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4.とある毒男の接吻痕跡《キスマーク 》 (中)

4.とある毒男の接吻痕跡キスマーク (中)



「くぅっ! フードコートに出店しているラーメン界の室○広治と呼ばれる男が作ったという豚骨醤油ラーメンを食べてみたいッ! 食べてみたいのだがッ……」


 俺はその日、晩飯のメニューをどうするかについて葛藤していた。両親の帰りが遅いという事で一人で外食して帰るということになったのだ。


 以前から学校近くのフードコートに店を構えるラーメン店が気になっていた俺は、そこのラーメンを食してみたくて仕方がなかった。ラーメン界の室○広治と呼ばれるマッチョで研究熱心なオーナーが開発したという珠玉の豚骨醤油ラーメンは大人気で、フードコートのブースはいつ覗いても行列が絶えたのを見たことがない。


 しかし、フードコートには同じ高校のヤツらがたむろしている。ダメだ、恐くてそんなところで飯なんて食えるはずもない。


 仕方がなく俺はショッピングモールとは駅から反対方向にある商店街に来ていた。このさびれた商店街は盲点となっていて高校のヤツらほとんど出入りしないのだった。


「さて、何を食おうかねぇ……」


 商店街にもラーメン屋はあったが、ラーメンならどこでもいいという訳ではない。ラーメンは好きだが味にはうるさいので、こだわりを感じられないいい加減なラーメンは断固として食べたくないのだ。


 しばらく迷った後、俺は商店街の奥にある牛丼屋をチョイスすることにした。なんといっても値段が安い。夕食代を浮かせたお金を欲しかった新刊の購入代金の足しにするとしよう。

 俺はよどみなく牛丼大盛りを注文した後、顔をやや伏せながら店内をぐるりと見回した。セーフだ。同じ高校の生徒の姿は見当たらない。


 牛丼屋というスペースは一人で飯を食うには実に理想的だ。カウンターはまさしく一人客を想定して作られているし、実際一人で食べている客が多いのでぼっちでも安心できる。注文して一分ほどで牛丼が届き、俺は七味唐辛子をふりかけ、肉を寄せて紅ショウガを山盛りに入れた。これで野菜成分もバッチリである。


「某チェーン店のパクリみたいなオレンジの看板だったけど、この店、結構美味いな。また来よう」


 消極的な判断基準でチョイスした店であったが、結構アタリだ。安いのに味はまずまず。俺は浮いたお金をどの新刊を買うのに充てるか思案しながら牛丼をかきこんだ。



 怪異に出会ったのは、腹を膨らませて牛丼屋を出た直後のことだった。なんだか通りが騒がしい。女性が悲鳴をあげており、男が泣きそうな声で絶叫している。何事だ?!


「や、やめてくれぇぇぇぇぇっ! やめてくれよぉぉぉぉぉっ!」


 見るとスーツを着たサラリーマン風の男の首筋に喰らいつく人影が見えた。人影が男を離し、その姿があらわになる。


 またしても、変態と遭遇した。


 まず目についたのはその顔。濃いアイシャドーにパッチリすぎるマスカラ。分厚いクチビルを囲むアゴには青い無精髭を生やしている。服装は丈の長いハイネックセーターで、そこからすね毛の濃い生脚が直接生えていた。もしかしてコイツ、穿いてないのか?!


 と、その変態と目が合ってしまった。嫌な予感がする。


「ワタクシはめるてぃキッス。アナタたちにキスマークを刻み込んでアゲル愛の魔人よっ♪」


 き、気持ち悪い……。間違いない。コイツは先週出会った魔法少女が戦っている怪人の仲間だ。だが、どうすればいい? 俺には怪人を倒す力はない。それにしてもこの名前、某お菓子メーカーからクレームが来ないのであろうか。


「でも、もしかしたら、みるくちゃんとまた会えるチャンスかも!」


 そう思った俺は甘かった。チョコレートに生クリームを乗せてハチミツをかけるよりもずっと甘かった。魔人は次のターゲットとして、俺にロックオンしたのだ。


「さぁ、次は、ア・ナ・タ♪」


 そいつは逃げ遅れた俺の両肩をしっかりとホールドすると、俺の首筋に強烈な力で吸い付いてきた! ダ○ソンもビックリの物凄い吸引力だ。


 ぶちゅううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅうっ!


 気持ち悪さで頭が真っ白になり、怪人から解放された俺は膝からがっくりその場に崩れ落ちた。なんだこの悪い夢は? 頼むから早く醒めてくれ。


「アナタの首筋にも、ステキなキスマークがついたワょ♪」


 キスマーク。それは人体を強く口で吸うことによって出来る内出血の痣である。通常は激しい男女の営みの際につけられたり、男が女に俺の物アピールをするために刻み付ける印だ。こんなオカマの怪人につけられて良いものでは決して、ない。


「そんな……初めてのキスマークは、大好きな彼女と、ラブラブになって……そんな俺の甘酸っぱい夢がぁぁぁぁぁぁっ!」


 俺の体に初めて刻み付けられたキスマークは愛する彼女からではなく、気持ち悪い怪人からのものとなってしまった。俺、恥ずかしくてもうお婿に行けない……。ショックで俺は頭をかきむしる。口と口とのファーストキスでなかっただけまだマシだが、ショックなことには変わりはない。


「みるくちゃん、早く来てくれッ! そして、この怪人をやっつけてくれぇッ……!」


 そう天に願った、その時! 天使は舞い降りた!


「そこの怪人さんっ! そこまでですぅっ!」


 ピンクの衣装を身にまとった魔法少女が駆け付けたのだ。できればもう少し早く来てほしかった。


「アラ、魔法少女ね。フンっ! ワタシを止められるかしら?」


 魔法少女が現れても怪人は余裕しゃくしゃくだ。行け! みるくちゃん、怪人をやっつけてくれッ!


「悪事もそこまでですっ! ミルキーウェイフラッシュ!!」


 いきなりみるくちゃんの必殺技が炸裂した! やった! と、思ったのだが……。


「アラ、そんな攻撃当たらないワよ?」


 めるてぃキッスは簡単にミルキーウェイフラッシュをかわしてしまった。


「みるく! ミルキーウェイフラッシュは相手を弱らせてから撃てといつも言ってるだろう!」


 犬顔のマスコット、ラック君が厳しい声で叫んだ。


「ご、ごめんなさぁぃ……」


 みるくちゃんがしょんぼりする。


「みるくちゃん、早くやっちゃってくれッ!」


 俺もみるくちゃんに向かって叫ぶ。


「あ、赤松さん! 先日はどうもありがとうございましたぁっ」


「こないだのことはいいから、早くアイツに必殺技を叩き込んでやってくれよッ!」


「あの、ダメなんですぅ……」


「え?」


「みるくのミルキーウェイフラッシュは一発撃つと、次に撃つまで三分間休まないといけないんだ!」


 ラック君が解説してくれる。え? という事は、あと三分間、あの怪人を前にして何もできないの?


「ウフフ、魔法少女ちゃん、アナタにも素敵なキスマーク、つけてア・ゲ・ル♪」


 魔の手がみるくちゃんに迫る。ダメだ、あんなヤツにみるくちゃんを汚させるわけにはいかない! だが、どうすればいい? 俺は精神的ダメージでまだ立ち上がることすらできない。


 後ずさりするみるくちゃん。這い寄る怪人。もうダメ……なのか? そう思った、その時!


「オイ、貴様ぁ! 俺にもキスマークをつけるんだぁぁぁぁぁっ!」


 一人の太った男が、みるくちゃんと怪人の間に立ちふさがった。ん? この声、なんだか聞き覚えがあるぞ?


「アラ、自分からキスマークが欲しいだなんて。いいワよ? つけてア・ゲ・ル♪」


 怪人はその男の首筋にぶちゅぅぅぅっと吸い付き、キスマークを刻み込む。


「どうかしら?」


「もっと、もっとだぁぁぁぁぁっ! 俺は新田先生に勝つんだぁぁぁぁぁっ!」


 なんだコイツ、うちのクラスのメタボ担任じゃないか。こんなところで何やってんだ?


 怪人にキスマークを求める担任教師。しかし、いくつキスマークをつけても担任教師は満足しなかった。


「イヤん。しつこいオトコはキ・ラ・イ・ッ」


 八か所キスマークをつけたところで、怪人の方が先に音をあげた。


「きょ、今日のところはこれで満足してアゲルわ」


 そう言い残し、怪人は身をひるがえして去っていった。これは……助かった……のか?



 独身メタボの担任教師の活躍(?)で、その日の危機はとりあえず去った。こんな変態怪人には、みるくちゃんのような魔法少女よりも同じ変態同士の方が合っているんじゃないだろうか。童貞のまま三十を超えると魔法が使えるって言うし、アラフォーの先生ならきっとアークウィザード級の大魔法使いなのだろう。


 しかしまだ怪人を倒したわけではない。次こそ、みるくちゃんにはミルキーウェイフラッシュをばっちりと当ててもらわないといけない。そう思いながら、俺はようやく立ち上がり、みるくちゃんに声をかけたのだった。




このエピソードはもう一回続きます。

次回は3月23日更新予定です。


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