04 初めましてとごめんなさい
今回は、守護精ちゃんのターンです。
漢字がナチュラルに沢山含まれていますが、これは、前世の知識とアルの知識によるもので、別に精霊補正で大人な思考になった訳ではありません。
結局、私のやじろべえはあの声の人に会いたいっていう方向で傾いたまま止まった。また怖いに傾いてしまう前に行動しなくちゃってちゃんと分かっていたけど、お父さんが帰ってこなくなってから誰にも会ってない私は、どうやら人に会うのが怖くなってしまったらしくて、体が縮こまってお外に出られなくなってしまっていた。
自分を奮い立たせながら少しずつ、ほんの少しずつ、外に出て行ったけれど、結局に出られたのは、お休みっていう声が降ってきた大分後だった。
お外に出て、感じたのはとってもまぶしいって事。夜だから、もちろんお月様の光しかなかったけど、ずっと真っ暗な所にいた私にとっては、とってもまぶしかった。
お月様の光を頼りに、自分の下に居る人を眺めてみる。私にとって、外見がどうこうっていうのはよく分からなかったけど、お父さんより若い人だというのは分かった。私よりずっと年上で、でも、お父さんより若い人は、見た事がない。
幼い頃外に出て見た事があるのは、私と同じくらい(1~2歳)の子供か、せいぜい5歳くらいの子。あとは、ちょっとは違うと思うけど、お父さんとかお母さんくらいの年の人。あ、あと、お葬式の時に見た、お爺ちゃんとお婆ちゃん。
お兄ちゃんって、呼んだら良いのかな。
まだご挨拶もしてないのに、呼び方なんて考えてそわそわしてしまう。私の、初めてのお兄ちゃん。嫌がられないと良いけど。
もう少し、お兄ちゃんを観察してみる。
髪が短くて、多分、黒っぽい色。目の端に映ってる私の髪の色と、多分一緒。それが、凄く嬉しかった。
顔つきとかは、正直よく分からない。でも、絵本で読んだ物語の騎士様に似てる気がした。
お兄ちゃんなら、守ってくれる気がする。
そう思うと、安心したのか力が抜けて、そのまま眠ってしまった。
と、言うのが出てきてすぐのお話。それなのに、今、何故か、目が覚めたらあのお部屋じゃない。
ぼんやりと目が覚めて、温かくてほっとして、ぎゅって、多分お兄ちゃんに抱きついたのだけど、それからがおかしかった。
頭がはっきりしてきて、初めまして、おはようございますって言わなくちゃって思ったから、目を開けて顔を上げた。なのに、なのになのに、目の前には人がたくさん。
知らないお顔がいっぱい。全部じゃないと思うけど、たくさんの目が私を見ていた。ばっちりと、それはばっちりと目があった。たくさんの目と。
「ひっ……!!?」
パニックだった。びっくりして、訳が分からなくって、初めましてもお早うございますも口から出てきたりはしなかった。ちっちゃい悲鳴だけ上げて、怖くなってお兄ちゃんの肩に顔を埋める。
「……怖がってるだろう。知らない人に見られたら私でも怯える。少し離れてやってくれないか」
私の悲鳴が聞こえてたのか、お兄ちゃんが助け舟を出してくれる。それから、大丈夫だって言って優しく頭を撫でてくれた。暗い世界で聞いてた声とおんなじ、低くて、優しい声。
その優しい声に勇気付けられて強張った体の力が少しずつ抜ける。周りが怖くてまだ顔をあげられないけど、ありがとうございますって、言えた。すごく、小さい声だったけど、お兄ちゃんには聞こえていたみたいで、応えるようにもう1度頭をくしゃって撫でてくれる。
「出てきたばかりなのに、人の大勢居る所に来て悪かった。部屋へ戻ろうか?」
私の事を気遣って、そんな事まで言ってくれた。確かにちょっと怖い。こんなにたくさんの人が居る所へ来た事がないから。でも、お兄ちゃんは、お部屋に戻って、大丈夫なんだろうか。必要があって此処に居るんじゃないのかな?
「おいアル、今日授業サボるつもりー?俺も別に良い子ちゃんな訳じゃねぇから文句言えねーけど、せめて事情説明くらいしていっても良いんじゃねーの?」
お兄ちゃんの隣からそんな声が聞こえてきた。誰だろ、お兄ちゃんのお友達っていうのなのかな。それより、この後で授業、があるらしい。受けた事ないけど、知ってる。子供の時に受けなきゃいけないものだって本に書いてあった。子供のぎむっていうのなんだって。
そんな風に考えると、どんどん話が進んでいく。
「別に授業を欠席するつもりはないが、一旦彼女を落ち着かせなければならないだろう。事情説明は、何度もするのが面倒だから教室へ行って先生が来てから行う」
「んーー。あー、まあ、アルだもんな。仕方ねーから食器、俺が片付けといてやんよー。早くいってらー、授業開始までにちゃんと帰って来いよー」
お兄ちゃんのお友達? がそう言うと、お兄ちゃんは私を抱えたまま立ち上がって移動を始める。授業が始まる前に、一回部屋に戻るらしい。途中、周りで色んな声がしたけど、私はぎゅっとしがみ付いてお部屋に着くのを待った。
それから少しして、ぱたんって音がしてお部屋に着いたのが分かる。お兄ちゃんが少し話しをしよう、と言ってベッドに私を下ろした。自分はベッドの下にしゃがんで私を見上げるような体勢になる。
あ、ご挨拶。ご挨拶、しないと。
「ぉ、お兄ちゃん……は、じめまして。声、かけてくれたのに、ずっとお外に出なくて、ほんと、ごめ、ごめんなさいっ」
最初はお兄ちゃんを見て声を出したけど、段々元気がなくなって、目が下に下に泳ぐ。それに合わせて声も小さくなっていってしまった。
どれだけ経ったかは分からなかったけど、出ておいでって言われるようになってから、大分経ってしまってる事は分かる。だから謝らなくちゃって思って勇気を振り絞ったけど、上手くいかなかった。
お兄ちゃんの顔を見るのが少し怖くて、下を向いたまま体がぷるぷるする。
「ずっと、楽しみに待っていた。どんな子が生まれて来るのか、楽しみだった。こんなに可愛い娘で私は嬉しい。私は、怒っていないよ」
そう言って、お兄ちゃんは私の頭を優しく撫でてくれた。暫く撫でられている内に気持ちが落ち着いてきて、ぷるぷるしてた体も、同じように落ち着いてくる。
落ち着くを通り越してくんにゃりし始めた頃にお兄ちゃんは、手を止めてしまったけど。
「自己紹介をしよう。私はアルディン。親しい者は、アルと呼ぶ」
「あ、アルお兄ちゃん、だね! 分かった。じゃ、じゃぁ私の番。私の名前は、名前は、えっと、あれ?」
そうして、自己紹介をする事になったのだけど、私は、お兄ちゃんに答えるための名前を持ってなかった。お母さんとお父さんにもらった名前があるはずなのに、記憶が黒く塗りつぶされて読めない。
あれ、私の名前って、なんだっけ。
「名前? まさか、名前を持っているのか?」
そんな風にアルお兄ちゃんに聞かれたけど、名前が思い出せない。あれ? とうんうん唸ってると、アルお兄ちゃんが少し笑った。
「不思議な娘だな。守護精が名前を持っているなんて初めて聞いた。だが、その名前はなくしてしまったらしい。もし嫌でなければ、私に名前をつけさせては貰えないか?」
しゅごせいがどうとかっていうのは正直分からなかったけど、名前がないのはきっと、不便。全然思い出せないし、 別にその名前にこだわってるわけじゃないから、頷いた。
自分だけの名前があって、それを誰かに呼んでもらえるなんて、なんだか素敵。
「実は、ずっと考えていた名前があるんだ。ディア、というのはどうだろう」
その瞬間から、私の名前はディアになった。