親子の稽古、足りないのは信念!!
「がぁあああ!」
振り下ろす、返す刀を振り上げる、親父の刀を振り払う、刀を振るう、振るう、振るう!
「あああああああ!」
「遅い」
振り払いガラ空きになったはずの親父の胴体に刀を振り下ろしたと思った瞬間、親父の刀が目にも留まらぬスピードで走った。
そして気がつけば、俺は再びあの部屋に戻されていた。
仰向けになりしばし天井を眺めたあと、急いで起き上がろうとして、腹部に強烈な痛みが走る。
「……ッ〜〜!」
完全に捉えたと思ったのに、気がつけば親父の刀が俺の胴体を捉えていた。
この痛みがその証拠だ。
目に見えない。目で追えない。早すぎる。
「化け物かよ……」
それは絶望というより、諦めに近い。
親父の力は、追いかけ続けたからこそ、よくわかっている。
初めのうちこそ、俺は少しでも近づけているんじゃないかと思った。
だけどそんなものは所詮、ただの妄想でしかなく。
いざやっていれば、ただ作業のように、片手間で、実際に刀は片手で、俺のことを見向きもせず、鼻くそをほじりながら空を見上げて、腹減ったなーとか呟きながら俺を斬り伏せた。
そして俺はこの部屋に戻された。
どうやらここで殺されると、主に精神面にダメージが蓄積され、体にはダメージはさほど入らないらしく、実際に死ぬことはなくリセットされこの部屋に戻される。
「まぁ、精神体であるこの体には、めちゃくちゃ激痛が走るんだけど」
俺は全力で親父を斬る気まんまんだったというのに。
人の自尊心をズタズタにすることになんの罪悪感も覚えないど畜生は健在だ。
「せめてスマホがあれば……」
魔道書と、あとは師匠が呼べれば。
魔道書はともかく、師匠が呼べないのは痛すぎる。
あと脳筋な師匠の人格はともかく、竜王の力は今の俺の最大戦力だ。
うちの師匠、体は刀のくせに俺に教えてんの『刀術』じゃなくて『剣術』だからなぁ。
前にその点について聞いてみたら、『決闘流』という師匠が作った流派を立ち上げた際、刀と剣のそれぞれで技を作ったにもかかわらず、刀と剣の違いがいまいちわからずに一纏めに『剣術』にしたらしい。
流石は超感覚で戦う脳筋。
知識もクソもねーと指差して笑ったら、凄い殺気を向けられて強制的に黙らされた。
くだらない現実逃避終わり。
「ちっくしょ……どうすりゃいいんだ」
ここから状況を変えられる気がしない。
ここに戻された回数、計98回。
あと二回で100回を達成する勢いだ。
今頃人のことを、この部屋から一振りで遥か後方の森みたいなところに吹き飛ばしてくれたど畜生が走ってこの部屋に向かってきているはずだ。
リスポーンしている俺とは違いあれだけの距離を走っているくせに、どんだけの速度で走ってるんだって話で
「オラオラ起きろ寝坊助ガァ!」
「ど畜生がああああ!」
部屋の扉からは逆方向の壁をぶち壊して容赦無く刀を振り下ろしてくるど畜生改め親父様。
派手に振り下ろされた刀をなんとかして受け止める。
やべ! 両足が気張りの板を破って埋まっちまった!
「お、防ぐようになったじゃねぇか」
「リスポーンしたら必ず不意打ちされて殺され続けりゃ予想もつくわ!」
「は! 生意気に。おら、記念すべき100回目だ! 喜べ!」
「うっせえまだ死なねえよど畜生! それと、99回目だっつーの!」
決闘流剣術……
「『水月・(津波)』!」
下に押し込まれているこの状態で使える技。
物体を刀の刃で真上に吹き飛ばす。
本来ならば体の回転の力を利用して勝ちあげるのだが、空中に浮いている状態の人間を勝ちあげるくらいなら……
くらい、なら……
「………………うっそぉ」
このクソ親父、人間じゃねぇ。
回転なしとはいえ、ドラゴンだってかち上げられた剣術を、なんで空に体浮かせた状態で耐えられるんだよ!
くっそ、ビクともしねえ!
「本当に人間かよ……!」
「こんなん、ただの体幹操作じゃボゲェ! ほらほらほらほら! このままじゃ潰れるぞ!」
「こんの、野郎があ!」
勇者権限『想像』・『武器創造』!
親父の後頭部真上に創造、角度調整、親父の頭をロックしたまま角度30度!
「爆縮!」
「あん?」
想像した槍の操作は、精々想像した直後の数秒、ちょっと創造する位置を動かすレベル。
自動で発車させることなどできない。
だからこそ、槍のケツを爆発で思いっきり叩く!
後頭部ほぼゼロ距離で、爆発の音でその存在に気がついたのだとしてももう遅い。
遅いと、思ったんだけどなぁ。
「よっこいせっと」
目にも留まらぬスピードで振り払われたとさ。
だが、目にも留まらぬスピードとはいえ、感覚はある。
親父の刀が離れた瞬間を逃さず、即座に移動!
「決闘流剣術『無足』」
埋まったまま、でぇ!
床をガリガリと削りながら、ついでに俺の足の体力もガリガリと削りながらなんとか親父から距離を取る。
「おー、やるじゃん。感心感心」
「余裕、こきやがって」
とか言いながらちゃっかり足を抜いてっと。
あー痛かった。
いやー、にしてもえらく遠くまで弾きとばされたなー。
あれでもだいぶ爆縮に威力込めたのに。
まぁ、武器創造で創造の能力に補正がついたにしても、所詮は俺が脳内で打ち上げた槍に過ぎない。
武器についての知識は、というか鍛治についての知識は、それなりにつけたつもりなんだが……
それでも所詮知識は知識、実際にやってみて思った通りに行くのなら苦労はしない。
「まぁまぁな足運びだが……まだまだ甘い、な!」
「あんたのそれは足運びじゃねぇ! 瞬間移動だっつーの!」
一瞬で俺の目の前に出現する親父の顔面にストレートをかます。
まぁ避けられたんだけどね、逆に俺が腹にワンパンもらった。
予想していたので思いっきり後ろに飛んで、後方の扉を背中でぶち破り距離を取る。
「これだって体幹操作だ」
「ああそうかい! そんなに体幹が大好きならたっぷり食らわせてやらぁ!」
肘に、しなりをつけてぇ!
「決闘流剣術……」
思いっきり、踏み込んでぇ!
「『炎月・(業火)』!」
最速の振り下ろし、それを片手で難なく受け止める親父。
だが
「お?」
今回は、前よりも、少し、傾いた!
「んだよ。お前も割と体幹操作鍛えてたんだな」
「師匠にこってり絞られたからな!」
涼しい、顔、しや、がってぇ!
せめて、両手使えやコラ!
「だが、足らねぇなぁ……」
親父がつぶやき、雰囲気が変わる。
「まだまだ足りないんだよ。死にたいのかお前?」
「あぁ?」
「俺を斬ることに必死になるのは大変結構なことだけどな。そんなんじゃ変わらないんだよ。いや、少しは変わるぞ? でも、今のお前の刀には想いがない。そんなんじゃダメだ。足りないんだよ」
親父の言っていることがいまいち理解できない。
親父を切れるようになるまで、特訓をするのではないのか?
「お前、外の状況ちゃんと理解してる?」
「ベルと、魔王だっけか? 二人が俺から生命力を吸い取ってんだろ。それに対抗するために、素の状態で戦えるようにならなきゃいけない」
「うーん、その通りなんだが……欲の吸収を果たして生命力と言っていいものか、いや、近しいものではあるんだが、それそのものとは、いやなぁ」
一体、何が言いたいんだ。
「信念が足りないんだよ。そうだ、えーっと…………なるほどね、こんなのは、どうだろう」
親父が俺から距離を取り、パチンと指を鳴らす。
すると、親父の隣に、『ハル』が現れた。
「は?」
「ハルカちゃんっつーんだって? この子。いい子そうだし、お前にゃもったいねーな勇魔」
そして、親父は流れるような動作で、刀をハルの首に
「んー、いい反応、いい移動速度、移動の最短距離の最速、それに加えて俺の一撃をその場で堪えて受けてみせる力の使い方。お前本来の力じゃ、ここまでの力は出ないし。爆発的な力の出し方も慣れてきてる。うんうん、いい師匠持ったなー勇魔」
「殺す!」
この世界は所詮は精神世界。
夢の世界といってもいい。
ならば、ここにいるのは幻だ。
幻のハルだ。
ほら、もう、俺の後ろにハルはいない。
だけど。だけど!
「そう、それだよ! 勇魔。お前、今いい顔してる。だがまぁ、最高ではないけどな」
「決闘流、剣術混合闘術『炎風月・業旋』!」
体幹の操作で爆発的に火力を上げ相手を叩き潰す『炎月・(業火)』。
それを刀の先を回転させ貫通力を上げ、最速の突きで相手を貫く『風月・(旋)』に合わせる!
「オラァ!」
一直線に突きを繰り出す。
間違いなく、俺の中で最高速の一撃だった。
当の親父は、欠伸をして、俺の最高速を、余裕で目に捉えて尚、避けようとしなかった。
俺の一撃は直撃、だが。
「良い突きだが、いかんせん遊びがないなぁ。面白みがないと言ってもいい。愚直すぎる。なんだぁ? もしかしてオリジナルか?」
もしかしなくても即興だっつーの!
「いいな。危機に瀕して、限界まで追い込まれてのその力だよ。なぁ、勇魔。お前は、どうして力を求める?」




