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1話:きゅーい、異世界店へ異動する

 それは店が開店する10分前の出来事。

 4月から新しくやってきた店長の方針により、毎日開店の10分前に

 従業員が店内の一か所に集まり、朝のミーティングを行うことになっている。

 

 正直、暇な時は別に構わないのだが、忙しい時は勘弁してもらいたかった。 

 毎日やらなくても、週一くらいで構わないのでは? と皆が思っていた。

 毎日毎日、大事なお知らせがあるわけでもないし、あいさつだけして

終わりという日もある。

 そういう日に限って、忙しい日で別に今日はしなくても良かったよね、

と従業員一同(店長除く)が心の中で溜息を吐いたりする。

 幸いにして今日は暇な平日だ。そしてこのミーティングは今までの中で

一番意味のあるものになるだろう、そう従業員の1人九位きゅういは思った。


「皆さん、おはようございます」

「「「「おはようございます」」」」


 灰馬はいば店長がいつものようにあいさつをすると、

それに倣ってあいさつをする。


「えー、今日はあまりお客様もいらっしゃらない日なので、

 各部門売場の手入れ、商品の前出しを入念に行い売場を整えましょう。

 次のセール企画を控えてるところは、早めに棚替えをしてください。

 春の新商品が入ってきているので、POP(値札)の貼り忘れ、

 売価変更忘れの無いように。特に売価変更の忘れが多いです。気を付けましょう」


 わざわざ言わなくても、チーフクラスの従業員がとっくに

指示を出して準備をしていたりするのだが、そのように店長は指示を出す。

 いくつかの注意事項を述べたあと、店長はようやく重要な案件を切り出した。

 相変わらず、大事なことを言うのが遅いなと九位は笑った。


「最後になりますが、菓子部門の九位きゅういさんが、

 本日をもって、この店から異動になります」


 あちこちからざわざわとざわめきが起こる。

 少し時期外れの異動だったからだろうか。

 九位が親しくしている菓子部門の仲間たちは、

事前に九位の異動を知らされているので、さほど驚いた様子はない。

 「ついに行っちゃうのかー」と寂しそうにはしているが。


「配属先は、異世界店です」


 異世界店。何度聞いても魅力的な響きだと九位は思った。

 これは灰馬店長がふざけているわけでも、言い間違えているわけでもない。

 ファンタジーな妄想に取りつかれているわけでもなかった。

 正真正銘、このウワサノスーパーマーケットが異世界にも店舗を抱えていて、

九位の異動先がそこになったという事実を述べているだけである。


「新たにできた店舗なので、現地の従業員は慣れてないことも多いでしょう。

 九位さんも新しい店、ましてや異世界という遠い地では慣れないこともあると思います。

 現地の人や従業員たちと補佐しあって、業務に励んでください。

 じゃあ、九位さん最後に皆さんにあいさつをしてください」


 店長に言われて、九位は一歩前に進む。


「えっと、6年間このウワサノスーパーマーケット懸命店には大変お世話になりました。

 和日配にいったり、グロスにいったり、色々部門異動が多かったですが、

その分学ことも多くとても勉強になりました。

 異世界店に行っても、ここで学んだことを忘れずに業務に励みたいと思います。

 6年間ありがとうございました」


 最後にぺこりと会釈をして、あいさつを終えた九位はまた元の位置へと戻った。

 店長が最後に何か言っているが、九位の耳には入ってこない。

 今日までにお菓子の棚替えを終わらせ、POPを作る。

 品出しもしながら、後輩に引き継ぐための書類を作成し、

あるいは口頭で伝えなければならない。

 最後の最後だが、やることはたくさんあった。

 そして、何より異世界での新しい生活が気になってしかたない。

 ともあれ、九位由紀乃きゅうい ゆきののこの店での最後の勤務時間は

慌ただしく過ぎていった。

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