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1.魔法少女はときめかない(前)

1.魔法少女はときめかない(前)



 今日は高校の入学式だった。


 俺、赤松誠の中学での定位置はクラスの隅っこ。事務的な会話以外、ほぼ誰とも喋らずに中学の三年間は過ぎていった。

 今日からは三〇分の電車通学で通う高校生。あわよくば今日から高校デビューして生まれ変わろうと思っていたんだが、考えが甘かった。


「あいつら、なんで初対面であんなに楽しそうに話せるんだ? 入学式の後、クラスごとに集まっった時に後ろの席のヤツに話しかけようとしたけど、何て声をかけていいのかさっぱりわからん。それに、既に中学や塾での知り合いなのだろうかグループを作って話をしているヤツらもいた。ちくしょう、フェアじゃないぞっ!」


 俺は『クラスに友達を作る』という、高校生活最初のミッションをそうそうにあきらめ、ホームルームが始まったときには既に帰りに寄り道する事しか頭になかった。畑と田んぼをぬうように住宅地とマンションが点在する自宅の近所とは違い、高校の最寄駅にはちょっと大きなショッピングモールがあるのだ。俺は既にショッピングモールにある大型書店にロックオンし、文庫本を漁って帰るのを楽しみにしていた。


 そんなこんなで自宅の最寄り駅に着いた頃には日はどっぷりと暮れ、西の空にはほっそりと三日月が浮かび、その傍にはほくろのように明るい星がきらめいていた。大型書店を物色するのは楽しかったが帰り道の今は祭りの後のような気分で、何とも言えないむなしさが俺の心の中を支配していた。


「あ~あ、高校に入ったら友達を作って、そしてあわよくば、彼女を作って、リア充ってやつに変身するつもりだったんだがなぁ……。今時オタクでも、リアルが充実してる奴、多いだろ。ちくしょう……」


 大好きなアニメの展開のように右手に秘められた超常の力に目覚めてツンデレヒロインに追い回されたり、空から女の子が降ってきてその娘を守るために戦って恋なんか芽生えちゃったり、そんなアツくて燃えるような展開、来ないですかねぇ? 来ないですよねぇ、やっぱり……。

 などと、俺は大好きなアニメの世界に思いを馳せながら駅から家に向かう住宅地を歩いていると……。



 本当に、空から女の子が降ってきた。



 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ! 気がつくと俺は、道の真ん中で仰向けになっていて、なんだかピンク色の何かに押し倒されていた。な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかまだよくわかっていない。


「きゃぁ~! ご、ごめんなさぁいっ!」


 と、俺の体にのしかかった『そいつ』から声がする。っていうか、けっこう重い。


「もうっ、ラック君ったら、急に魔法の力を切っちゃうんだから……」


 俺の顔のすぐ目の前に、長いまつ毛がぱちりとした、可愛らしい女の子の顔があった。体に当たる感触は、結構重たいけど、なんだか柔らかくて、それに、ちょっぴり甘いような、ものすごくいい匂いがした。


「あ、あ、あ、あの……」


 女の子に免疫のない俺はすぐさま挙動不審になる。


「あ、ご、ご、ご、ごめんなさいっ! すぐにどきますのでぇっ!」


 そう言うと俺に覆いかぶさっていた女の子は顔を真っ赤にして、起き上がろうとして……バランスを崩してその肘が俺のみぞおちにクリティカルヒットした。


「ぐぼぉぉぉぉぉっ!」


「あああぁぁっ! ごめんなさいっ! ごめんなさいですぅ……」


 女の子は申し訳なさそうにじたばたしている。そしてようやく起き上がって、その娘の姿が俺の目に入った。ん? なんだコイツは?!


 俺がその娘を見て驚いたのには無理もなかっただろう。だって、この何にもない住宅地のど真ん中で、その娘の格好といったらピンクのレオタードにレースのひらひらのスカート。その手にはやたらとゴツくて赤くておっきな宝石みたいな石がはまった杖のようなモノを持っていたんだから。


「あの……それ、何のコスプレ? 過去の名作とか今期のアニメとか、結構チェックしてるんだけどわからない。ゴメン」


 コスプレだというのに何の作品のコスプレだかわからないのが悔しい! ビクンビクン! 俺の心の中のオタク回路は悔しさのあまり反射的に謝罪状態におちいっていた。


「いぇ、これ、コスプレじゃないですぅ……」


 女の子が顔をさらに真っ赤にして答える。


「みるく! 魔法を私用で使っちゃダメだってあれほど言っておいただろう!」


 そこへもう一人分、声が聞こえた。今、魔法って単語が聞こえたような気がしたんだが、もしかして頭がかわいそうな人?


 俺はようやく、体を起こすことに成功する。背中がまだ痛いが、みぞおちに肘を入れられたダメージは無事に抜けつつある。


「だってだって! あとちょっとでふ○っしーが獲れたんだよっ! もう千円も突っ込んじゃってもう少しで獲れたんだからぁっ! 今月のお小遣い、もうなくなっちゃったよぅ……」


「ボクはUFOキャッチャーでふ○っしーを獲るために魔法の力をみるくに授けたんじゃない」


 冷たく言い放つ声が聞こえるが、周囲を見回しても誰も居ない。可愛らしい犬のような、顔から直接足の生えた、もふもふした謎のぬいぐるみがこちらを見つめているだけだ。


「もぅ~、ラック君のケチっ!」


 女の子はぶぅっと膨れてそのぬいぐるみに向かって叫んだ。年は俺よりちょっと下ぐらいだろうか。ショートカットで、まつ毛が長くてちょっと垂れ気味の優しそうな目は、正直、少しタイプかもしれない。女の子が落ちてくるなんて、コレ、確実にフラグでしょ。自己紹介した方が良いかな?


「あの、キミ、大丈夫? 俺、赤松誠。よろしく!」


 言えた! 昨日の晩から何度もシミュレートしながら高校では一度も披露する事のできなかった、完璧な自己紹介だ。


「え? あ、あたし、板倉みるく……です。あ、あの、さっきはごめんなさい……」


 みるくと名乗った女の子は顔を伏せて照れくさそうに自己紹介してくれた。か、可愛い……。俺にもやっと春が来たのかもしれない。


「ボクはラック君だよ! よろしくね! 誠クン!」


 と、もう一人分の自己紹介が返ってきた。


「ん?」


「こっちだよ!」


 と、俺の目に信じがたい光景が飛び込んできた。ぬいぐるみだと思っていた犬顔に足の生えた謎の生き物が飛び上がり、俺の真正面でペコリと礼をしたのだ。

 ポカンとする俺に、みるくちゃんが説明してくれる。


「あ、あのね……、信じてもらえないかもだけど、あたし、魔法少女なのっ! そしてこの子はラック君。地球から八〇光年離れたラッテ星からやって来た妖精なの」


「ま、魔法少女デスカ……」


 魔法少女モノは嫌いじゃない。嫌いじゃないが……。正直、魔法少女モノの薄い本も愛用しているが、そんなことはこの場では口が裂けても言えるはずがない。


「ボクらはこの町に住みついた極悪な妖精、ナットーの手下の怪人と戦ってるんだ。今も怪人の反応を追っていたところなんだ」


 ラック君という、犬顔の生き物によるとそういうことらしい。


「怪人って、そんな奴らがこの町に居たのか?」


「そうだよ! 奴らは街の犬の顔に眉毛を書いたり、スーパーのコーラのペットボトルをシェイクしたりする、とても悪い奴らなんだよ!」


 どうやらナットーの一味と言うのは、極悪というより、ちょっとおちゃめないたずらっ子集団のようだ。だが、スーパーで買ったコーラがシェイクされていたら……それは困る。


「それで、今追ってるっていう怪人は?」


「えぇっと、それは……」


 みるくちゃんが答えようとしたその時、甲高い笑い声が後ろから聞こえた。


「フハハハハハハハ! 無様だな、魔法少女よ!」



 変質者が、そこに居た。

読んで頂きありがとうございました!

本作は毎週水曜日に3000文字程度ずつ連載予定です。

投稿ペースはゆっくりですが、末永くお付き合いいただければ幸いです。

m(_ _)m

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