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復讐の血斗

ああ、クソッタレ。とんだ地まで来ちまった。

神よ。これが酒をたらふく飲んだ仕打ちと言うならあんまりだ。

あんまりすぎる。


片方は可愛らしい人形のような二人の少女が町一つを滅ぼしかねない危ない殺気を放っている。

妹は小さな鞄よりもとても大きな黒い革の本を取り出すと眼鏡をかけて夢中に読み始める。

姉の目は赤黒く濁り始め、氷のような冷たい眼差しを騎士に向ける。・・・丁度間に座っている俺の肌を凍らせながら。


もう一方の騎士も一見は古いが、よく磨かれ手入れされているような短剣を鞘からゆっくりと引き抜くと、刀身は何かを纏ったように黒く雲が取り巻くように回っているように見えた。

その直後に急に額から汗が流れ、目に見えてコップに入った水が減っていく 。

そして、剣先をエルフに向けるとどこからか異臭が立つ。・・・ああ、なんてこった!俺の髪からだ!燃えてやがる!

精一杯に一心不乱に自分の頭をどつくようにはたいて何とか全焼は免れた。


つまり、この状況下では俺は半分ほど死んでいるも当然だった。死んだ方がかなりマシだった。

どちらにも視線を合わすこができず、ただ俯いて手を忙しなく動かすぐらいのことしか出来ない。

そう、例えば・・・火薬と鉄球をシリンダーに入れローディングレバーでそれを押し込める。

落ち着くんだ。毎日やっていることだ。ママが「いざというときも、いつも通りに振る舞いなさい。」と言っていた。だから・・・


「・・・さっきから貴方は何をしているの ?」


認めよう。俺はまだ正気じゃなかったようだ。でなければ、さらに状況を悪くしている俺の行動に説明がつかない。

指から鉄球が転げ落ちるが、拾うことはできなかった。

左右から疑惑と警戒の視線を浴びても粗相をしていなことは奇跡だ。

しかし、その奇跡も銃に弾を込めると言う自らの失態によって不意になった。

この地に神はいなかった。


「そ・・・双方からのプレッシャーに耐えきれず無心にレミントンに弾を込めています。命だけは助けてください。」


できれば、五体不満足で帰りたいです。と、までは言えなかった自分が悔しい。

やっぱり、言った方が良いだろう。言おう。いや、殺されるかも。


姉が妹とアイコンタクトを送るとなぜか姉妹とも頷く。ああ、駄目っぽいな。

「レミントン?そういえば、貴方の経緯もコボルトに空いていた風穴も何一つ説明されていなかったわね。それに、貴方の腰にぶら下げているソレがさっきから気になっていたところよ。」


「黙れコボルトのエサにもなれぬメス豚共が。それは今から俺が聞くところだ。どちらか片方でも生きて帰りたいなら、跪いて家畜のように命乞いをしろ。」


さっきの緊張状態がさらに張り詰めていく。その上で俺は綱渡りをしているんだから中々の道化であることだろう。

ああ、なんだろうとても不思議なこの気分は。なぜだか急に故郷の唄を口ずさみたくなってきた。

高揚感というのだろうか。どうせ死ぬ道化師ならば派手に綱から飛んでみたい。

慎重に渡りきった先が泥沼な死ならば、飛び上がり三回転半ほど回ってから華麗に着地すると見せかけて盛大に転びたい。


それに、ああ・・・父は言っていた。

「息子よ、ビットマンの血は先祖代々からあらゆる血と宗教と文化が混在している血筋だ。俺の親父、つまりはお前のおじさんに当たる人はカトリック教会でマスをかきながら自分の息子を銃で撃って死んだ。」


「なんで自分の息子を撃ったの?痛くてかわいそうだよ・・・」


「ああ、息子よ。そんなに怖がることはない。おじさんはね、息子を撃ってもまだ生きていた。だからちゃんと止めを刺してあげたんだよ。」


その時の父の目を今でも覚えている。思い出してしまったんだ。エルフの目を見て。

殺気と決意と諦めが入り混じったような遠い目をしっかりとこちらの目を見て言い放った。


「忘れないでおくれ息子よ。この血筋で唯一決まっていることは"クソ野郎は迷惑をかける前に殺せ。身内がクソ野郎なら迷わず殺せ。"なんだ。だから、息子―――ロアよ頼むから俺や母さんがいけないことをしようとしたらちゃんと殺しておくれよ。」


その後のことは覚えていない。幼くあまりにもショッキングな出来事だったんだ恐らく故意に忘れてしまったんだろう。

しかし、生前の親父が言うにはあの時の俺は黙って頷いたそうだ。


ガンベルトから銃を引き抜く。

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