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何で……! 何でだよ!!


「クエストって、何を……」

「クエストだよ? 知らない? ク・エ・ス・ト」


『クエスト』:いわゆる仕事だ。

他の国にもあるが、この国にも『ギルド』というものが幾つか存在する。

そのギルドに届けられた依頼などを『クエスト』と言う。

本来はギルドメンバーと認められていない者はクエストを受理できないが、学校によって『報酬』の代わりに『ポイント』を与えるという形で仕事が受理できるようになっている。

ここ『ラギア魔法学院』もその1つだ。


勿論知っている。問題はその中身だ。今の俺では絶対にやってはいけないクエストがあるのだ。


「知ってる。その内容は……?」

「これ。北の森の方に『ルグル』っていう『魔物』がいるんだって。それを倒してくれって」


心臓の鼓動がより早くなる。


止めたほうがいい!そう頭に声が響く。


それと同時に やってみたほうがいい!とも響く。


いや、いつかは試さなければならないと思っていたが、よりによって今か。

大丈夫だろうか?


「おいハル。お前まだ魔物と戦うのは早くないか? 魔導書とも契約していないだろう」


『魔物』:人間の絶望などの負の感情により生まれたと言われている存在。

その発生源は今だ不明。襲うという本能しか持ち合わせていないためか、ほぼあらゆる場所で恐れられている。

繁殖が可能なようで、今では群れを作っている奴らもいるとか。


「大丈夫!ユウマのあの『剣』があれば余裕だよ」


あの剣。


それが何を指すのか、俺は容易に想像できる。


あの夜、俺がアイテム『最強ギャンブラーの(ラック)瓶』を使用して回した、(ドラグ)ガチャから排出された物。



○●○



『決闘龍王ブリューゲル』


レア度:☆☆☆☆☆☆☆☆☆++★


装備品

効果:決闘を行うたびに強くなると言われている龍王『ブリューゲル』の全てが注ぎ込まれて作られた刀。

使用者は必ず契約をしておかなければならない。

使用時に『決闘龍王』の力と能力を得ることができる。

制限:契約を行っていない者が使用すると死に至る。契約するには刀に自分の能力又は魔力を注ぎ込むことで『決闘龍王』との精神をリンクさせ。決闘し勝利しなければならない。



○●○



果てしなく強力なものが出たもんだ。

何と九つ++星。あと1つ+がつけば十星だ!

出た瞬間心臓が止まるかと思った。


さすがは『最強ギャンブラーの(ラック)瓶』!良い仕事をする!!


と最初は思ったのだが、何しろ出たのが強すぎた。


とてもじゃないがこんなもの使いこなせない!(その後まだ制限時間が少し残っていたため、(サタン)メダル全消費して(サタン)ガチャを引いたのは内緒だ)


との事でしばらくは封印しようと誓ったのだが、今ハル先輩はそれを頼りにしている。

正直に言おう。


「いいか?俺は……」

「大丈夫だって。一番弱い魔物のクエストだし。あの剣使わなくてもユウマの剣使えば勝てるよ」

「うぐ。いや、そうじゃなくてな……」


喉が渇き声がかすれる。


「どうしたの? ユウマ。顔色悪いよ?」

「い、いや。大丈夫だ。大丈夫」


本当に大丈夫だろうか?


いや! 何を今更! この国に来る時に決意しただろうが!!


「わかった。行こう」


脳内で

《『荒杭勇魔』 クエスト:魔物ルグルの討伐 に参加しました》

という音声が流れ、場所のマッピングデータが流し込まれた。


あとは移動手段か、ここからはそう遠くない。

約20kmぐらいか。

これぐらいなら、学校に設置してある転移魔法陣ですぐだな。


取り敢えず、学校に向かうか。




『転移魔法陣』:転移魔法が給付された機械。その機械の指定する範囲内ならば、ほぼ無限に転移魔法が使える。



◇◆◇




「この奥か」


ラギア魔法学院から少し離れた場所に、魔物の生息する森があった。

その森の奥に、魔物『ルグル』がいるらしい。


「そ、そうだね。よ、よーし。じゃ入ろうか。ユウマ前ねー」

「おい! お前! ちょ、押すなって!!」


未だ俺の不安は消え去らない。

ある事が俺の頭を埋め尽くす。

どす黒い思いは今も俺の中に溜まり続けている。


いやいや!

今はそんなこと言ってられる状況じゃねえ!

やってやる! そう決めたんだ。



そして歪な植物で埋め尽くされたこの森の中枢部にたどり着いた時、そいつは現れた。


赤紫のクエスト対象マーカーが反応したのは、

どす黒く黄色に濁った目。

体はロープのように長くしなやかに伸びている。

全長120cm位はありそうな、巨大な蛇の魔物だった。


俺は静かに肩に担いでいたブロンズソードを引き抜く。


そしてゆっくりと蛇の魔物へと剣の切っ先を向け––––––––ようとした瞬間、体に異常が走った。


心臓がありえない早さで躍動し、体が物凄く重くなり、足が、腕が震える。


「あ、あ、う、うわ、ぁ……くっ」


目の前が少しずつ、少しずつ黒く塗りつぶされていく。


視界の端には木の陰に隠れ、こちらを心配そうに見るハルがいた。


息が出来ない。

魔物がこちらを見て、少しずつ少しずつ近寄ってくる姿により、心臓が再度強く跳ね上がり、過去のトラウマが蘇った。







フラッシュバックする、あの場所。冷たくて、苦しくて、痛くて…………。


馬鹿にされ、蔑まれ、拘束され、無理やりに俺1人魔物の前に立たされた、あの時。


『恐怖』


感情という感情の全てが、それに支配された。10歳のあの頃。

他の勇者の子供たちが数人でかからねばならない魔物だったのだから、弱い俺など、話にもならんだろう。


抗う力を持たない俺は泣き叫び、逃げ惑い、心からの救いを求めた。だが、いくら逃げても、いくら叫ぼうとも



救いはなく。




俺は、あっけなく魔物に捕食された。




そこからは地獄だった。




忘れもしない、あの暗闇。




体という体が常に溶かされていき、何者にも耐えがたい激痛が俺を襲った。



死なぬよう。体が全て溶け去り、消えてしまわぬよう、自らの能力を酷使し続けた。



『想像』によって生み出された新たな皮膚は直ぐに溶け激痛を受け。再び創られた皮膚が溶かされ激痛を受ける。何度も、何度も……自分の体が溶けていくのを目の当たりにし、その激痛に精神は狂い、ほぼ残っているのかもわからない理性が「死にたい!!」と叫んでも、本能のずっと奥深くの「死にたくない!!!!」という思いにそれは許されなかった。


あらゆる雑念が消え去ったあの時、『想像』の力は最大限に力を発揮した。

だがそれは、激痛を半永久的に受け続けるという地獄を創っただけだ。


何日と繰り返されたその生き地獄は、勇者権限の使用制限を過ぎることで終わりを迎えた。比較的多用できる能力であった事も、ただの絶望を生み出した原因の一つでしかない。


休み無しで酷使し続ければ確かにそうなるだろう。


俺は何の感情もなく、ただ虚ろに目を彷徨わせ、ゆっくりと目を閉じた……







そして、何故か俺は目を覚ました。


溶けて消えるはずだった俺が、何故?


そんな疑問すら、当時は感じなかった。

何も感じない。何も考えられない。

ただの人形がそこにはあった。


俺が消える寸前に、仕事から帰ってきた親父に救われたのだという。

魔物の体を真っ二つにし、俺の体を探り出し、自らの権限を使い俺の命を繋ぎとめたのだとか。




それから2年の間、俺は人と会うことすらできなかった。

少しずつ回復し、今ではほぼ前のように振る舞えるようになったが、あの時の『記憶』は決して消えることはなかった。


リハビリはしてきたが、魔物の前に立つとどうしてもあのトラウマが俺を蝕み、どうしようもない恐怖に支配されてしまうようになってしまったのだ。





大丈夫だと思ったのに、やっぱり……ダメなのか。


「う、ぐ……う、うおぁぁあああ!!!!」


大声を張り上げて、硬直した体を無理やりに奮い立たせた。


死に物狂いで剣を振りかざし、魔物へと立ち向かう–––––事はなく。


ユウマが選択したのは





その場からの逃亡だった。





行の間隔が広すぎても読みづらいだけと思ったので調節しました。

何か不具合がありましたら遠慮なくおっしゃってください。

修正いたします。

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