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高校生、変態に襲われる。

今回と次回のお話は、Karl様の『やしお!』とのコラボ作品となります。一応、『やしお!』を読まれていない方でも楽しんでいただけるように書いたつもりですが、やっぱり『やしお!』を読んでからの方が楽しんでいただけると思います


長くなりました、どうぞ。

 春休みの半ば頃、日が昇るか登らないかの時間帯に僕は畑の草を毟っていた。毟った雑草は畑の隅の方に放り投げておく。そのうち土に還ることだろう。


「ちくしょう、まだ肌寒い季節なのにやたらとぐんぐん伸びやがって!その成長点を僕によこせ!」


 自分の身長が伸びないことに対する八つ当たりを、他人ではなく雑草にしながら僕は草を毟り続けた。


「ふいー」


 一通り草を抜き終わる。まだ辺りは薄暗い。


「次はキャベツの収穫だね」


 僕は一旦納屋へ行き、収穫したキャベツを運ぶために猫車(手押し車のこと)を取り出し、再び畑へと向かった。その時だった。


「なんだあれ」


 キャベツを育てている畝では異物が蠢いていた。猪にしてはやけに大きく、熊にしては小さい、鹿のようにスラッとしているわけでもなく、異物としか言いようがない、何かがあった。


「本当になんだあれ!?」


 僕は素っ頓狂な声を上げた。すると、その異物は僕の方へじりじりと近づいてくる。しかもなんか途中でローリングしたり飛び跳ねたり訳の分からない動きを加えながら。


「ヒッ……うわ……」


 余りの非現実的光景に、僕は腰を抜かすしかなかった。

 熊なら逃げればいい、猪や鹿なら脅かせばいい、不審者や畑泥棒なら農具で殴って堆肥にすればいい。でも、これはダメだ。得体が知れなすぎて対処法がてんで分からない。

 迫り来る脅威が何か分からず、何もできない、もはやこれまでと思った時、人間は腰を抜かし、逃げることも抵抗することも諦めるのだ。


「ハハッ……」


 乾いた笑い声が出る。足がガクガク震えて立ち上がれない僕は、目の前の異物に対する恐怖から逃げるために、考えるのをやめて笑うことにしたのだ。

 僕がそうやって一人テンパって諦めているうちに、その異物は僕の目の前まで来ていた。そして異物は猛然と立ち上がり、






 バッ、と正面を開いた。


「得体の知れない現象を目にした貴方は言い知れない恐怖を感じます。SAN値チェックです」


「ハハッ……って、は?」


 人の声が聞こえて、一瞬だけ正気に戻った僕が目にしたのは、なんかモサモサした外套の様なものの前を開けて、ドヤ顔をしている、全裸の痴女だった。


「うわああああ変態!」


「誰が変態だこの背骨セロリ野郎が!」


 僕は慌てて逃げ出した。変態は追いかけてくる。


「しかも足が速い!動きもキモい!」


 僕が後先のスタミナ配分なんて考えずに短距離走の走り方をしているのに対して、変態は爪先立ちでまるでバレエでも踊っているかのような姿勢で追いかけてくるのだ。そしてそんなふざけた走り方なのに距離をじわじわと詰めてくる。恐ろしすぎる、多分捕まったら生きては帰れない、そんな気がする。


「待って……もう疲れた……オエッ」


 僕が必死で逃げていると、後ろから迫ってきていたプレッシャーが急に弱くなって、息も絶え絶えの声が聞こえてきた。そして、直後に激しい雨のような音が聞こえてきた。


「撒いたか!?」


 僕は急な空気の変化に驚き、走りながら後ろを振り返る。すると、大分後方で先程の変態が四つん這いになってゲロをぶちまけていた。


「いや待って、僕が撒きたいのはあんたであってゲロではないんだけど……」


「オロロロロロロロ」


「これはひどい」


 僕は思わず立ち止まって、変態をまじまじと見る。変態とはいえ女の人が全裸に変なデザインの外套一丁でゲロを吐く姿を見て、僕の中での恐怖やらなんやらはどこか遠くへ飛んで行った。

 そして、代わりとばかりに僕の感情を占めたのは憐憫の情だった。いくら相手が変態だとはいえ、流石にこの状態で放置は鬼すぎるなと思った僕は、少し情けを出して声をかけたけど、返ってきたのは嘔吐音。これはひどい。僕は情けを捨てた。


「さようなら。来世ではまともなおつむが手に入ったらいいですね」


 僕はイカれ変態女に別れを告げ、これが今生どころか永遠の別れになることを願って変態の近くから離れようとした。今日の日の出来事はきっと嫌な夢だった。そう思い込もうとした。


 その時だった。


「立ち止まれ、さもなくば警察を呼ぶぞ」


「いや、呼びたいのはコッチだよ!」


 僕は思わず立ち止まって振り返り、変態に対して吼えてしまった。すると変態はいきなりニヤリと笑って、


「なあ、仮に私が今警察を呼んで強姦されたって言ったら、悪いのはどちらになると思う?」


 クソほど卑怯な手で攻めてきた。だけど、今回ばかりは警察は僕の味方だと思う。だって、


「いや、そもそもあんたの服、コート一枚しかないじゃん?強姦もクソもなく、あんたが猥褻物陳列罪で逮捕されるのがオチだと思うんだけど……てかまずしてないし」


 すると変態はいきなり怒り出す。


「これはギリースーツだ!コートなんかと一緒にするんじゃない!」


 そして話が飛ぶ。どうやら変態は頭のネジも飛んでいればお話の仕方も飛び飛びの話し方が好きらしい。僕は変態という生き物について一つ詳しくなった。PTSDになりそう。


「あ、そこに注目するの!?警察云々の話は!?」


「しかも近くの陸自の駐屯地からかっぱらってきた由緒正しい代物だぞ!謝れ!」


 僕は相手のアホさ加減に頭がクラクラしてきた。それ犯罪じゃん。


「猥褻物陳列罪に窃盗、建築物侵入ですね、通報します」


 僕は携帯を取り出そうとする。すると変態は更に怒鳴り散らしてきた。


「自衛官五人を殴り飛ばしてまで盗んできたんだぞ!それなのにお前はぁ!コートなんかと一緒にしやがって!」


「窃盗ではなくて強盗致傷」


 罪状がランクアップしちゃったよ。


「畑に入る前に職質されたから、職質してきたポリを仕留めてまで手に入れたモンだぞ!とっとと謝れ!」


 更に罪状を追加しちゃったよ。


「公務執行妨害に障害まで……数え役満じゃん!おまわりさん!僕捕まえました!こいつです!」


僕はポケットから勢いよく携帯を取り出した……かった。どうやら家に忘れてきたらしい。最悪だ。


「あっ!てめえ!ちょっと待て!これやるから静かにしろ!」


 そう言って彼女がギリースーツの内ポケットから取り出したのは、黒い、長方形のものだった。


「ポリの財布だ。五千円入ってる」


「累積刑で無期懲役になればいいのに」


 僕は心の底から言った。そしたら変態は朗らかに笑って、


「すでに終身刑食らってるよ!脱獄してきたんだ!ハハハハハ!」


「この場で殺しても多分罪に問われないよね、よし決めた。ちょっとそこで待ってろ」


「まあ待て、落ち着くんだオケラの左手ボーイ」


「その意味不明なニックネームやめてほしいんだけど」


「だが断る」


「……もうやだ。帰る」


 僕はこの話が通じないキチ○イを前に、心が折れた。変態には絡まれるし、さっき通報しようとして気付いたけど僕、携帯を家に忘れてるし、とにかく今日は踏んだり蹴ったりだ。

 僕が朝イチで心を折って、落ち込んで家の戸をくぐると、何故か先程の変態が居間でくつろいでいた。


「おかえり貴方!ご飯にする?お風呂にするる?」


「通報する」


「ハハハ!無駄だ!貴様の家電話線は切断したし、貴様の携帯だって我が手中にあるからなあ!」


 誇らしげな変態を目にして、僕の中で黒い衝動が産声をあげた。


「ウガァァァァァア!」


 僕は変態を力の限りぶん殴った。


 変態は気絶した。


「もうやだ……通報する……」


 僕は変態の手から自分の携帯を取り、警察に通報しようとした。しかし、どうやらこの変態がパスワードを間違えまくっていたようで、後三十分は携帯が開かないらしい。


「なんか警察と救急だけには掛けれたと思うけど……ああ!やり方わかんない!」


 僕のイライラはピークに達し、変態を苛立ち紛れに蹴飛ばす。すると、何故かはわからないけど優しい気持ちになって、クールダウンした。

 冷静になって、お腹が空いていることに気がついた。ちくしょう、どれもこれもあの変態のせいだ。


「もういいや、三十分待とう。待ってる間に朝ご飯を食べて、そしたら通報しよう」


 僕は変態を放置して、台所へと向かった。


改めて、コラボの許可を下さったKarl様、ありがとうございました。

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