったのを開戦の合図に、各々が動き出す。体格の大きいゆっちーはジャイアントスイングなど派手なプロレス技、カキニーは倒れた相手にチョークスリーパーをかまし着実に戦力を奪う。しなのんは最初こそ硬直していたものの次第に復活し、日本拳法段位持ちの面目躍如たる一撃を乱発していた。僕はその惨劇を外から眺めてビデオに収めていた。後で個人鑑賞用として楽しむためだ。


「瀬戸ぉ!椅子よこせ!」


 のんびりしてたら天明屋さんから怒号が飛んだ。慌てて椅子を渡すと、彼女はそれをおおきく振りかぶって、


「このクソ下衆がぁ!ドサクサに紛れてケツ触ってんじゃねえぞイカレド変態!生きたまま消化器官ずり出すぞゴラァ!一生カタワにすっぞ蛆虫が!オラ!何とか言えやぁ!」


 と、椅子を連続して相手の顔と言わず腹と言わず振り下ろしはじめた。その表情は最早悪鬼羅刹、叩かれている相手はもうハンバーグにさえなれないような屑肉の塊になりかかっている。


「ハハッ」


 乾いた笑い声を上げていると、しなのんからも声がかかる。


「うっちゃん、包丁とってくれ。こいつに削刀刑を教えてやりたい」


 しなのんが左手にぶら下げている大きな袋みたいなものをよく見ると、削刀刑とのたまっていた奴が五年使った学校の雑巾のような状態で持たれていた。流石にこれを削刀刑にかけたら死ぬと判断、僕はストップをかけた。


「流石にここで死なれると後処理が面倒だから、後はバレにくい夜に山奥に行ってやろう」


「よし分かった。ふん!」


 しなのんはそう言うと、すでに瀕死であるそいつに蹴りを入れて意識を飛ばしていた。


「ハハッ」


 また乾いた笑い声が出た。


 意識を宙に漂わせていると、楽しげな笑い声が聞こえたのでそちらを振り返ると、ゆっちーが一人を拘束していて、カキニーがそいつの口にじょうごを突っ込み、謎のペーストを無理やり流し込んでいた。


「どうじゃ?ん?自分で作ったカレーはやっぱ美味いか?のぅ?」


 カレーを飲まされている奴は、白目を剥いて失禁、痙攣、そして失神した。


「ウハッ」


 残虐ファイトやでぇ……

 全員が処理されると、その後は何事もなかったかのように各自は席に着き食卓に戻ってきて、口々にお腹減ったとぼやきだした。なんたるブレない心だろうか。あれほどの惨劇を起こしておきながら平然としてるなんて人としてどうかと思う。


「いや、笑いながらビデオ撮ってたお前が一番の腐れ外道だからな?」


 僕はその発言を黙殺して、余計なことをのたまったゆっちーを蹴り飛ばした。

 その後、もう一度席に着きなおす前に、みんなに注意する。


「手を洗ってきてよ」


 返り血がひどい。それと、またご飯の邪魔をされないように死体と大差ない状態の三人を一応縛っておくように指示しといた。

 しばらくしてみんなが綺麗になって戻ってきたので手を合わせていただきますをし、食事に移る。

 余った竹串を使って、新聞紙に包まった玉ねぎを突き刺す。すんなり通ったので火は通ったのだろう。半分熾火みたいになっているかまどの中から玉ねぎを取り出す。ピーマンも多分焼けているので同様に。

 実は、バーベキューで一番の好物は肉ではなく上手に焼いた野菜、とりわけ玉ねぎが大好物なので、できれば誰にも渡したくない。なので、みんなが肉の焼けた匂いにつられてるこの序盤がチャンスなのだ。阿呆みたいに『肉うめえ肉うめえ』とか言ってフガフガやってるうちに、後半取り合いになりがちな好物をかっさらう。


「玉ねぎうめえ、ピーマンうめえ」


 ひっそりとしかし野菜類を全滅させる勢いで箸を動かしていると、僕の行動に目ざとく気付いた天明屋さんが「玉ねぎ半玉くれ」と言ってきたので渡し、僕はそれを区切りに一旦野菜をやめて肉を食べることに……残ってないので二本だけ残ってたレバーをどっちも確保して、それを食べることにした。


「やっぱり牛乳が欲しかったなー」


 不味くは無いし、レバー特有の臭みは流水でしっかり流したのと、どことなく漂う煙の匂いである程度はごまかせているんだけど、やはり後一つ足りない。


「でも、牛乳は重いし腐るし……」


 うん、僕は現状でやれるだけのことはやった。

 自分を無理矢理納得させて、鯛飯を食べる。昆布がしっかり効いてて、実に美味しい。ただ、夏の暑い日なので塩気がもう少し欲しくなり、追加で少し塩を振って食べた。


「まだご飯はあるね……」


 お茶碗を空にしたら一旦ご飯の残量を確認する。ぼちぼち残っているようなので、僕は手を濡らして、ご飯を手に取る。そして、それを手のひらの上に広げて真ん中にほぐした鯛を置いて握る。三角おむすびを同じ手順で三つ作り、一旦置いておいて、鉄板の端に油を引きなおす。あとはおにぎりをその鉄板の端に並べて火力を調整しつつ醤油を垂らして、焦げ目が付くまで待つだけだ。


「おい、美味そうな事してるな」


 後ろからゾンビみたいな声が聞こえたので、躊躇う事なく裏拳を振り抜く。鈍い音と共にゆっちーが崩れ落ちた。


「このおにぎりは僕のだから、食べたいなら自分で作りなよ」


 僕は程よく焼けたおにぎりを回収し、鉄板を去った。ご飯の残りの周りではみんながそれぞれ他の奴より一つでも多くのおにぎりを得ようと地獄のような殴り合いをしていたけど、僕には関係ない。


「あ、そうだ」


 バレないうちにトマトスープもよそっておこう。じゃがいもは多めで。

 喧騒から少し距離を置いた場所でご飯を食べようかと思ったら、縛っておいた遺体予備軍が転がっていた。僕は丁度いいと思って彼らを叩き起こした。


「おはよう諸君、このスープもおにぎりもいい匂いでしょ?まあ、君たちの口にはコメの一粒、スープの一滴も入らないんだけどさ」


 苦痛と嫉妬で歪む彼らの顔に向けて満面の笑みで嫌味を言って、適当な食レポを付けながら彼らの前で僕のぶんとしてよそったものを平らげたら、


「ごちそうさま」


 と、食後の挨拶をして彼らの前を立ち去り、みんなが仲直りして焼きおにぎりを作ってる所へと向かい、メシマズ三人組を起こした事と、目の前で飯を食べると優越感がすごいことを伝えるとみんなはいい笑顔でそれぞれのスープと焼きおにぎりを持って三人の元へ向かった。

 案の定聞こえる怨嗟の声に少しご機嫌になりながら僕は後片付けの準備を始めた。


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