休み明け早々、留学生が来る。
日間ジャンル別ランキングその他部門で五位になってました。嬉しさとプレッシャーで腰に手羽先が生えそうです。応援ありがとうございます。
春休みは何事もなかったかのように過ぎ去り(変態が自宅に来たことは無かったことにしている)、僕たちは三年生になった。受験なんて死んでしまえ。
まあそれは置いといて、うちの学校では二年から三年はそのまま持ち上がりなので変わったのは教室だけ、クラスメイトはいつの顔触れ。何も目新しいことのない退屈な日々を過ごしていた。
でも、その日は違った。
「うーい、じゃあ今日はこれで終わりだ、あ、瀬戸ぉ、てめえはちょっと残っとけ。以上」
クラス中の視線がこちらを向いた。えっ、待って僕何か悪い事した?身に覚えなんてこれっぽっちも無いんだけど?
ちなみにここで僕のクラス内の立ち位置を紹介すると、『ザ・二軍』だ。ウェイウェイはしてないけど友達がいないわけではない、料理が好きな物静かなやつってポジションだ。
そんなやつが先生に呼ばれた時のこのクラス内の沈黙は、なんとも言い難い苦痛をそいつに与えるのは、たぶんみんな知っていることだろう。
「おい、号令。はよしろ、凍らせて砕いて鰻の餌にすっぞ」
ヤクザみたいな見た目の担任が、まんまヤクザの発言をし、弾かれたような勢いで日直が立つ。すぐに、きりーつ、れー。と、間延びした号令が聞こえて、僕以外の全員は僕の方をチラ見してから帰って行った。
余談だけどゆっちーとカキニーだけは、
「「へーい!カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」」
と、アホみたいに反復横跳びをしながら僕の周りをグルグル飛び回ってから帰った。神経回路のイカれたバッタみたいだなって思った。後で文字通り料理してやる。
「なんだあれ?お前、あんなアホ共とはとっとと縁切った方がいいぞ?」
生徒は僕以外にいなくなった教室で、我らが担任、ヤクザの括ヶ原が話しかけてきた。
「言われなくてもそのうち切りますよ。ていうかそんなことよりなんですか先生?僕みたいな地味キャラを目立たせ、クラス中の好奇の視線に晒して辱めるのがそんなに楽しいんですか?」
僕は、迷惑この上ないといった感じの表情を作り、先生に相対する。
「違う!俺はそんな陰湿な真似はしねえ!相手を辱めるなら俺は俺の拳を使う!」
「あっそう。で?なんですか?」
僕は何故か突然ヒートアップした先生を、車に轢かれた猫の死体でも見るような目でにらんだ。
「お、おう。悪い。実はお前にお願いがあってだな」
「お断りします。さようなら」
「待て待て待て待て、そう面倒な話じゃ無いんだ。話だけでも聞いてくれ」
僕がリュックを背負って踵を返そうとすると、先生は泡を食って止めてきた。一旦リュックを降ろす。
「一体何ですか?僕はとっとと家に帰ってご飯が食べたいんです」
「わかった、じゃあ単刀直入に言う。留学生を受け入れてくれ」
「嫌です、さようなら」
「そうか。ならば死ねぇ!」
先生はいきなり掴みかかってきた。慌てて僕はリュックを盾に自分へのダメージを回避する。
信じられない。こんな体罰にうるさい世の中でまだこんなことする先生がいたなんて。
「ていうか、なんで今更留学生何ですか!普通ステイ先ってのはもっと早く決まってるもんでしょう!」
頭の沸騰してる先生に呼び掛けても無駄だとは知っているが、それでも説得によって先生の攻撃が止まることを信じて、僕は力一杯叫んだ。
後、純粋に理由を知りたかったのだ、なんで急にそんな話が出たのかを。
「ステイ先のホストファミリーが全員食中毒で緊急搬送されたんだよ!今日未明のことだ!クソが!」
先生が近くにあった机の天板をぶっ叩いた。とりあえず僕への攻撃は止んだようだ。
にしても、
「あ、そういう事情なの……?」
「そうだ!」
なんか先生、ちょっとかわいそう。あんたも苦労してんだね、見てて楽しいけど。でも、
「えっと……なんで僕なんです?もっと他に沢山やりたい奴なんていたでしょうに。国際派な俺カッコいいと思ってるウェイとか、人間英和辞典みたいなやつとか……」
謎なのだ。僕みたいな中途半端なやつを選ぶ理由が。
「俺だって最初はそうしようと思ってたさ!でもな、無理だったんだよ!」
「なんでですか?」
「そういう奴らは別の留学生をすでに受け入れてんだよ!それに……」
先生は少し言い淀んで、
「……そいつ、ベジタリアンなんだ」
「さようなら」
先生は僕を厄介事解決マシーンかなんかだと思ってるのかなあ?
「待ってくれ!本当に頼む!お前くらいしか頼れるやつがいないんだ!」
それに、と先生は言葉を継ぐ。
「お前、家庭科かなんかの授業の発表で『完全菜食メニュー』を考えて、全員の度肝を抜いたそうじゃねえか」
僕は思わず固まる。
あれは、去年の夏休み明けのことだったか、夏野菜夏野菜うるさかった家庭科のババアを黙らせるために、全て夏野菜で構成した菜食メニューを作ったのだ。そしたら、そんな僕のガチっぷりにクラスメイトは総ドン引き、もう思い出したくもない黒歴史が出来上がったのだ。
「……どこでそれを?」
自分でもびっくりするような冷たい声が出た。しかし先生は一向に気にした素振りもなく、ムカつく薄ら笑いを浮かべてこう言った。
「職員会議……実に、実に甘美な響きだぜぇ……どんな科目でどいつが何したかってのがボロボロ出てくるからなぁ……へへへ」
どこの小悪党だこいつ。でもまあ、情報源は掴めた。職員会議かぁ……なるほど。
「つまりはスズメバチさんが一家族分いれば充分か……」
「おい声、声漏れてるぞ」
あらら、僕としたことがこれは失敬。
「はあ……でだ、話を戻すぞ」
「はい」
僕は先生の強引な話の戻し方に仕方なく従う。だってここで余計なひやかしを入れてもぶん殴られて終わりだし。痛いの嫌い。
「とかく俺は、この菜食メニューの話を思い出して、『ベジタリアンの子でもこいつの家に放りこんどきゃイケるんじゃね?』って思ったんだ」
「まあそりゃ、ベジタリアンが来たところで、野菜自体は畑から採ったりご近所さんから貰ったりで困ることはないんですけど……」
「じゃあお前で決まりだな」
「話は最後まで聞いてください」
「おう、なんだ?」
「確かに野菜云々のくだりは分かります、僕ならできますし問題もありません。でも、そこじゃないんです。その子がうちに来たとしても、僕は一人暮らしだし、英語もそんなに出来ない、さらに初対面の人と仲良くやるなんて高度なこと出来っこないんです。先生だって知っているでしょう?僕がいつも同じ面子でしか喋らないの。あれは純粋に僕のコミュニケーション能力のせいなんですよ」
「つまり何が言いてえ?」
「やりたくないしできません。それにぼ僕受験生なんで、二年に押し付けてください」
僕は言い訳としては丁度良さそうな言葉を見つけたので、それを躊躇いなく使用した。
すると先生はいきなり笑い出しこうほざいた。
「瀬戸よ、テメエは一つ、でっけえ勘違いをしている」
「なんですか?早く帰してください」
「これは俺の中ではすでに決定事項だ。つまり世界の総意とも言える。だから瀬戸、お前はもう留学生を受け入れるしかねえんだ」
それに、と、先生は一拍間を置いた。
「もう書類ではそう処理しといたしな」
「いや何してくれてんのあんた」
「まあなんとかなるって。ほら、もう帰っていいぞ、留学生とは明日の朝顔合わせすっからちょっと早めにこいよ」
それだけ言うと先生は、シッシと手を払って僕を追い出した。
「嘘でしょ……」
僕は茫然自失の状態で空を見上げる。春霞が薄れているところがどことなく虚ろに感じた。
次の日の朝、僕はいつもより十分早く家を出た。先生のあのにやけヅラには心底イライラしたが留学生に罪はない。むしろ留学生は被害者だ。急にホストは変わるわ、担任はヤクザだわ……
「流石に異国の地に一人で放り出すっていうのも鬼畜の所業だしな……受け入れるしかないんだよなあ……」
つまり僕の動機は同情心。ルンルンしながらこの国に来たら、『お前はホテルに泊まれ』なんて言われる訳でしょ?僕が受け入れなかったら。流石にそれは酷過ぎると思うのだ。
校門では既に来ていた担任が腕組みをして僕を待っていた。僕はそれに応えて自転車を急加速し、思いっきり担任を轢いてやった。ちなみにスピードメーターは時速四十二キロを記録していた。やったぜ。
「おはようございます、先生。先日はどうも」
僕は自転車から降りながら、地面に這いつくばっている担任に挨拶をした。その時に硬い靴底をしている競技用シューズ(ビンディングシューズ)で彼の頭部を踏みつける。
「まあ、天罰だよね」
僕はそう吐き捨てて自転車を置き、他の先生に留学生のいる控え室の位置を聞いてそこへ向かった。
「ここでいいんだよね……」
僕は聞いた通りの部屋の前に来ていた。この扉の先に完全なる異文化からの来訪者がいるとなると怖くていろんな汁が垂れ流しになりそうだった。
「ていうか僕、担任から留学生の国籍とか性別とかなんにも聞いてないや」
扉を前に僕はふとそんなことを思い出す。あのクソ担任、後でもう一度轢いてやる。
「……開けよっと」
いつまでもうじじしててもしょうがない。僕は半分ヤケで、残りの半分はなけなしの勇気を振り絞ってドアを開けた。
「Hello! I'm Utsumi Seto, your host brother.Nice to meet you!」
僕は舐められないように英語でまくし立てながら入室した。すると、困ったような様子の流暢な英語が聞こえてきた。
「Well…… Excuse me maybe you're not my host, you're different from this picture so far ……I'm sorry.」
音源は見事なシルバーブロンドヘアーで碧眼の、イケメン白人男性だった。見た感じ僕と同い年くらいか。なんであんなに顔の作りが違うんだろう。僕は世界を呪った。
「Ah, excuse me ?」
おっと自分の世界に引きこもってた。えーと、この外人さんなんて言ってたんだっけ?あ、そうだった。彼は僕と彼の持っている、現在絶賛食中毒中のホストファミリーの写真を比べて、『え?お前誰?』ってなってるのか。
「あのクソ担任、僕だけならまだしも留学生にも事情を説明してないとは……」
僕も大概困ってはいるが(主に担任のせいで)、それでも僕より困っているであろうイケメンに事情を説明しなきゃ。
「あー、Excuse me sir, Your true host family has got food poisoning from yesterday, so they can't accept you actually. So I accepted you as instead. And……It a kind of suddenly-happen-tragedy, so our school was failed to tell you about this change……」
英語で『ごめん、おたくのホストは食中毒で死んでます。代わりに僕がホストになったんだけど急な事君への連絡がもたついちゃった☆テヘッ☆』と伝えた。すると彼は天を仰ぎ、地面を見て、いきなり笑い出した。
しばらくすると彼も落ち着いたようで、息切れしながら挨拶をしてきた。
「ヒーッ、ヒーッ、F@cking A! All right , nice to meet you too,my new family.」
読んでいただき有難うございます。おかげさまで元気に連載を続けられてます。これからも『高校生、田舎に生きる。』もよろしくお願いします。読者の存在が私の励みです。
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