肉体言語でGO
どうぞ。
「んじゃあ、明日からゴールデンウイークだ。はっちゃけるのも程々にしろよ?喧嘩の相手が全治三ヶ月以内なら補導で済むことがおおいが、それ以上だと院にぶち込まれるからな」
「先生、それのソースは?」
「体験談だ」
我らが担任、括ヶ原が物騒なホームルームを行い、僕たちに休みが与えられた。そう、ゴールデンウイーク。春休み気分が抜けきらない僕らに与えられた第二の春休み!ウキウキしちゃうね!
ホームルーム終了の号令後は、テンションの振り切れた鬱陶しいウェイがみんなを引き連れて遊びに行った。
……僕たちを除いて。
「それじゃあゴールデンウイークウィークだし、何をするかの計画を立てたいと思います」
いつになく真面目くさった表情でゆっちーが司会進行の真似事を始めた。
教室に残ってるのは、僕、ゆっちー、カキニー、そして隣のクラスから拉致ってきたしなのんの四人だ。
「はいはいはーい」
まず手を挙げたのはしなのん、いつになく陽気で間延びした声を上げている。一体どうしたの?やっぱ最近あったかいからかな?
「しなのん、どうぞ」
ゆっちーが恙無くお話を進める。どうやらしなのんの変調は気に留めない方向でいくようだ。
「……ゴールデンウイークは人手が足りないのでうちでバイトして下さいお願いします」
先ほどの陽気さは何処へやら、しなのんはいきなり、いつも通りの落ち着いた声で綺麗に土下座をキメた。
「靴を舐めろ、さすれば考えてやらんこともない」
ゆっちーははそんなしなのんの様子を見て、たちまち司会進行役としての真面目ぶった皮を脱ぎ去り、わかりやすく調子に乗る。
「殺すぞ」
しなのんは土下座したままドスの効いた声を出した。ゆっちーが一歩下がった。顔も少し青くなっている。自業自得の見本みたいな展開だなぁ、馬鹿馬鹿しい。
「えー、ごほん。それでは他に何かある方は?」
ゆっちーはどうやらこの下りを無かったことにしたようだ。このご都合主義者め。
後、しなのんはまだ土下座してるけど次に行っちゃうの?酷くない?
「ほんじゃあわしはキャンプに行きたい。んでもって、焼肉でもしたいのう」
カキニーが意見を出す。
「え、待って。俺のバイト募集の話流れたの!?」
「ワシの中ではな」
泡を食って土下座していた頭を振り上げてカキニーに詰め寄ったしなのんを一言で斬り捨てる鬼畜カキニー。さすがにこれはひどいと思う。
しなのんが土下座までして手に入れたのは、この取りつく島どころか流木の一欠片もないような態度だった。
「そんな……」
膝から崩れ落ちるしなのん、目から光が失われている。
「キャンプか、一考に値する意見だと思いますが、他の方で何か他に有意義な意見のある方はいらっしゃいますか?」
ゆっちーは完全にしなのんの提案は無かったことにして話を続けている。しかも、この発言の仕方だと、まるでしなのんの提案に意義が無いみたいな感じだな。いや、存在自体が無かったことになってるのか。うわあ。
僕がこの世の中の残酷さを噛み締めていると、ゆっちーが再び声を上げた。
「では、ほかに意見が無いようてますので、今年のゴールデンウィークはキャンプに行こうと思います。異議のある方は挙手をお願いします」
相も変わらずに司会者ぶって話を続けるゆっちーに、しなのんが声を荒げた。
「たからうちでバイトしてくれって言ってんだろうが!」
いつに無い荒っぽい口調に僕たちは一瞬びっくりしたけど、しなのんの姿勢が完膚なきまでに土下座なので覇気が無い。
だから、ゆっちーとカキニーは彼を舐め腐って、声をそろえてこう言った。
「「靴底を舐めろ。話はそれからだ」」
ここで、僕たち四人の中での戦闘力序列を説明したいと思う。強い順に行くと、しなのん、僕、ゆっちー、カキニーの順だ。
特に、合気道と日本拳法の段位持ちであるしなのんの戦闘力は僕たちの中で群を抜いている。
つまり何が言いたいかというと、
「あー二人とも、その辺にし「お前ら、遺言はそれでいいんだな?」……遅かったか」
しなのんはゆっちーの背後に回りこんで手首を取った。そしてそのままゆっちーの手をまるで背中を掻いているかのような状態へ持っていき、そしてそのまま、
「死にさらせダボがァァァアアア!」
体の回転と腰を落とすことによってゆっちーをぶん投げた。
「ヘボァ!」
地面に叩きつけられるゆっちー。ちなみにもう一人のお調子者、カキニーは、恐怖のあまり固まっていた。動きらしい動きといえば、なんかプルプル震えることしかできなそうだ。
しなのんは方向転換をして、カキニーに向き合う。そして、ジリジリと距離を詰めていき、あわや接触というところで、
「フンッ!」
しなのんが拳を繰り出した。
ところでみんなは日本拳法の別名を知っていますか?そう、『半径10cmの爆弾』です。至近距離での攻撃が多い武術なんですねー。
「アボッ」
そんな日本拳法の段位持ちであるしなのんの拳を受けた素人のカキニーは、くの字に曲がってピクリともしなくなった。
「で、だ」
しなのんは、人を二人沈めた後だというのに、これといって疲れた様子もなくこちらを振り返り見てきた。
「バイト、してくれるか?」
怖いんだけど。
「バイト、してくれるよな?」
けど、僕だってこのゴールデンウイークにやりたいことがあるんだ。
「返事は?」
「僕は潮干狩りとタケノコ掘りとワカメ拾いがしたいんヘブッ」
突如頭の横の方から飛来した回し蹴りを、僕は避けることが出来ず、モロに食らう。
「じゃあいい。お前も肉体言語で説得する」
そう言ってしなのんは僕との距離をさらに詰めてきた。僕は抵抗しようにも、頭に受けた衝撃のせいでイマイチ体に力が入らないし、何より意識が朦朧としてきていて、どんな手段をとっていいのか分からない。
ふらふらしていたらしなのんはもう目の前まで迫っていた。
「最後に問おうか。バイト、したいだろ?」
「潮干狩り」
「残念だ」
しなのんは拳を僕の顎めがけて繰り出してきた。僕は半分倒れこむようにしてそれを避ける。ていうか、もう足に力がほとんど入らなくて、任意で動かせるような状態にないから、倒れこむことによって避けた、が正しい表現かな。
「でも、せめて、一矢、報いるよ!」
九割九分九厘死んだような体に僕は喝を入れる。そうだ、やられっぱなしで終わるのは面白くない。そう強く願った瞬間、何か昏い情動が心の底から滲み出てきて、力に変わる。アドレナリンが出てきて、血管が開く。全身に血とエネルギーが回り始める。
「セイ!」
僕は曲がってそのまま崩れた膝に力をかけ直して、そのまま膝を伸ばした。結果、僕の頭はしなのんの股間を取らえ、しなのんは倒れた。そしてピクリとも動かなくなった。
「やったぜ」
体に無理をさせたのがいけなかったのか、全身から急激に力が抜けていく。意識もあっという間にブラックアウトした。
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