赤
夏休みが終わったんで更新速度がそれはもうものすごく落ちますごめんなさい受験生なんです許してくださいなんでもしますから(なんでもするとは言っていない)
クマゼミがアホみたいに大きな声で鳴き出す七月、最近アブラゼミ軍は押され気味みたいだ。
「だから!大きければ正義だと言っておろうが!」
最後の授業、選択教科の体育を終えて着替えた僕が帰りのホームルームに参加するためにタオルで汗を拭きつつ教室に入ると、ゆっちーが大絶叫していた。そして、頭に相当血が昇っているゆっちーに相対しているのはクラスメイトの野球部君だ。身長はそんなに高くない。あと、僕は彼の名前も知らないし興味もない。
その野球部君(仮称)は憤然としてゆっちーに噛みついていた。
「小ささの美学が分かんねえのかてめえは!」
どうやら大きさの話で喧嘩をしているようだ。ゆっちーが身長自慢でもしてるのだろうか。そうだとするなら僕はゆっちーをこの手にかけねばならない。小さき者の代表として。
しかし、理不尽にゆっちーを殴るのも気が引けるので事情を知るために少し聞き耳を立てていると、どうやらゆっちーは僕の姿を認めたらしく、ズカズカと歩み寄ってきて僕の肩を掴み揺らした。
「なあ、お前も胸は大きければ大きいほどいいと思うだろう!?」
は?胸?頭大丈夫かな?
「正気に戻りなよ気持ち悪い」
「気持ち悪いとはなんだ!これはいわばジ・ハードなんだよ!」
「回教徒に謝れ」
「俺は一途な巨乳の徒っ」
僕はゆっちーの手を振りほどいて少し距離を取り、ゆっちーのゆっちーと鳩尾に一発ずつ蹴りを、顎には右フック、人中(上唇と鼻の間)へ左ストレートを身体の出せる最大速度で叩き込んだ。
「変態。死んでしまえ」
ゆっちーは教室の床へ崩れ落ちた。すると、それを待っていたかのように野球部君が僕の方へ駆け寄ってくる。キラキラした目をしながら。
「瀬戸!お前はやっぱり俺と同好の士なんだな!お前もつるぺたロリが大好物なんっ」
彼のやたら輝く瞳に汚泥の色を見た僕は、手近にあった掃除用具入れを開けて箒を取り出し、柄の方を野球部君に向けてそのまま突いた。
僕の一撃は吸い込まれるように彼の喉へと向かい、ガスッと鈍い音を立てながらクリーンヒットした。コヒュウ、という空気が抜けるような音と共に野球部君は物言わぬ者となった。めでたしめでたし。
「変態。お前も死んでしまえ」
僕が箒をしまい自分の席に着くと、何故か普段は割と物静かな隣の席の女の子にサムズアップされた。
「瀬戸くん、助かったわ。朝からうるさくてたまんなかったのよ」
「気にしないで。僕も朝は爽やかに過ごしたいんだ」
「そう、ま、なんにせよありがとう……おっしゃお前ら!あの阿呆二つに引導渡すぞ!」
「「「シャオラァ!」」」
「何事」
僕が隣人の急変にびっくりしていると、彼女の呼びかけにクラス中の女子が応え、朝から教室を騒がした変態二人を廊下へと引きずり出し始めた。
彼女たちが二人を教室外へ出し、教室の戸が閉まると廊下から罵声、それと悲鳴と命乞いが聞こえてきた。片方の命乞いの声はかすれててよく聞き取れない。
『朝からセクハラたあいい御身分じゃねえか!オラ!』
そして響き渡る打擲の音。
『ひいっ、オタスベッ』
最後まで発言する前に殴られたかのような声も混じる。南無三。
ホームルーム開始五分前まで音と声は響き続け、ある程度晴れやかな顔になった女子たちが帰ってきた。青褪めた男子の顔が対照的で実に滑稽。ちなみに引きずり出されて帰ってこなかった二人のことは、きっと考えないほうが心に優しいので僕は知能指数を下げることにした。
「ふう、朝から大変だ」
隣人が返り血塗れの手と制服を見ながらうんざりといった感じでぼやいているけど、後悔するならやらなきゃいいじゃん。お馬鹿。
でも、それを言うと次に彼女の制服の染料になるのは僕だ。危険を察知する程度の知能は残しておかねば。
僕は余計なことは何にも言わずにすっとカバンから二つのものを取り出して隣人に渡した。
「はいこれウェットティッシュと消毒液。返り血が手だけじゃなくて顔にもついてる。消毒液は血の跡を消せるから制服に使うといいよ。トイレかどこかで、制服にティッシュでも当てながらやるといいよ」
「いいの?ありがとう。変態共と違って気がきくのね」
「一緒にされるなんて心外だとクラスの男子はみんな思ってるよ」
隣人はクスクス笑うとそれもそうねと言って手と顔の血を落とし始めた。
……クラスメイトの男子諸君が僕の発言に顔を背けたところ?見てないよ?
さて、隣の席の子の、このリアクションだけ見ればパッと見ご令嬢といった感じだけど、落としているのは砂糖菓子の糖衣じゃなくて血糊だし、何より血まみれでそんなリアクションされても恐怖心しか掻き立てられない。よし、これからは彼女のことを心の中でアマゾネスさんと呼ぼうそうしよう。
「よう糞虫ども。廊下二つ血だまりが出来てたんだが知ってる奴はいるか?」
僕が内心恐怖に怯えていると、相変わらず訴えられたら絶対に裁判で負けるような問題発言をぶっ放しながら我らが担任が教室へと入場してきた。そして、それと同時にどうやら廊下で発生したらしい謎の怪事件についての問いかけを行った。へぇ、そんなものが廊下にあるのかー。怖いなー。
「知りません」
僕は何も知らない。そう、全く何も知らない。なので知らないと言えばいいのだ。僕は廊下に連れ出されたまま帰ってこない二人と二つあったらしい血だまりの関連性をひたすら無視し続ける、おっと失礼。頭が悪くて気づけないんだ。無視なんてしてないよ。
なお、隣人の闇の波動が如き視線と『喋ったら殺すオーラ』を受けたことは、僕の記憶力や洞察力に何の関係もないことをことわっておく。
「本当にか?お前の隣のやつなんか赤いけど」
担任の野郎、余計なこと言いやがって。僕は隣の席でどす黒く渦巻く殺意に怯えながらどうにかしてごまかそうとする。
「僕のトマトジュースが炸裂したんです。彼女にはもう謝り倒してます」
渾身の作り笑い。我ながら胡散臭さがすごいと思う。しかし人間の心の機微を一切感知できない担任は何事もなかったかのように、
「じゃあどうでもいい。おら、ホームルームはじめんぞ立てー」
隣から来る昏い何処までも昏く冷たくて切れ味の鋭い霊圧が消えた。ホッと一息。
「きりーつ、れー」
いつも通りの気の抜けた号令がかかってホームルームが始まった。
「そんじゃあまずは連絡事項だな……あ、お前らそういえば知ってると思うが、来週のアタマから二泊三日で林間研修だ。毎回思うけど、ここ一応進学校なのになんで三年のこの時期にやるんだろうな?頭おかしいよなー。校長死ねばいいのに」
毎回一言どころか二言以上多い伝達が続く。
「それと、林間研修のスケジュール配るからざっくり目ぇ通しとけよ」
配られた林間研修のスケジュールを覗くと、そこには何も書いていなかった。ただ、スケジュールの上の方の余白に『ご自由にどうぞ☆』と書かれていた。
「ちくしょうめ!」
僕は力一杯スケジュールを引き裂いた。
「ふざけとんのか!何が『ご自由にどうぞ☆』じゃ!要はおどれら教師陣の職務放棄の結果じゃねえか!」
まるで追随するようにカキニーも吼えた。
すると、担任のクソ野郎は凄みのある笑顔を作ってこう告げた。
「落ち着け。『ご自由にどうぞ☆』だぞ?クソみてえなレクリエーションも訳のわかんねえお遊戯会も必要無い、自分がしたい事をしていいんだぞ?」
あ、成る程そういうことか。僕は先生の話が意味することに気付いて、大人しく席に着く。まあ手抜きなことに変わりはないけど、嫌なことを強制されるよりは万倍ありがたい。
しかし、カキニーはキョトンとして、何もわかっていないような顔で、
「つまり……どういうこっちゃ」
と、若干気勢をそがれたような声を上げた
。
「察しの悪いパーだなてめーはよぉ。仕方ねえからわかりやすく言ってやる、つまりは、研修先でできることなら何やったっていいってことだ。分かるか?」
カキニーはそれでも首を傾げている。僕は先生のフォローをするように具体例を継ぐ。
「要するに、勉強したい奴は勉強道具を持っていけばいいし、虫取りしたい奴は虫カゴとかトラップとか持って来ればいいってことだよ」
「そういうことを早く言わんかい」
カキニーはぶつくさ言いながら席に着いた。だから最初からそう言ってたんだよ、阿呆
。
「最初っからそう言ってんだろこのダボが」
今回ばかりは口汚く吐き捨てた担任を責める気になれない。
「じゃかあしい!〆るぞワレ!」
カキニーは担任に対して突然癇癪を起こし、机の上に立ち上がってシャツを脱いだ。すると、隠されていた見覚えのある日曜朝のバイクに乗った英雄とお揃いのベルトが見えた。
「変しっ」
「変死?」
彼はノリノリで変身ポーズを取っていたが、突如飛来したチョークの直撃によって机から転落、彼の最後の言葉の通り変な死に方をした。
「草」
担任はそう言い捨てて、
「んじゃ、以上だ。帰ってよし」
と、教室を出て行った。カキニーはピクリとも動かない。南無。彼の頭部から錆の匂いがする液体が染み出てきているが、僕は頭が悪いからそれがなにかよくわからない。
ただ、一つだけ思った。
「今日は赤だな……」
赤いものをたくさん見たせいか、今日は赤いものが無性に食べたい。僕は冷蔵庫の中身と畑の状況を頭で確認しながら帰路に着いた。
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