38 ご飯の味が、あまり分からない
内容とは関係有りませんが、話数を振ってみました。今更ですが、読み易くなってると嬉しいです。
ディアside
今日は、お兄ちゃんに声を掛けられて意識が覚醒しはじめた。起動して動きが活発になって、私の頭の中が昨日の最後の記憶を引き出すと、ずんと、心に重たいものが落ちてきたような錯覚を覚える。私が精霊だからなのか、そういう体質じゃなかったのか、眠ってしまう直前まで泣いていたはずの私の頭は、全然重たくも痛くもなかった。精霊って、泣けるんだっていうのを体感しただけで、その後の辛さは全くない。自虐趣味はないけど、消えてしまった魔石のことを考えると、もう少し苦しい思いをしても良かったのに、と思ってしまう。
ずっと横になっている訳にもいかないと思って目を開けると、いつもなら夜魔石に戻っているはずの伯爵が、目の前でミイと挨拶をして香り袋の中へと潜っていった。
「ディア、ディア? 髪が結えたぞ。朝食へ行こう」
次に意識がはっきりしたのは、それから結構後のことだったらしくて、いつの間にか、お部屋を出る時間になっていた。夜のお話の続きは、出来なかった。
いつも楽しみで仕方ない朝食も、今日ばかりはどんよりとした気持ちになってしまう。カー兄もポーお姉ちゃんも、クララさんも、ブライアンさんもいるから、私が暗い顔しちゃいけないってなんとか表情を作るけど、上手く行ってる自信は、正直ない。ただ、お兄ちゃんと同じ種類の視線を感じないから、きっと、他の人にはバレてない。
その日の朝ご飯と昼ご飯と、それから夜ご飯も、味があんまり分からなかった。あと、授業の内容も、全然頭に入ってない。
「ディア、今日は頑張ったな」
お部屋に戻って、お兄ちゃんんが私をぎゅって抱きしめてくれた。昨日の気持ちを今まで引き摺って過ごしてたことも、皆に気づかれないように気をつけてたのも、気がそぞろだったのも、全部分かった上で、お兄ちゃんはずっと、見守ってくれてた。無理するなって私が言われたくないのも分かってて、何にも言わずに手を握っててくれた。
そのお兄ちゃんが、今、ぎゅって抱きしめてくれてる。それを心で認識した瞬間、昨日、枯れたんじゃないかと思うくらい泣いたのに、涙がぼろっと溢れ出てくるのを感じた。隙間がないくらいぎゅうぎゅうにお兄ちゃんを抱き返す。大きな手が、背中をリズムよくとん、とん、と優しく叩く。しばらくの間言葉はなかったけど、お兄ちゃんの温もりに安心した。
「ディアは、自分のせいで魔石が消えてしまったと思ったんだな」
そこから、お兄ちゃんが私の思ってたことを代わりに吐き出す。とん、とん、と叩かれながら、それを聞いてると、ミイ、という声が聞こえて、伯爵が私の服の首元から顔を出した。お兄ちゃんも伯爵に気づいたけど、そのまま、お話を続けた。
「ディア。私は思うのだが、魔石は、ディアの願いを叶えたかっただけなんじゃないのかな。あれは、ディアの魔力から生まれたのだから、生きた魔法だって思ってみたらどうだろうか」
生きた、魔法?
「魔石は、魔力の塊だ。魔法行使の為に消費される事の無かった魔力だ。ディアの魔力は、ディアの役に立ちたかったんじゃないか? それが、魔石にとっての存在意義だったんじゃないだろうか」
そんざい、いぎ。そうだとしても、私は、私は。
「ディア、一つ、思った事があるのだ。伯爵と一緒に聞いてくれるか?」
ぎゅうぎゅうとくっついていたお兄ちゃんと私の間に、隙間が出来る。影が刺したのに気付いて顔を少し上げると、少し離れたお兄ちゃんが、私の目を真っ直ぐ見据えていた。
「伯爵も魔石だ。伯爵が、魔石から姿を現すのは、守護精達と同じなら魔力を消耗している筈なのだ。頻繁に猫の形を取っているという事は、その消耗が回復しているという事になる。伯爵、合っているか?」
ミイ、と伯爵が直ぐに返事をした。そうだ、と頷いている。
「伯爵の魔石は、それ一つで伯爵の存在に必要なだけの魔力を持っているという事じゃないだろうか」
そこで、伯爵がもう一度ミイと返事をして頷く。
「存在を固定するだけの魔力が魔石に込もっていれば、あの小さな魔石のように存在を掛けて魔法を行使する必要はない、という事ではないだろうか」
ミイ、と、またもや伯爵は頷いた。もう一度、ミイと鳴いて私とお兄ちゃんの視線を集める。
いってい の まりょく と ディア の ねがい から うまれる
今までにない長い言葉を示していく伯爵を、2人で食い入るように見つめた。一定のまりょくと私の願いから、伯爵みたいな魔石が生まれると伝えているらしい。
「願いとは、何だ?」
お兄ちゃんが、私の気持ちを代弁するみたいに口を開いた。伯爵は、少し悩んでから動き始める。
ませき つくるとき の いちばん つよい おもい
魔石を作る時の一番強い思いって、何だろう。伯爵は、それが魔力とその願いがあったから、今こんな形で私達と対話出来てるって事、だよね。私が伯爵の魔石を作る時に強く思ってたこと……。
「お兄ちゃんを護る力が欲しいって、思ってた。魔法の使い方が分からなかったし、私にも、お兄ちゃんを護る力があればいいのにって、思った」
思い出した。あの時は、お兄ちゃんに初めて出来た魔石をもう一度作ろうって張り切ってて、その時、確かに思ってた。お兄ちゃんを護る為の力が私にあればいいのにって。それが、伯爵になったっていう、こと?
「ディア、あの時そのような事を考えていたのか……」
お兄ちゃんが何か呟いたのが分かったけど、それを聞くだけの余裕が、今の私には無かった。
「じゃあ、たくさんの魔力と願いがあれば、あの小さな魔石みたいに、私のせいで消えちゃったり、しないのね?」
ミイ、と伯爵が返事をくれる。これからは、原因が分かったから同じことを繰り返さないでいられる。問題は、伯爵以外の、他の小さな魔石。
「ねえ、伯爵。この小さな魔石は、もうどうしようもないの……?」
もしまた昨日みたいなことが起きたら、悲しい。出来れば、この魔石も、消えちゃわないで欲しい。
でぃあ の まりょく で 1つ に できる
そう文字を示されて、ふっと気持ちが軽くなった気がした。言われてみればそれもそうかも知れないと思えたから。元は同じだから、私の魔力で1つに出来るんだ。
ふっと体の力が抜けた私に、お兄ちゃんと伯爵がほっと息を吐いたのが分かった。今の私は、きっと憑き物が落ちたみたいな顔をしてるんだろう。
心配かけてごめんなさいってお兄ちゃんと伯爵に言った後、直ぐに小さな魔石を全部まとめて1つの魔石にした。ついでにありったけ魔力を注ぎ込んだせいか、その日私は、気絶するように眠ってしまった。
おやすみなさい、皆。




