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彼と、彼のお寝坊さん  作者: ともむら
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37   痛いの痛いのについて検証します

 滑り込みもしないアウトですね……orz 今回ほんの少し重たいかも知れません。苦手な方はちょっぴりご注意を。


 アルside

 弁当を広げてからのディアは、それはもう幸せそうだった。にこにこと弁当を眺めてはクララやポーレット達と相談しながら少しずつ食べていく。他の守護精達も、食べる必要は無いが、皆と楽しみを共有するという意味で、彼等も食事を楽しんでいた。面白い事に、彼等にも美味しいと感じる物に差があるらしい事が分かった。クララ達も、あまり食事を共にする事はないらしく、皆個性があるように好みもあるのだという事が分かって、またそれに話の花が咲いていたのは言うまでもない。食べ物の話しかしていないが、それは賑やかな食事だった。夢中になり過ぎて、気になったらしいスプライトが何人かこちらを伺っていたというのは、私以外に気付いていないかも知れない。

 食後も、腹がこなれるまで少し話を続けてから各々部屋へ戻った。ここから、ディアと話をしなくてはならない事が沢山ある。


「ディア、朝のカーシーの事から話そうか」


 隣り合わせてベッドの端に座ったディアにそう切り出すと、ディアも分かっていたのだろう、一つ頷いてから、何か知っているかも知れない伯爵を呼び出すべく、首襟の中に手を差し込んで香り袋を取り出した。


「あれ?」


 ぎゅっと握った香り袋に、ディアが少し戸惑ったような声を上げる。


「どうした、ディア」


 問いかけた私を見上げた後、ディアは伯爵を呼ぶ前に香り袋の中身を手に全て出した。掌の上には、伯爵の魔石と、小さな魔石がいくつか。どうした、と再び問う前に、私も違和感を覚える。


「一番小さな魔石は、どこへ行ったのだ……?」


 ディアの疑問も私の発したものと同じだったらしい。1つ足りないというディアは、念の為香り袋を上から触って中に残っていないか確認を行うが、やはり入ってはいないようだった。


「伯爵なら、同じ場所に居たのだから何か分かりはしないだろうか」


 そう呟いた私の声に反応してか、伯爵は魔石から猫の形を取った。ミイ、と一鳴きして文字表を出せと私に催促すると、直ぐに懐から文字表を出した私に満足気にミイともうもう一度鳴いて前足で文字を示していく。


 ませきは いやすため に つかわれた


 彼が示した文字は以上である。魔石は、癒す為に使った。つまり、カーシーのたんこぶを治す為に、魔石が消耗された、というのである。


「伯爵、魔石は、誰が使ったの?」


 使われた、というのだから、誰か使った者が居た事になる。魔法行使が出来る可能性のある者としては、ディアしかここには居ないのだが、彼女に魔法を行使したという自覚が全く無いのだから、この疑問は当然なのかも知れない。伯爵は、ディアの質問に対して、前足を再び動かし始めた。


 ませきじしん が つかった


 魔石じしんが使った。じしんとは、もしかすると自身、という事だろうか。魔石自身が使った、というのはどういう事だ。


「魔石が、魔法を行使したっていう、ことなの?」


 ディアのその問いに、伯爵は少し迷うように首を傾げた後、頷いた。確かに、頷いたのである。私の想像の範疇を遥かに超えている。ディアの魔力から魔石が生まれているだけでも既に私の常識外の事だが、これは、常識外という同じ括りにして良いものなのだろうか。


「おおきさ ちがって も 伯爵、と おなじ?」


 何を言っているのかと思ったが、どうやら、伯爵の示した文字を読んでいたらしい。大きさが違っても伯爵と同じ、というのは、伯爵のように形を取る事ができなくても精霊のようなものである、という解釈で良いのだろうか。


「伯爵と同じ、精霊? だから、魔石自身が魔法を使ったっていう理解で合ってる?」


 ミイ、と伯爵が頷いた。誰がカーシーの怪我を癒したのか、というのは一先ず解決したという事にしても良いが、何故魔法を行使したのか、それに関してはどう考えれば良いのだろうか。精霊のように形を取る事の出来ない魔石が、何故、自分の存在を賭してまで彼の軽傷と言って良い怪我を癒したのだろうか。


「もしかして、私が、痛いの痛いの飛んでけってやったから、魔石が、魔法を使ったの……?」


 考え込んでいたディアが、絶望した、というような声色でつぶやくのが聞こえた。何故そんなに、と口に出す手前で気付く。小さく、形を取れない魔石も、伯爵と同じような存在なのだと伯爵が言ったのだ。実際の所は分からないが、傍目から見れば、伯爵は感情のある、ただの精霊や動物と、違いがあまり無いのだ。その伯爵と、消えてしまった魔石が同じだと言われたディアは、魔石の行動の原因が自分にあるかも知れないという事実に気付いてしまったのである。気遣うように伯爵がディアの指先に擦り寄ったが、それがまた、彼女に考えが間違っていない事を突きつけた。徐々に感情が膨れ上がってしまった彼女は、とうとうぽろぽろと泣き始めてしまった。

 いくら擦り寄っても声も上げず涙を流す彼女を見て困り果ててしまった伯爵が、私を見る。ミイ、という言葉ならぬ鳴き声だったが、助けてくれ、と聞こえた気がした。


「ディア……」


 掛ける言葉が見つからなかった。彼女にとって、伯爵は、間違いなく生き物なのだ。それと同じだと言われた魔石も、彼女にとっては、等しく生き物なのである。本当の所がどうなのか、伯爵が同じと言ったのはそういう意味での事なのか、というのはこの際関係ないのだ。魔石が自分の願いを叶える為に死んでしまったのだと思った彼女が今、抱いている感情はどれ程のものだろうか。その感情に耐えかねた彼女の体が悲鳴を上げて涙を流している。まだ幼い彼女は、声を上げて泣く事をしないのである。声を上げた所で、彼女を抱きしめてくれる人は長い間誰も居なかったのだ。

 一人で抱え、必死に飲み込もうとしている彼女を見て、耐えられなくなったのは私の方だった。伯爵を掬い上げ、自分の肩に乗せると、ディアを抱え上げて向かい合わせるように抱き竦める。急に包まれた温もりにびくりと震えた後、ディアは、それでも声を上げないまま泣いた。だらんと下がっていた手が、少しして私の服をぎゅっと握るのが分かったが、彼女が泣き止むまで、私も、ディアも、伯爵も、誰一人言葉を発しはしなかった。


 その後泣き疲れてしまったディアは、泣き止んだのが先なのか、眠ってしまったのが先なのか、分からない程静かに、いつのまにか眠ってしまっている。私の服をぎゅっと握ったままだった為、どうにかしてディアの顔を濡らしたタオルで拭ってやった後、掛け布団を引き寄せて横になる。珍しく、ディアの頭の向こうに伯爵が魔石に戻らないまま、ディアに寄り添うようにして伏せるのを確認した後、抱き締めている温もりに誘われるようにして私も直ぐ眠った。

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