強欲と、現れるDM!!
「どうするって、お前、なにを」
「……答えて」
ベルは真っ直ぐに俺の目を見た。
顔がキスできる距離にまで近づいて、ついどきりと心臓が高鳴った。
「急にそんなこと言われても、だって、二人のどちらかを選ばなきゃいけないなんて、そんな」
「……そう」
ベルは悲しそうに顔を伏せ、俺との距離をより縮ませ俺の体にそっと寄りかかってきた。
胸のあたりにベルの頭が乗り、ふわりと舞う髪の毛が俺の体をくすぐってくる。
「お、おい」
「……考える必要なんてないよ。イエスかノー。これだけなんだから」
「そんな簡単な話じゃないだろ。もっと大事なことだろうが」
「……ならノーと言えばいい。どうしてそれをしないの?」
「それは……」
お前のことを嫌いじゃないから、いや、違う。好きだから。
お前のことを否定したくないんだ。お前のことを思う俺の気持ちを。
でも、勝手なことだがハルのことだって、俺は好きだ。
二人とも好きだ。
同じベクトルの好きだ、と、思う。
好きと言う感情がよくわからない。友愛か、情愛か、それとも全く違う何かなのか。
それでも、だからこそ、二人を比べてどちらかを選べなど、今の俺にできるはずがない。
「……受けられないならノー。私のことが好きならイエス。簡単でしょ。二つに一つ」
「ベル、俺は」
「どうして? どうしてユウユウはなにも決めてくれないの? どうして私に、私達に『期待させる』の? 嫌なら、脈が無いなら、きっぱりと断って。酷いよ。それをしてくれないことがどれだけ……ユウユウの甘さは私には激毒。私の体を突き動かす。何気ないことで直ぐに気持ちが良くなる、気分が悪くなる、気持ちが悪くなる、どうしようもなくめちゃくちゃにしたい衝動にかられるの」
明らかな異常を感じ取り背筋に寒いものが走った。
ベルの肩を掴み引き剥がそうとするが、ものすごい力が働き引き剥がすことは叶わず肩を掴んだまま硬直してしまう。
「お、おいベル。ちょっと落ち着け」
「…………ねぇ、ユウユウ」
「なんだ?」
ベル? どうした? なんだか様子が……
「……私は尽くすよ? 貴方のためならなんだってする。貴方の敵は全部私が排除する。毎朝起こしに行くし、ご飯だって毎日作る。ユウマの望む服を毎日着るし、ユウマの好きな女の子になるし、ユウマの望むことなら、どんなことだって私の幸せ。だからお願い、あの女のことを忘れて、私を選んで」
……? …………ッッ!!!???
俺の思考に電撃めいたものが走る。
これは……
『主、これはちと……』
(わかってる)
脳内に響く師匠の声に返事をして、一度深呼吸をし覚悟を決める。
「ベル……」
「……なに?」
心臓の鼓動が少しずつ変化して行く。
先程の言葉が脳内を何度も飛び回り、衝動の赴くまま俺の体から引き剥がす。
今度はさっきと打って変わりすんなりと俺から離れ、潤む瞳で俺を見上げてくる。
そんな瞳に導かれるようにスッと顔を近づけて行く俺の目は
酷く冷ややかなものだった。
「お前誰?」
俺の口から飛び出した一言に目を丸くさせ、困惑するかのように眉を寄せる。
「……なにを言ってるの? 私はベル。急にどうしたの?」
「黙れ」
俺の体から『威圧』のプレッシャーが吹き、ブリューゲルを抜き突き立てた。
この『ベルではない何か』の首へと。
「その姿で、その声で、ベルを偽るな。ニセモノ」
「……私は偽物なんかじゃない。偽物なんかいるわけない。私は正真正銘本物だよ。どうしてそんなこと言うの? ごまかさないで」
「ごまかしてなんかいない。本物のベルはどこだ?」
何が何だか俺にもわかっちゃいない。
だけど確かにわかることがある。
「……や、やめて……ユウマにまで、私は、そんな、あぁ」
「あーあー。いい、いい。そーいうのいい。ワザとらしいんだよ」
「…………や、やだぁ……」
頭を抱えガタガタと震えながら、いかにももう一杯一杯ですと言わんばかりのしつこい『演技』に堪忍袋の尾が二つに切断された。
「ベルは俺のことをユウマとは呼ばない。あいつは俺に言われたことだけをして生きたいと思うような性格はしていない。むしろ、自分の好きなもの、好きなことで俺を好きにさせるような子だ。そんでもって、どんなことがあったって、ベルはハルのことを『あんな女』などとは形容しない」
ベルの震えがピタリと止まった。
「……貴方になにがわかるの」
「わかるさ。あれだけ一緒に過ごせばこれぐらいはな」
「……たかが数週間」
「数週間? 十分だね。その間ずっとそいつのことを考えていれば
「あはははは。ごめんなさい? まさかこんな展開になるだなんて思いもしなかったものだから」
「お前は誰だ。ベルはどこにいる」
「あらお怖いこと。でもぉ、なんかイマイチねぇ」
そう言ってベルは指先でブリューゲルを掴み自分の首に押し当てる。
赤色の線が一本、彼女の首から流れ出た。
「お、おい!」
「くすくすくす。その慌てよう。さっきから私の肌に触れようとしないから私からしてあげたって言うのに。そんなにこの体に傷をつけるのは嫌かしら?」
「くっ!」
「剣っていうのは牽制の道具じゃないのよ? ま、わからないなら教えてア・ゲ・ル」
女はあろうことか黒いオーラを放つ鎖を腕から数本出してはブリューゲルに絡ませ、強制的に振りかぶりベルの首へと――――
『ま! 待て主――』
「オメガァア! 戻せぇ!」
『がってん!』
呆然と俺の腕がベルの首を飛ばそうとする途中でハッと正気に戻り急いでスマホの中へ剣を収納した。
『バカものが……』
「くすくすくすくすくす。よくできました。思い通りに動いた良い子は、いい子いい子してあげましょうね」
剣がなくなっても遠心力は無くならない。
剣を振り抜いた状態で体勢を崩し、ベルの姿をした何かに抱きかかえられた。
頭に感じる小さな手。
その手の感触に、おぞましさすら覚え全身に鳥肌が立つ。
拒んでいるのに、体が言うことを聞かない。
体が動かない、これは、いったい、なんだ、からだが、うごかない、これは
「『欲望ノ抱擁』。よしよし。なにも考えなくていいのよ。なにもしなくていい。ただ私のことだけを見ていればいい。それでいいのよ」
おれのぜんしんにくさりがまきつけられ、みうごきがとれないままおんなのことばだけがのうないにはいってくる。そう、それだけをみていれば、いいだけなら、そうすれば……
『チッ! しっかりせんかバカものが!』
「あら? 無駄よかつての竜王。貴方の剣はこの世から消えたし、その水晶一つ封印するぐらい、私にはわけないわ。むしろ壊れないのが不思議なくらいよ」
『小娘が……』
「貴方からみたら私も小娘かもね。あ、あの女を呼ぼうとしても無駄だからあしからず。ここ、私の空間にしちゃったからみんないい夢を見てる頃よ」
じゃらじゃらと、おれのからだに、くさりがまきついていく。
「ふふふふふ。最後の仕上げ、七罪権限『強よ」
「DM権限『創造』・『悪魔の部屋』」
「あら、この魔力」
あたりのけしきがしろくろからどすくろく……って、なんだ、なんだか、いように、ねむいん、だ、が……
「久しぶりの空間の気配を辿ってみれば、ぬわ〜にをしくさってくれてんのかなぁ、君は」




