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彼と、彼のお寝坊さん  作者: ともむら
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02   お寝坊さんは往生際が悪い

暴力描写はありませんが、メンタル上で苦しい描写があります。ご注意下さい。


今回は守護精ちゃんに視点が戻ります。

本当の意味でのロリなので、平がな多めです。

 わたしは、長い間、お腹がすいてた。


 お母さんがわたしを産んだあと、りにゅう食を食べられるようになって少しして、病院に連れていかれた。お母さんがお星さまになるまでは、病気でお家のことができなくなったお母さんのかわりに、お父さんがご飯をくれていた。


 最初はお母さんの分もがんばってくれてたんだと思う。お外には出ないでご飯作って、お片づけして、わたしといっしょにお風呂に入って、寝るまえには絵本を読んでくれて。お母さんのお仕事だけして、して、ずっとして。がんばってる内に、お父さんは多分つかれちゃったんだと思う。


 お母さんのお仕事になれてきて、お父さんのお仕事もさいかいしたときから、お父さんは少しずつわたしからはなれるようになった。お父さんは、いい子にしてるんだよ、お外にでてはいけないよ、そう言って頭をなでてお仕事にいく。わたしのおひるご飯とおやつと、それからたくさんの本をおいていく。

わたしは、目覚まし時計が鳴ったらおひるご飯を食べる。もう1回なったらおやつを食べる。それいがいの時間は本を読んで、お父さんの帰りを待つ。そんな日が何回もきた。


 でも、ある日、お父さんがあわててお家をでていった。ごめんねって言いながら、おやつだけきっちんからだして、でていった。わたしはその日お腹がすいたけど、2回目の時計がなったときにおやつだけ食べた。それいがいは、やっぱり本を読んでお父さんを待った。お父さんはちゃんとその日帰ってきて、やっぱりごめんねって言いながらわたしによるご飯をくれたけど、その日から、ちょっとずつ、かわっていった気がする。

 いつもじゃないけど、おひるご飯のない日が何回かあって、でも、おやつと本だけは、いつもあった。時計は毎日なってたから、いわれた通りに食べて、本を読んだ。お父さんは毎日帰ってきて、くたくたになってる日もたくさんあったけど、かならず、ごめんねってあやまって、読み終わった分だけ新しい本をくれた。本をくれるとき、いい子だね、えらいね、じまんのむすめだよってほめてくれるから、わたしはもっともっと本を読んだ。丸くない字も読めるようになったよっていったら、頭がいいな、それは漢字と言うんだよって、お父さんがおしえてくれた。

 それから、少しずつおひるご飯のない日がふえていって、今度はお父さんが帰ってこない日ができた。

多分、最初は1ヶ月に1回くらい。それが、少しずつ増えていって、いつの間にか、1週間に1回になった。

 そのころになると、おやつはキッチンにしまってなくて、テーブルの上にどんっ! て山になっていた。温かいご飯を食べることも無くなっていって、固まった食べ物が増えた。温めなくていいし、作らなくていいご飯。長方形の形をしたぱさぱさした食べ物とか、飲み物みたいに食べる、ゼリー。ゼリーはキャップを開ける力が足りないから、ハサミを使って切って、破って食べた。

夜ご飯は時計が鳴らないから、時間を見て、17時に食べる事に決めた。それから20時になるまでお父さんを待って、お父さんが帰ってこなかったら寝るようにした。

 お父さんは、帰ってくると、たくさんごめんねって言ってからほめてくれる。それから時々頭を撫でてくれる。だから、嬉しくって、毎日一生懸命本を読んだ。本を読むのが好きになった。


 でも。

お父さんは、1週間に1回しか帰ってこなくなった。


 ある時、お父さんが帰ってこないんじゃないかと不安になって、玄関の外に出たら、たまたまそのタイミングで帰ってきたお父さんに凄く怒られた。悪い子だ、お父さんは悲しいって。それからは、帰ってくるとほめてくれるけど、もう、撫でてくれなくなった。

 怒られた日からお父さんと会って3回後の週だった。ご飯が足りなくなった。

1週間を過ぎて、ご飯がなくなっちゃった。おやつしか残ってなかったけど、お父さんは帰ってきてくれると思ったから、残ってるおやつをご飯の代わりに食べる事にした。明日帰ってくるかは分からないから、おやつを節約して、ちょっとずつ食べる。

 1日のご飯は朝と夜の2回。カロリーっていうのをちゃんととらなくちゃいけないらしいから、おやつ全部のカロリーをみて、一番カロリーが多いものと少ないものをあわせて食べる事にする。お水はいくらでもあるから、お腹がなる程すいたらお水で誤魔化しながら、本を読む。お父さんが帰ってきたとき、いっぱい褒めてほしいから、たくさん本を読む。

 そうやって本を読みながら、どこかで、お父さんが本当に帰ってくるのか、分からなくなっていった。


 本当に、お父さんは帰ってきてくれるのかな。


 気付かない内はよかったけれど、その不安を頭の隅っこの方に見つけてしまって、どんどんと膨らんでくる。帰ってくるよって思いたいのに、その日の夜も帰ってこなかった。自分を誤魔化しながら、お父さんを待つけど、次の日も、その次の日も帰ってこない。

 待てば待つ程食べ物がなくなって、不安が大きくなって、温もりが恋しくなった。気のせいか、体も思うように動かなくなってくる。

 水道をひねるために腕を上げるのも辛くなってきたから、今の内にいっぱいお水を出しておく。おやつも一つ二つと減っていって、ご飯代わりにし始めてから、4日目になったときにはゼロになった。お腹がすいてたまらないけど、何もないからお水を飲む。気をまぎらわせようと思って本に手を伸ばすけど、もう、ページを1枚1枚めくる動作が辛くて仕方ない。

 お水だけは飲んでるからおトイレには行きたくなるけど、おトイレに行くのにもすごく時間がかかって苦しい。

 だんだん動かなくなっていく体で、お水だけはいっぱい詰まってる体で、私は赤ん坊みたいに声を出す元気もないまま、気付いたら泣いてた。


 死んじゃうのかな。


そう思ったけど、自力で外にでるっていうせんたく肢は私にはなかった。そんな事したら、お父さんが帰ってきたときに、良い子だね、偉かったねって褒めてくれないと思ったから。もう、絶対に頭を撫でてくれないんじゃないかと思ったから。何より、私の事嫌いになっちゃうんじゃないかって、思ったから。

 私は、自分が死んじゃう事よりも、何よりも、お父さんが私を撫でてくれなくなるのが、怖かった。だから、絶対に自分で外に出なかったけど、本当に体が動かなくなってしまう前、お父さんに会いたくて、芋虫みたいな動きで玄関へ行った。

 もう、目も開かない。口も開かない。涙が止まらずに流れ続けてるのを感じながら、まぶたの向こうの光も分からなくなって、世界が真っ暗になった。



 閉じた押入れの中みたいに暗い世界で、膝を抱えて小さくなっている。

上も下も、どこにも何も触っていないここで、赤ん坊みたいに小さくなっていると、なんだか安心する。

 わたしはお家にいたはずなのに、いつの間にか、この暗い所にいた。開かないまぶたの向こうは今も暗い。ずっと暗い。

 あんまり動いてくれない頭で、時間がどれだけ経っているか分からないけど、一生懸命考える。


 ここは、どこなんだろう。

 わたしは、死んじゃったのかな。


 そう思ったけど、ここは、絶対にお家とは違うものがあった。それが、声だった。

多分、1人の人の声。最初は私みたいな、小さい子の声のに、どんどん低くなっていった。声が変わったのに不思議だけど、多分おんなじ人。声が聞こえる度に、この世界が温かくなった。お風呂みたい。

 今日の天気とか、今日のご飯がどんなだとか、最初はそういう話ばっかりだった。でも、声が低くなって、それが少し変わった。


 出ておいで。


そう言われるようになった。優しくって、怒ってないけど、私を呼んでる。

 その頃になって、私の周りの何もない世界が、柔らかい膜のようなもので覆われているのに気付いた。ちょっと歪んでる気がするけど、丸い入れ物の中に私が丸くなっている。

 その膜に気付いてから、私は自分の体に感覚が出来た事にも気付いた。そっと力を入れると、私の手は膜を優しく撫でた。体が動く。


 出ておいで。


また言葉が降ってくる。声は凄く優しくて、うんって言いたくなったけど、膜を破って外に出る事は出来なかった。

 外に出たら、もう、この温かさを感じられなくなるんじゃないかって思ったから。お父さんが怒って悲しんで撫でてくれなくなったみたいに、もうずっと冷たいままになっちゃうんじゃないかって思ったから。

 そう思うと、怖くて外に出られなかった。温かい声の人に会いたい気持ちがあるのに、怖い気持ちが勝って、動けなかった。

 小さく小さく丸くなって、自分の体をぎゅっとして。そうやって声をやり過ごしてた。

 でも、ある時、それが少し変わった。


 出ておいで、怖くないよ。


そこまでは一緒。


 私が怖いものから守ってあげる。君の傍にずっといるよ。


そんな声が降ってきた。

 信じられなかった。信じられなかったけど、本当だったらいいと思った。


1回。

2回。

3回。


 そんな回数じゃ終わらなかった。優しい声で、いつも、いつも、守ってあげる、大丈夫だと言う。

そんな風に言われ続けて、どんどん信じたくなっていった。少しずつ、怖い気持ちと会いたい気持ちのバランスが変わっていく。

 そしてとうとうやじろべえみたいにぐらぐらとしてきていた。会いたい、怖い。怖い、会いたい。そんな時に。


 大丈夫、私が守るよ。出ておいで。


そうもう一度言われて、私のやじろべえがぐらっと、片方に傾いたまま止まった。

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