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彼と、彼のお寝坊さん  作者: ともむら
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39   伯爵が喋れたなら良かったのに

 遅くなり、大変申し訳ございません。


 アルside

 昨夜は、結局ディアが一人で悩み抜き、解決してしまった。魔石が自分の願いにより消えてしまった事は、まだ心に突き刺さったまま抜けはしないようだが、彼女が自分を責める限りは仕方の無い事だと思う。私が和らげてやれる方法があれば良いのだろうか、今の所、良い案は浮かんでいない。


 小さな魔石をまとめて一つの魔石とする事が出来ると知った後、ディアは伯爵を作った時にも増して時間を掛けて魔石を一つにまとめあげていた。私には見えていなかったが、その後気絶するように眠ってしまった様子から考えて、時間に比例して、注ぎ込んだ魔力も多いのではないかと思う。

 彼女が何を願いながら魔石を作ったのかは、未だ聞いていない。今朝起きた際に聞こうと思っていたが、いつもより遅くまで起きていた為か、それとも昨夜魔力を消耗し過ぎたのか、会話があまり成立しない程彼女は眠気と戦っていた。必死に瞼を持ち上げているが、頭はゆらゆらと揺れ、足元が覚束無い。

 朝食はうとうととしながらも何故かしっかり取っていたが、同席していたポーレット達は、かくんかくんと揺れる頭を見て昨夜よりも心配している。本を読み過ぎて寝不足なだけだと説明すると、皆ほっとしたような、寝不足という言葉に引っかかるような、という顔をして息を吐いたが、最初から最後まで、ディアはその様子をまともに見る事は出来なかっただろうと思う。それ程ずっと眠気と戦っていた。


 授業が始まると、先生方も、精霊が寝不足? と怪訝そうな顔をしたが、起きようというディアの必死な姿に苦笑いして、一言二言注意をしただけで、教室から追い出されるような事態は回避された。ディアの事を孫のように可愛がるあの先生に至っては、首を痛めないだろうかと心配してくれた程だ。そしてそのついでか、先生は学長から言付かったと伝言を聞かせてくれた。放課後、ディアと二人で学長室へ来るように、と。


 昼食の時間になり、漸く頭の位置が安定したディアに学長の呼び出しの事を伝えると、きょとんとした視線で無言の疑問を投げかけられた。いつかの魔法授業の続きを、急に今日の放課後からするのか、というような疑問なのだろうが、残念ながら違う。時間を割いて貰えるよう頼んだのは私の方なのである。時間が出来れば授業をしてくれると言った約束や、ディアの魔石の事についての進展があった為に呼び出された、という事ではないのだ。詳しい事は自室では無い為説明が出来なかったが、私がお願いしたのだと伝えれば、ディアはよく分からないながらも納得した。

 学長と会っている事は、ディアが生まれるまでの時間が長かったせいなのか、誰も疑問に思う事が無いようで、共に食事をとったクララやカーシー達も特に質問しては来ない。寧ろ、お前も大変だな、というような視線を送ってくるくらいである。彼等は、学長に呼び出された事よりも、ディアの眠気との戦いが終了した事の方が重要な案件だったらしく、夜更かしするんじゃない、というような事をディアに言っては兄貴風姉貴風を吹かせていた。心配を掛けていた事に申し訳なさそうな顔をして周囲に謝るディアを見ると、微笑ましい気持ちになる。この輪の中に完全に馴染んでいるディアを見ると、彼女の前世について聞いた身としては、目頭が熱くなるような思いである。彼女の幸せがこのままずっと続けば良い、と思った。


 放課後、カーシー達に別れを告げてディアと共に学長室へ向かう。相変わらず軽いディアに、あの食事はどこへ行っているのだろうかと下らない事を考えている内、学長室の前に到着した。


「「失礼します」」


 さあ、ここからが今日の本命である。


「いらっしゃい。急ぎで伝えたい事があるから時間を割いて欲しいとの事ですが、ディアちゃんに何かあったのですか?」


 忙しく学長業をこなしているであろう学長は、疲れを少しも見せないまま一言目から本題へと切り込んでくれた。余り無いであろう時間を無駄に使う事はない。それに乗り、早速説明を始める。


「以前、学長はディアの魔石をユグドラシルの実、つまり精霊石のようなものに似ていると仰いましたね。実は後日、ディアの魔石から、精霊のような存在が生まれたのです」


 学長が息を呑むのが分かった。似ているとは言ったが、まさか偉大な精霊と本当に同じような事が出来るとは考えて居なかったのだろう。まさか、という声とやはり、という声が聞こえるような表情を浮かべている。

 ディアに伯爵を呼ぶように頼むと、良いの? とこちらを見上げ、頷いてみせた私を見てきりりとした顔で頷き返したディアは、首元から香り袋を出した。ぎゅっと香り袋を両手で握ると、ディアが一言も言葉を発していないのにミイ、という返事のような声が学長室に響いた。握っていた手をディアが優しく開くと、袋がもぞもぞと動いた後、ひょこりと伯爵が顔を出した。


「彼が、ディアの魔石から現れた精霊らしきものです。私もディアも全く知らない姿なのですが、学長はこのような種族の精霊をご存知でしょうか」


 学長の目は伯爵に釘付けである。小さい伯爵の一挙手一投足を見逃さぬように、瞬きさえも惜しんで見つめているのが傍から見ても分かった。


「彼が言うには、通称バロンと呼ばれているとの事なのですが、彼曰く条件が合えば彼自身が魔法を行使する事も可能である、と言うのです」


 バロンと呼ばれている、という所で伯爵がそうだというようにミイ、と鳴く。そこで漸く金縛りから解かれたように瞬きを再開した学長が、気持ちを落ち着けるように二度三度と深く息を吸った。


「正直、私はそのような精霊を知りません。少し特殊とは言え、愛し子の元で生まれてまだ一年も経たない精霊がユグドラシル様のように精霊らしきものを生み出す等という事も、今まで聞いた事がありません。私の理解の範疇を遥かに超えています。彼が魔法を行使出来ると言うのは、どうやって?」


 ミイという声しか発する事の無い様子の伯爵とどう意思疎通を図ったのかが分からなかったのだろう、学長はまず手近な疑問から解決していこうと問いを投げかけて来た。文字を理解する伯爵に文字表を与えて筆談のような事をした、と答えると、思考能力があるのですか、とまた考え込む。

 彼女が言うに、学長の力では魔石を作る事は出来たが、結界魔法の行使に必要な魔力を差し引いた残りの魔力では、結晶を作り上げる程の魔力が用意出来なかったらしいのだ。その事から、ディアが巨大な魔力を保有しているであろう事は分かっており、それが原因で魔石を作り上げる事が出来たのだろうという仮説を立てていたらしいが、その魔石から精霊らしきものが生まれるというのはまた別次元の話だったようだ。

 まさか世界創世とほぼ同時期に存在していたユグドラシルと同じような事が出来るとは思わなかったのだと説明してくれた。

 ユグドラシル程の精霊と同程度生き続けている大精霊に聞いてみれば良いのだろうが、彼等は言わば国王のようなもので、大変忙しい身なのだとか。お会いするのも憚られる、という訳ではないが、日々世界の為に忙殺され、余り自由の効かない身らしい。一応色々手を回したものの、直ぐにお会いする事は難しいという事だった。

 せめて伯爵が人の言葉を喋る事が出来ればもっと分かる事があるだろうにと私と学長が黙った所で、ディアがあっと声を上げるのが聞こえて隣を見る。


「言葉が交わせる者をお探しですか?」


 目の前に、握りこぶし程の大きさの女性が浮いていた。

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