夢と現実とときどきフランスパン
笹釜石の初投稿作品です。
小説を書いてみたいと思いながらもずっと書けない、いや、書かなかった日々を過ごしていました。
実際に書いてみると思ったより難しかったです。
原案はほとんど残らず、ここはもっと長くした方がいいのではないか、ここは短くしてもいいんじゃないか、読みづらいのではないか、句読点多すぎるのではないかと色々悩みましたが、とりあえず一話を頑張って終わらせました。
書いてみることで今の自分と少し向き合えた気がします。
二話以降を書いていきながら小説をもっと知って、自分も成長できれば良いと思っております。
伏線っぽいものは伏線だったり伏線じゃなかったりします。
「あ、お父さん起きた!お姉ちゃん!お父さん起きたよー」
「お父さん、起きるの遅い!遅いよ!今日本当はお父さんが朝ごはん作る番なんだからね!明日と明後日もお父さんが作ってね」
少し違和感を感じつつも、俺はまぶたを震わせながら目を朝日に慣らしていく。
他所の子供に朝からこんなに大声出されたらきっと、耳を防いで二度寝を要求するだろう。
しかし、やはり我が子というのはなんと可愛いのだろうか。お叱りの声も心地良すぎて二度寝してしまいそうだ。ああ、ダメになる~。
「もう!聞いてるの!?はやく朝ごはん食べて。私達先に家出ちゃうよ?」
「いや、すまんすまん。小学1年生の子供達だけで先に出ちゃうのは危ないからさっさとごはん食べるよ」
朝食は豆腐とわかめの薄めの味噌汁と鮭の薄めの塩焼き、もやしとほうれん草とにんじんをごま油で和えた薄めのものだった。
しかし、なぜどれも味が薄いのだろうか。見た目は普通なのにどうにも薄い。
俺はそれを少し強引に飲み込もうとして口の中で鮭の骨を発見。骨を取り除き、少し警戒しながら飲み込んだ。
「「「ごちそうさまでした」」」
食器を片付け時刻を確認する。
7時39分、いつもより少し遅いけど間に合う。子供たちを学校まで送って、今日は家の掃除でもするか。
歯を磨き終えた子供達がランドセルを背負って玄関で待っている。
「よし、行くか」
「「うん」」
玄関の扉の取っ手を押し、いつもの通学路が見える...はずだった。
そこにはいつもの道路はなく――いや、あるはずだが今はそれが見えなくなるほどに死体が転がっていた。中には少しだけ動いているものもあった。
助かるかもしれない人を見捨て、俺は扉を閉めた。
なにが起こっているかわからないが、とにかく扉一枚でもいいから外界との接触を遮断しなければ。
子供にあんなもの見せられない。
「いいか、落ち着いてまずは家の奥まで行くぞ」
「うっ、うん」
気づけば、外の明かりは日の光から不安を煽るような紅黒いい夕焼け色に染まっていた。
そしてその上にさらに赤黒い、恐らく血で染まった手のひらの跡がべったりと張りついていた。
なんなんだよ!さっきまでこんなんじゃなかっただろ!
恐怖に心を支配されそうになりながら俺は必死でリビングのカーテンを閉め、リビングの中でもできるだけカーテンから遠い位置に子供たちと一緒に避難。
まずは状況を確認しないと。ああ、そうだ携帯。スマートフォンで何が起きたか確認しよう。
ズボンの両ポケットに手を入れ、スマートフォンを探す。
無い。無い。どこだ、どこだ。どこに置いた!どこに!
ああそうだ、俺の部屋で充電中だ!
一瞬、取りに行くことを考えたとき。
飛行機の音がし、数秒後に近所で爆発音がした。
ダメだ、この状況じゃ部屋まで行くのも危険な気がする。
一体どうなってるんだ!どうすればいいんだ!
「おっ、お父さんあれ!」
娘の声で我に帰り、指差す方向を見る。
そこにはさほど広くもなく飾り気もない庭へ降りるためのガラスの窓がある。その上に、先ほど閉めたカーテンを通してうっすらと人の影がある。ガラスを叩いているようだが幸い、力が足りず割るほどではない。
「大丈夫だ。割れないよ」
しかし、飛行機のエンジン音が鳴り響き、絶望を十分に感じた直後、庭が爆発し、割れたガラスがこちら側へ飛んで来る。
「くっ!――
――「っう。はっ!はあはあはあはっ」
一瞬、どこにいるかわからなかった。
さきほどまで見ていたものは夢だったと気付く。
そして今自分のいる所は相変わらず特徴のない自室だということにも。
さらに、意識を自分の身体に向けると四肢が麻痺し、全身が震え、汗を吹き出していた。
こういう汗は小便でも漏らしたのかと思ってしまうから心臓に悪い。本当に漏らしていたら社会的に死を迎えることになる。俺には思春期真っ只中の子供が二人いるからな。軽蔑され、もしも同級生との間で話題にでも出されたら...想像するだけでも恐ろしい。
目覚めてからしっかりと認識するが、さっきのは夢でしかないな。
そもそも俺の子供は――
「おーい広人ー。朝飯できたってよ。起っきろー」
部屋の引き戸を横にスライドさせ、亮介が呼びに来た。
いつも通りの朝だ。安心した。
「ん。おう」
呼びに来ただけで、俺が部屋から出るのは確認せずに引き戸を開けたまま先にダイニングへ去ってしまった。
そんな彼は、実は俺の息子なのだ。
前崎亮介。18歳。顔立ちは中の中の上という感じで、眼鏡を掛けていて頭の良さそうな印象を持たれがちだが実際は7、8割ほどの〇太くんの様な人間だ。勉強もできず、スポーツもできない。そして努力もしない。
そんな彼の特技はラテアート 他。といった感じである。
3日間練習すれば誰でもできそうなことを彼は先にやっているだけ。プロフェッショナルではない。
あ、朝飯食べなきゃ。今日は月曜日なんだった。
開けたままだった引き戸を部屋の外から閉め、ダイニングへ向かう。
そこには、テレビを見ながら朝食を口に入れる亮介と、いつもの朝同様、楓が、髪を整え朝食を済ませてイスに座っていた。
どうやら今日の朝食はトーストだけのようだ。バターは置いてあるが。
「おはよう。私はトーストだけ焼きました。他になにか欲しければご自由にー♪」
「了解であります!隊長!」
ノリだけは良いが全く噛み合ってない軽い挨拶を済ませ、トーストを口に挟む。もう一品作る余裕はない。
家では軽いノリの彼女もまた、俺の娘だ。
前崎楓。18歳。二卵性双生児―簡単に言えば似てない双子の姉にあたる。トーストを焼くだけなのは彼女が尖端恐怖症だからだ。そのため、前髪は真一文字に切り揃えている。また、その前髪を切る時にはハサミを使うことになるが、髪を切る時は目を隠すシールの様なものを貼り、前髪だけ切る場合は目隠しをしている。
見た目は大人びていて、身長も高め。そんな彼女と買い物に行けば夫婦だと勘違いされる。
「じゃあ私はそろそろ学校行くね」
「行ってらっしゃーい」
「あ、俺達も出るぞ」
「いつもより早いね。なにかあるの?」
「保護者印が必要な書類があるんだよ」
了解。と告げ、亮介はダイニングの隅に置いてあったカバンを背負い、玄関でスニーカーに履き替える。
俺もカバンを肩に掛け、亮介に続いて外に出る。と同時に振り向き扉の鍵を閉める。
俺達が住んでいるのは1階と2階に各3部屋ずつのトイレ付き、風呂共同のアパート、「斜陽荘」だ。1階は3部屋+風呂だが、外見的には4部屋あるように見える。向かって一番右側にあるのが風呂なのだが、1部屋と同じ広さで造られているためか、もしくは共同であるためか一般家庭よりは広めにできている。
俺達が住んでいるのは向かって右側から2番目、弐号室。
そして、今から保護者印をもらいに行くのは向かって一番左側、大家が住んでいる部屋だ。扉のプレートに書かれた部屋番号は「零号室」となっている。
ちなみに他の住人は2階に一人外国人の女性がいる。
「そういえばさ、なんで広人は保護者印を自分で押さないの?」
零号室の前で亮介が訊いてきた。
「俺はお前たちの親になって親権は持てるようになった、だけど保護者にはなれない。だから紗栄さんに押してもらわなきゃならないんだ」
「親権はあるのになんで保護者になれないんだよ」
それは―
「それは、俺が保護される側、つまり未成年だからだよ」
亮介は理解できたような顔をするが、恐らく理解できていないだろう。
零号室のインターホンを押す。
「はーい。今行きまーす」
数秒後、ガチャリと音を鳴らし、扉が開いた。
そしてこれもいつも通り、パーカーにジーパンという非常にラフな部屋着姿で顔を覗かせる我が妻。
前崎紗栄さん。36歳。18歳で双子を出産。3ヶ月前に俺と婚姻した。
元は母親が経営していた居酒屋とアパートを、21歳の時に母親が他界したことがきっかけで、大学を辞め、居酒屋とアパートを引き継いだのだ。
「紗栄さん、この書類に保護者印が必要だから押してもらえるかな」
「あ、保護者印ね。了解了解~」
扉を閉め、玄関へと上がり紗栄さんと印鑑を待つ。
身内だと分かるとすぐにふにゃふにゃとしたいつもの態度になる。
玄関からは見えない位置から引き出しの中をゴソゴソと漁る音が聞こえる。
挙げ句、「ちょっと見つからないから一緒に探して~。」と玄関までやってきた。
「またですか。使ったら定位置に戻すこと忘れないでくださいよ。三人で探すものでもないし、亮介は先に学校行っててくれ」
「じゃあ、先行ってるよ」
「行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃ~い」
亮介は扉を開き、駐輪場へ向かった。
俺は靴を脱ぎ、リビングへ向かった。
リビングは玄関から見ると散らかりなく、清潔が保たれた場所だという印象を持つ。
しかし、実際にリビングまでくると横向きの棚などの玄関から見えない側面に紙の山が隠されている。
その中身は、印刷したものの実用に至らなかった入居者募集の広告やスーパーのチラシだったりする。
「最後に置いたと思う所は分かりますか?」
「そこはもう探したわ」
そこの棚に置いてあったはずなんだけどねえと言いながら人差し指で指し示す。
棚の引き出し部分の上か。
「他にはどこを探しました?」
引き出しの中を漁りながら訊く。
「...」
返事がないので振り向き、顔を見る。
紗栄さんの目が泳いでいる。
「ここしか探してないんですね?」
「そ、そうよ!何か文句ある!?」
キリッとした表情で言い放つ。
なぜツンデレ...?
「あるとすれば、定位置を決めていつもそこに置いておくことと、最後に置いた所以外も探してみる、ということぐらいですよ」
引き出しを閉めて棚の周りを見渡す。
紙の山。紙の山。紙の山。あ、あった。
棚の横に積まれた紙の山。その山の一番上の面。重力により中心が凹んだ部分に印鑑が横たわっていた。
恐らく、棚から落ちて凹んだ部分で転がったのだろう。
「ありましたよ」
振り向きながら立ち上がり、紗栄さんに印鑑を手渡す。
「え!どこにあった?」
サイズの違う紙がはみ出し、今にも倒れそうなカラフルな紙の山に顔だけを向ける。
「あははは。あれも片付けなきゃね☆」
「少しずつで良いですから、無理しないでくださいよ」
笑顔で了解了解~と答えてるけど、一月ぐらいしたら生活に支障をきたすほどになって一気に片付けようとするんだろうな。そのときは手伝おう。
印鑑を押してもらい、書類をバッグにしまう。
「じゃあ、俺も行ってきます!」
「うん、行ってらっしゃ~い」
玄関の扉を開いて時刻を確認する。
7時40分、十分間に合う。
ここから学校まではチャリで20分程の距離で、登校時間にはかなりの余裕がある。
普段から早い時間に行動していれば少し遅れても余裕はできる。途中で忘れ物に気付いても急げば間に合う。
大家部屋のすぐ横にある、簡易的ではあるが屋根付きの駐輪場へ向かう。
駐輪場には一台のシティサイクル――俗に言うママチャリ――がある。
普段はもう一台、亮介のママチャリがある。
俺はいつも通り、3年間共に坂道や細道、獣道に迷い込んだこともあった愛用のママチャリに尻を置き、ペダルに足を乗せる。
今日もいつも通りの日常が始まる。
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腕時計の長針と短針は12と8の位置を進んでいた。
昼休み。俺は購買で買ったフランスパンを袋から半分程出して、グラウンドの隅にあるコンクリートでできた花壇に腰掛け口に差し込んでいた。
フランスパンは口に差し込んで、唾液で柔らかくしながら食べるのが一番好きだ。時間は掛かるが、あんな長い物を噛みちぎって食べていくと顎が疲れる。
俺はこの時間が好きだ。無心になったり、逆にいろんなことを考えたり、想像したりできる。それだけならいつでもできる事だが、フランスパンを食べながらすると、いつもより捗るのだ。
しかし、この時間は毎日ある訳ではない。
屋外なので、雨の日はパンが濡れてしまうし、花壇には当然花が植えてある。そこに蜜蜂が飛んできたり、時には野球ボールが飛んでくる。
毎日完璧な昼休みを送ることは難しい。
今日は麗らかな夏の日射しが少し眩しい。遠くでは飛行機のエンジン音が響いている。
そういえば、今日の夢は恐ろしかった。
そもそも俺の子供は――俺と同級生だ。
俺は前崎広人。今年4月、18歳になり、紗栄さんと婚姻をした。なぜ子供がいるのかと言うと、楓と亮介は妻である紗栄さんの子供だからだ。
紗栄さんは18歳で双子を産み、双子の父親とは21歳の時に別れた。理由は紗栄さんの母親が亡くなったことで紗栄さんに負担がかかり、交際を続けることが難しくなったのだそうだ。
それからは居酒屋の従業員の方達や当時の同級生に助けられながらも精一杯働いて、アパートも管理してきたという。
ちなみに、双子の父親である前の彼氏とは婚姻しておらず、バツはない。
夢を見るたびに思うのだが、眠っている時に見る「夢」というものは凄く面白い。
今日の夢もそうだが、現実とは全くかけ離れていてもなぜかそれを現実だと錯覚してしまう。
夢を夢だと認識することもあるが、すぐに目覚めることはあまりない。
夢は多種多様で、人それぞれ違う夢を見る。しかし、不思議なことに夢の話は誰もが共感を持ち、同じような夢を見ていることもある。夢あるあるというやつだ。
親しくなりたい相手とは夢の話をすれば上手くいくんじゃないかと思う。
例えば、恐らく誰もが見たことあるであろう、「落下する夢」。人によって場所や高さ、落ちた時や落ちた後どうなったかが違うので自分の体験したシチュエーションを話しても被りはしないだろう。
とは言え、夢はすぐに忘れてしまうし、覚えているものもうっすらと覚えているだけで目が覚めた後に改ざんされている事も多い。
夢の持つ、精神を引き込む力と矛盾性は、未だに解析しきれていない人間の脳に影響されるもので、夢を支配することはまだ叶わない。
見たい夢を見ることができるようになったら人は、永遠の眠りを求め、現実からさらに離れていくだろう...。
いかん、一人でいろんなこと想像してると哲学になってしまう癖が出てしまった。
腕時計を見ると、そろそろ昼休みも終わりを迎える頃だった。教室にはチャイムが鳴る前に戻っておきたい。教師によってはチャイムと同時に授業を始めることがあるからな。
食べきれなかった分のフランスパンを袋に戻し、袋をフランスパンの部分で折って簡易的に密閉する。
花壇から腰を上げて校舎へ向かって歩き出す。
改めて暖かい日射しを浴び、伸びをする。
「ん~っ。午後もテキトウに乗り切ろう」
今日もいつも通りの日常。しかし、本質的には同じ日というのは無く、今日は今日しかない。
でも今はこの平凡な日々が心地いい。
――これは前崎広人の少し変わった家族とその友人達の夏の物語――