ごめんね、シンデレラ。
不定期で掌編小説を投稿しています。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
子供の頃、私が大好きだったお話。
そのストーリーに幼い頃の私はときめき、そして憧れていた。
意地悪な継母と姉に苛められたその女の子は、お城で開かれる舞踏会に憧れていて―。
ドレスがないと嘆く女の子の前に、不思議な魔女がやってきたー。
いつか私も舞踏会に出て、素敵な王子様に会えると信じていた。
子供の頃、私が大好きだったお話。
でも、今ではあまり好きでは無い。だって、自分を見ているようだから。
過保護な両親が私に設けた門限は、22時。
もう大学生だというのに、物語の女の子より2時間も早いなんて不公平だ。
お陰で彼とのデートもいつも早足。それは、聖なる夜なんて呼ばれている今日も例外ではなく……。
まるで私は、可哀想なシンデレラだ。
「もう!遅い!」
待ち合わせ時間を優に過ぎたターミナル駅の広場、思わず漏れた自分の声に驚き、辺りを見渡す。
私の周りでは、”無事“に待ち合わせを済ませたカップルが各々のデートを初めている。
「絶対許さないんだから!」
―折角のクリスマス、バイトが終わってから急いで準備してきたのに。
―今日の為に洋服だって新作を買ってきたのに。
「少しでも長く一緒にいたかったんだけどな。」
なんだか惨めな気分に押しつぶされそうになった私は、広場の隅で肩を窄めていた。
そんな私に届いたのは、メールでもなく、電話の着信音でもなく、妙にかしこまった彼の声音だった。
「姫、遅くなり申し訳ありません。」
突然の声に顔を向けると、着慣れないスーツに身を包んだ彼が立っていた。
「遅いよ!もう知らないんだからね。」
ちょっと困らせてやろうとワザと拗ねてみる私の耳に届いたのは、彼の意外な言葉だった。
「申し訳ありません。ただ、先に朗報がございます。姫の門限については、ご家族の方に延長の許可を頂いてまいりました。」
赤く腫れた頬を擦りながら、彼は苦笑いで続ける。
「とても“ご理解”があるご家族で助かりました。では、イルミネーションの点灯式に参りましょう。」
そう言って笑う彼の顔を見て、私は不意に、いつだったかのやり取りを思い出した。
『いいなぁ。点灯式。見てみたいなぁ。』
『いいじゃん!クリスマスに行こうか?』
『……でも、遠いし、門限に間に合わないよ?』
『うーん……、よし!任せておけ!』
てっきりその場限りの話だと思っていた。でも、彼はしっかりと覚えてくれていたんだ。
彼に手を引かれ走りだした私は、少しだけクリスマスの夜空を見上げた。
―ごめんね、シンデレラ。今日だけは、少し抜け駆けさせてもらうね。
さぁ、聖なる夜に鐘の音を。
それでは、素敵なクリスマスを。
連載中の『sweet-sorrow』もよろしくお願い致します。
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