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渡る世間はアホばかり

受験……ひと段落……投稿……投稿……!

「レバー買ってきたぞ」


 しなのんがノックに続いて飛び込んできた。そして、入ってくるなり、


「すまんが俺の分の飯も用意してくれ」


「一体どうしたってのさ?」


 なぜかは知らないけどしなのんはとんでもない顔色をしているし、なんか小刻みに震えてる上に、声が憔悴しきっている。


「……俺は隠し味とか言いながら、インスタントコーヒーを一瓶丸ごとカレーにぶち込む奴らの飯なんて、食いたくない……」


 理由を問うと、思ったより酷い現実がそこにはあった。


「しかも、ドライフルーツのリンゴを刻みもせずにぶち込むんだ。『隠し味じゃー!』とか言って……」


 僕は聞きながら、この話が彼のホラ話であればいいと真剣に願った。


「ちなみにこの隠し味大会は現在進行形で、今もおそらく様々なものが『隠し味』として加えられている」


 そしてこれが五分前の品だ、と、しなのんが手提げ袋から取り出したのは、茶色いものの入ったタッパーだった。

 恐る恐るそれを受け取り蓋を開けると、カレーとは思えない臭いがした。


「……なんだこれ」


 まず、カレーのルーに含まれているスパイスの香りは当然として、かなり強烈な苦い香り、そしてどこか蠱惑的な甘い香り、最後に漁港を思い出させるような磯の香りがする。ふ

 中の具を見れば、先ほどしなのんが言っていたように、隠れる気のない隠し味としてドライリンゴが凄まじい存在感を放ち、隠し味の定義を全力で口に覆しにきている。そして、それに負けじと様々な凄まじい具が浮かんでいる。醤油せんべい、人参、じゃがいも、エビ、パイナップル、玉ねぎ、溶けた餅……他にも色々と入っている。


「ところでこのたくさん浮かんでる黒い破片って何か分かる?」


「海苔の佃煮だな」


 ……うん……うん、凄いな。

 気を取り直してもう少しよく見ると、色が少し黄色っぽい。何でだろうと思っていると、しなのんがまた言った。


「それな、マンゴージュースだ」


 奴らは水を使わず果実の甘みで勝負すると言っていた、と、しなのんは吐き捨て、空いていたベッドに倒れこんだ。


「何だこりゃ?食品を冒涜する宗教でもあんのか?」


 天明屋さんがタッパーを覗き込み、眉をひそめ呟いた。


「……天明屋さん、よかったら食べる?」


「何で他人の吐瀉物を食わなきゃいけねえんだよ、殺すぞ」


「……はあ」


 処分に困ったのでとりあえず冷蔵庫に入れておく。後でなんか理由をつけて誰かに食わせよう。


「のう、ぼちぼち晩飯作らんか?わし腹減った」


 熱中症で食欲が無かったはずのカキニーがお腹を鳴らしながらそんな事を言った。時計を確認すると時刻はいつの間にか五時半だった。夏は日が長いから時間感覚が少しおそくなる。


「確かに、ぼちぼち始めた方がいいかもね」


 そう言って、メニューを考えるけど、よく考えたら今日は保存の効く物しか買ってきてないから作れる物がだいぶ限られてくる。カボチャ入りポークカレーくらいしか作れない気がする。

 そう考えていると、助け船はしなのんから来た。


「生野菜なら何種類かあるぞ」


 彼は少し待ってろと言って、キャリーケースを持って来た。

 開けてみると中には、トマト、レタス、キュウリ、ナス、ピーマン、プチトマトなど、生で、若しくは軽く火を通せば食べられる物が大量に詰まっていた。


「いざ料理に失敗した時のために、生、もしくは焼くだけで食べられる物を優先して購入したんだ、班員が男子だけの時点である程度予測はしていたからな」


「理由がすごく哀しい」


 そして、下手をしたら今晩その生野菜のお世話になっていたと思うとさらに哀しい。


「ま、まあ、こんだけあれば何でも出来るさ。なんかリクエストある?」


 気を取り直して、僕は今部屋にいる人たちに聞いた。


「食えればそれでいい」


 と、しなのん。


「アッサリしてて、食べやすいもの」


 天明屋さんは言う。


「レバーをくれ」


 それは聞いたよ、ゆっちー。


「お腹にたまるもの」


 カキニー。

 リクエストが割とてんでバラバラなので、少し困る。

 暫く悩んだ末辿り着いた結論は非常にシンプルだった。


「バーベキューしませう。そんでもってほしいものをつまみませう」


 副菜は何品か作る予定だけど、メインはこんなものでいいだろう。

 テキパキと使う予定の食材を出していく。トマトに自家製ベーコン、豚のブロック、お米に連子鯛、じゃがいも、カボチャ、玉ねぎ、ナス、ピーマン……おっと、レバーレバー。後は調味料セットだけで十分かな。ちょっと肉の量が足りない気もするけど、まあ、仕方がなかったということで。

 食材を袋に入れてカキニーに持たせ、僕は調味料セットと自前の包丁を持って、


「待って、調理場ってどこだっけ?後、調理器具ってどこで借りるの?」


「マップはしおりに描いてあるから確認しろよ、調理器具は俺が事務室から借りてくる」


 しなのんはそう告げるとツカツカと歩き去って行った。


「んじゃあ、案内はしてやるよ。こっちだ」


 天明屋はいつの間にかしおりを取り出して先頭を歩き出した。僕たちはそれに付いていく。

 建物から外に出て三分ほど歩くと、洗い場やら薪が積んである場所やら、火を焚ける簡単なコの字状の窯やらがある、ザ・炊事場みたいな所に着いた。

 どうやらこの学校は気の早い人が多いようで、すでに其処彼処で炊煙が上がっていた。


「おーい、とりあえず鍋二つとフライパン、後鉄板に金網借りて来た」


 それに皿とまな板も、と付け加えながらしなのんが合流した。


「んじゃあ、始めよう。僕は主にご飯以外をやるから残りのみんなはお米炊く準備しといて。今回は薪で火力が強いから心持ち水を多めにね。ゆっちーとカキニーは料理経験のあるしなのんと天明屋さんに従うように」


 指示を出してからしなのんから調理器具一式を受け取り、調理を開始する。

 まずは野菜、ナスとかぼちゃを適当なサイズに切り分ける。ピーマンと玉ねぎは丸ごと焼いた方が美味しい。なので、ピーマンはそのまま、玉ねぎはヘタと根っこ、皮だけとって切らないでおく。こういう肉の薄い野菜は切り分けてからバーベキューの火力で焼くとカサカサの枯葉みたいになってしまう。後はアルミホイルでも借りてきて包んだら、火に突っ込むだけ。

 次は肉に下味を付ける……と行きたいところだけど、玉ねぎ以外に使えそうな物が無い。あ、でもそういえば、


「調味料セットに入って……いたね、ラッキー」


 前日の僕は用意周到であったらしい。きちんとにんにくと生姜も準備していた。

 調理器具セット(自前)の方からおろし金を取り出し、皮を剥いた(生姜は面倒だからそのまま)それらをすりおろしビニール袋に入れる。そしたら肉、コショウ、醤油、料理酒と砂糖を少し入れて漬けておく。これで肉の準備はおっけー。


「次はスープ」


 トマトを五つ湯むきして、三つと半分を鍋に放り込みヘラで潰す。残りは角切りにしておく。

 じゃがいも、玉ねぎも同様に角切りにして鍋へ。ついでに、ベーコンも使うぶんの半量を角切りにして鍋に。

 鍋に水を入れて、中火くらいの火にかける。ある程度温まったらコンソメキューブと角切りトマトを加え、コンソメが溶けたら残りの半量のベーコンを加え、一煮立ちさせて火からおろす。後は食べるときに温め直すだけ。


「コメの準備いいぞ〜」


「わかった、炊くのは少し待ってて」


 淫夢の香りがするゆっちーにおたまを投げつけ、僕は急いで連子鯛の処理にかかった。

 血抜きの際に切られた喉の辺りからエラを抜き、肛門から刃を入れて内臓を抜く。包丁の背でゴリゴリして鱗を落とす。特にヒレ周りと頭は重点的に落とす。これを三匹分繰り返して、お米チームによこす。


「あと昆布とお醤油ね」


 調味料もついでに渡して、炊いておいてもらう。その間にもう一品。

 レバーのパックを取り出して、流水で血抜きを行う。後は程よいサイズに切り分けて……


「竹串を忘れたな……ゆっちー」


 ゆっちーを呼ぶと、彼はいきなり天井から降ってきた。


「呼んだか?」


「呼んだけどそんな派手な登場は望んでない」


「んで、何だ?」


 まるで何事もなかったかのように会話を仕切り直すゆっちーに白い目を向けながら要件を伝える。


「竹串を作って」


「相分かった」


 何故か古風な返事をしたゆっちーはどこからともなくノコギリと鉈を取り出して近くに生えていた竹を一本伐って割り、あっという間に竹串を作り出した。


「何本要る?」


「二十あれば足りるかな」


「おう」


 バンバン串が出来上がって、あっという間に二十本は完成した。


「どうも」


 僕は串を受け取り、レバーを刺して、塩コショウを振り、キッチンペーパーの上に並べて余計な水気を切る。そのあとに豚肉のつけダレを少しとってレバーの上に乗せておく。これで僕の仕事は終了、後はお米が炊けたら竃の上に金網を乗せて具材を焼くだけだ。


「あ、そうだ、カキニー!炭酸飲料大量に持ち込んでたよね?コーラとサイダー取ってきて!」


 そういえば飲み物の支度をしていなかったので、僕はカキニーを走らせる。カキニーはおう、と短く言い、部屋へと駆け出した。

 ここで、天明屋さんがポツリと疑問を漏らした。


「あいつ、何で飲みモン持ってきてんのに熱中症になった時に出さなかったんだ?底抜けのアホか?」


「その可能性は高いけど、もし仮にカキニーがマトモだとするなら、炭酸飲料は長期的に熱中症を悪化させる事を知ってたのかも」


 天明屋さんは頭上にハテナを浮かべている。


「炭酸飲料は実質ガムシロだからな、却って体の水分を浸透圧やら消化やらで持ってくんだよ」


 理系のゆっちーから助けが入る。天明屋さんは納得の行った顔をして、そして、


「なるほどな、でも、結局あいつが底抜けのアホなだけだと思うな」


 と、僕と同じ結論に辿り着いた。

 カキニーがしばらくして戻ってきたので、先ほどの疑問について聞いてみると彼は驚いた顔をして、


「そうじゃった、わし、飲みモンは持ってきてたんじゃった……」


 と、少し落ち込んでいた。

 ……底抜けのアホだった。


お久しぶりです。または初めまして。長らく更新が停止しておりましたがそれも今日まで。ストックは無いけど受験勉強もまた無い、ペース上げてくので応援して下さい。

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