40 講義が始まりました
投稿が大変遅くなりました。申し訳ございません。
学長先生とお兄ちゃんがあんまり真剣に話し込んでいるから、タイミングが掴めずにもだもだといると、私の代わりに声を上げてくれる人が現れた。両手に乗るくらいの、小さな、女の人。
「私で宜しければ、分かる範囲でお答え致します」
葉っぱの上で胡座をかいて宙に浮いている少し色黒の女の人が、もう一度言葉を発する。学長先生とお兄ちゃんがぽかんとした顔で彼女を見ているに気付いて、私も慌てて声を上げた。
「あ、あのね、この人は、伯爵と同じ、です」
私も会うのは初めてだけど、実は、この話し合いの最中に声を掛けられていた。あんまり二人が真剣に話し合っているものだから、私以外にその声は聞こえなかったらしい。彼女は、小さな魔石を1つにまとめた、新しい、私のお友達。
「自己紹介が遅れました。私はサラスヴァティー申しますが、個としての名は未だ持っておりません。言葉を司る者として、ディア様の魔力より生まれました」
そう、私の願いは、言葉を交わせる事。魔力を注ぎ込みながらお願いしたのは、それだった。人の形をしてるけど、やっぱり小さい。伯爵よりも魔石の魔力が多いからなのか、彼女自身の大きさも伯爵より大きい。見た目の基準は何なのかなって少し思ったけど、彼女はもしかしてそれも知っているんだろうか。
「昨夜一つになった小さな魔石が貴女か」
お兄ちゃんは気付いてくれたらしい。さっきから貴女とか彼女とか、お名前が無いと呼べないな。どんな名前が良いかな。サラスヴァテぃーか、サラさん? 安易過ぎるかな。
「仰る通り、あの小さな魔石の寄せ集めが私になりました。ディア様、私の名に覚えが有りませんか。サラスヴァティーではなく、弁財天では如何です?」
弁財天さん? ん?
「弁天様?!」
そう言われてみれば、バロンとかサラスヴァティーとか、聞いた事、あるかも知れない。にっこりと頷く弁天様に吃驚して声が裏返ってしまった。
「厳密には貴女にとっての弁財天であり、本物だとは言えないのですけれどね」
少し意味が分からなかったけど、私にとっての弁天様らしい。
「ディア、弁天様とは、何だ?」
思わぬ事に驚きすぎて、お兄ちゃんと学長先生をすっかり置いてけぼりにしてしまった。慌てて説明しようと思ったのだけど、何をどう説明すれば良いのやら、迷ってしまった私の口から出てきたのは、あーやらうーやらという意味を持たない音の羅列だった。
「ディア様の代わりに私が。
私がディア様の魔力と願いにより生まれた、と言うのは先程言った通りですが、私の存在もまた、ディア様の知識や記憶によって形成されているのです。
私の姿や存在の在り方は、彼女が昔得た神や精霊等と言う類の知識から構成されています。構成される存在は、彼女の込めた願いをキーワードとして選び出されたものです。例えば私は、ディア様の知識にある、弁財天又はサラスヴァティーと呼ばれる、音楽や言葉を司る神を元として造られました。
彼女の世界に存在していた弁財天そのものとは違う存在ですが、ディア様の知識にある弁財天とは限りなく近い能力を所持しています。
これは、ディア様の魔法です。私の存在そのものが、ディア様の魔法なのです」
これには私もビックリした。正直に言って、私よりも私のことに詳しい。弁天様は、私が造った存在らしい。伯爵の時に少しも思い至らなかったのは、どうしてなんだろう。私の知識から生まれたっていうことなのに、私は覚えていなかった。
「弁天様、私は伯爵の元になった神様のことを覚えてなかったけど、私が覚えていないのはどうしてですか?」
「それは、ディア様の頭の中にある引き出しから勝手に知識を取り出すからです。ディア様の覚えていない事でも、ディア様の頭の中には確かにその知識が眠っています。条件に合うものの検索は、貴女が覚えているか否かを問わず、頭の中に情報があるか否かで決まるのですよ」
そういうことなら、私が覚えていないような昔に読んだお話なんかからも、生まれたりするっていうことがあるのかな。あんまり、深く考えてもあんまり分かることはないかも知れない。
「サラスヴァティーと言いましたね。先程、貴女の元の情報は神であると言いました。では、今ここに居る貴女は、神なのですか?」
学長先生が弁天様に質問をした。情報源は神様だから、弁天様は神様かも知れないっていうのは、私も思った。でも、神様なんて、一人の精霊の魔法で造れちゃうものなのかな。
「答えはいいえ、です。私の元となった情報は神という存在でしたが、今私の存在は、精霊と呼ぶべきもものです。厳密に言うと、私や伯爵の存在は、守護精と違いのないものです」
驚いた。まさか神様じゃあないとは思ったけれど、精霊に似た何かであって、本物の精霊だとは思わなかった。折り紙で作った鶴さんみたいな、本物じゃない何かだと思ってた。弁天様や伯爵は、私と、同じなのか。
相談会は、一先ず終わった。皆少しは考えてたけどまさか、と思っていた事実を弁天様に突きつけられて、少なからず動揺していたらしい。
私の魔法のことと伯爵や弁天様っていう存在のこと、一気に詰め込まれた頭はいつの間にかパンク寸前になっていたみたいで、学長先生の一声で、今日は解散することになった。多分、3人の中で一番知識のある学長先生が、一番混乱してたんだと思う。気持ちの整理だとか、これからのことだとか、色々考えるのには時間が必要なんだ。
解散前に確認したことは1つだけ。まだ、私の魔法については公開しないこと。少しずつ私のことが分かってきて、いよいよ人に言えない状態になってしまった。分からないから明かせないという今までの状況から、とんでもない魔法だから周囲に見つかるわけにはいかないという状況にシフトチェンジ。もし見つかってしまったら、私とお兄ちゃんはどうなっちゃうんだろうか。
できれば、優しいお友達や先生やお兄ちゃんに囲まれている学園生活を、もっともっと過ごしていたいと思うのに。もやもやとした不安が、心の隅っこから広がっていくような気がした。




